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豊倉賢略歴
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2005 B-2,3:「撹拌槽型晶析装置内に懸濁するカリ明礬結晶が2次核発生するための最小粒径と
         その結晶による2次核発生速度」


1)はじめに:
1972年にチェコスロバキアのプラハで晶析に関するWorking Party 
Crystallization (WPC)が企画した工業晶析シンポジウムが開催されて以降、工業晶析操作に関する研究が活発になり、2次核化現象に関する研究も行われるようになった。豊倉研究室では研究対象を工業晶析操作で重要な課題に焦点を絞り、再現性の良いデータを取得して研究を進めた。その研究では装置内に懸濁している結晶粒径を比較的均一にして操作しやすい流動層種晶による2次核発生速度の研究を行い、特徴あるオリジナルな成果をあげた。1970年代の世界の晶析装置は内部に撹拌翼を設置したDTB型装置で代表された混合型が広く使用されていた。そのため、欧米の2次核発生に対する研究は装置内に懸濁する結晶と撹拌翼などの固体との衝突による核化現象が主であった。豊倉研究室では混合型装置では装置内で発生した結晶核の多くはそのまま装置内に懸濁して成長し、ある大きさになったところで2次結晶核を発生するのでないかと考えて研究を行った。その詳細はJ.Chem.Eng.Japan, vol.10,No.1,35 (1977), メSecondary nucleation of K-Alum by Minimum size seeds in a stirred vesselsモ ( 晶析工学の進歩p.222〜227(1992))に掲載されてるので詳細はご覧いただくとして、ここではこの研究の特徴とこの研究の結果初めて明らかになった装置内の核化現象が工業晶析操作に影響することについて紹介する。

2)標題の研究をするために組み立てた実験装置・操作法
  実験装置・操作法は豊倉研究室で流動層種晶による2次核化現象研究のために考案した装置・操作法を発展させてFig.1に示した実験装置を組み立てた。

この装置のフローに記された番号の設備はそれぞれ以下のように使用した。すなわち、@はFに示した流動層装置およびGの撹拌槽内結晶スラリーを所定の操作温度に維持するために設置された恒温水槽で、その中の流動層装置ではここを通過した過飽和溶液内では所望の2次核を発生するように所定量の種結晶を設置出来るようにした。そこに供給される溶液はEの熱交換器で初めて所定の過飽和度になるように冷却水温度を制御出来るようにし、ここより晶析装置に供給される装置底部には硝子ビーズを充填して整流した過飽和溶液が結晶懸濁部に供給されるようにした。この晶析装置を通過した溶液は装置上部の排出口より直接Aの溶解槽に供給されるようになっていた。溶解槽に入った溶液は直ちに昇温し、ここに供給された胚種や微小結晶はすぐ溶解した。このようなループで装置系内を循環した溶液が定常になったところで装置Fの上部の排出口を閉じ、その溶液をさらに上昇させて@の水槽内に設置された撹拌槽内に供給できるように流れを変更した。撹拌槽内の過飽和溶液レベルが槽内に設置された撹拌翼を越えたところで、回転を開始した。この撹拌槽内に供給された溶液量が充分になったところで晶析装置上部の排出口を開いて溶液撹拌槽内の溶液量を一定に保って操作を続けた。この撹拌槽内の状態は当初は何も変化はないように推移したが、しばらくそのままの状態で撹拌槽内の撹拌を続けると、可成り時間が経過した段階で、微小結晶が懸濁していたのが確認された。この操作の過程で、撹拌槽内の溶液を5分おきに採取し、それを晶析装置が設置されたと同じ温度の水槽中に浸漬してシャーレ内入れ、その溶液を撹拌槽内とほぼ同じ過飽和状態に保った。それは暫く時間が経過すると、2005B-2,1で紹介した記事と同じようにシャーレ内に微小結晶が生成したのが確認された。その時発生した結晶数は前回に紹介した論文と同じ方法にて計数した。

3)本実験で実測された2次結晶核発生速度:
  2)の実験で実測した結晶核発生数を、撹拌槽に溶液を供給し始めてから装置内懸濁する結晶核数を実測するために溶液を採取した時までの経過時間に対して点綴すると、Fig.2に示すようになる。

Fig中の縦軸nは発生した結晶核数、横軸 は過飽和溶液を撹拌槽に供給してより結晶核数を計測するためにその溶液を採取するまでに経過した時間である。このテストの撹拌条件はFig中に示した通り640rpmであるが、ここに点綴した測定値は経過時間の短い範囲においては僅かな増加傾向を示した。しかし、経過時間が長くなるとある時間を経過したところで結晶核数が急激に増加した。そこで、経過時間の短い範囲の結晶核数の漸増は撹拌槽内の1次核発生によると考え、Fig.1のF流動層装置に結晶種を設置しないままのテストを行った。そのテスト結果はFig.3にtestBの波線で示した。このテスト条件は過飽和度 ΔC= 0.0410 および 0.0291 であった。これらのテストでは撹拌槽内の結晶核数は経過時間0の段階ではほとんど測定できなかったが、それぞれのテストで経過時間15分および35分の時点までの範囲では結晶核数は徐々に増加した。しかし、これらの経過時間以降は測定された結晶核数は急激に増加した。このテストBにおいてはテスト開始時に種晶は存在しなかったので、結晶核数が徐々に増加したのは1次核発生によったものであり、また結晶核数が急激に増加した経過時間15分および35分経過の段階では最初に発生した1次核が成長して新たにベービー結晶核を生める大きさになったことによる2次結晶核が発生したと見なした。ここで、Fig.2にデータを実線で相関した測定結果を検討する。この実験ではFig.1の装置フロー図のFの装置にはここで2次結晶核が発生するように結晶種を添加し、それにて流動層を形成してテストした。

その結果、この流動層を通過した過飽和溶液内には2次結晶核が存在し、それが、そのままGの撹拌槽に供給された。この実験でテストBと同じ操作過飽和度ΔC=0.0410および 0.0291のテスト結果と比較する。これらの実験では撹拌槽に供給された過飽和溶液に中には既に2次核が存在していたと考えられる。そのことと、Fig.2に示された実線の経過時間0の外挿値を比較すると、明らかにそれらの過飽和溶液に中に結晶核が存在していることを示していた。これらの過飽和溶液を撹拌槽に供給した溶液内の結晶核数増加の度合いを示す実線の勾配は、テストBの同じ過飽和度の波線勾配と同じとみなすことが出来た。そのことよりこの段階の結晶核の増加はこの過飽和溶液内に懸濁すると考えられる2次核の影響は受けておらず、1核化現象によるものと考えられる。一方、これらの実線が折れて、急激に増加に転じる部分をテストBの結果と比較すると操作過飽和度が等しい場合は同じ経過時間で装置内の結晶核数は増加に転じており、この同じ経過時間で2次核が発生したと考えられた。しかし、そこでの2次核の発生速度はその過飽和溶液内に存在したFの流動層装置で発生したと考えられる2次結晶核数の影響を受けており、その操作条件によって大幅に異なっていた。

4)2次結晶核を発生する最小結晶粒径:
  Fig. 2に示した回分撹拌槽中の過飽和溶液内で2次核が発生したと見なされた経過時間と、その2次核を生んだと思われる種結晶がベービー結晶核を生める大きさになるまでの経過時間における結晶の平均成長速度との積によって「2次結晶核を発生する最小結晶粒径」を推算することが出来ると考えた。しかし、非常に小さい結晶の成長速度を正確に求めることは容易でなく、現時点でも可能であるか否かは明らかでない。ここで対象にする微小結晶の成長速度は、2次核を発生する最小結晶粒径を推算するためのものであり、微小結晶としては比較的粒径の大きい100〜200ミクロンの結晶を対象に実測された結晶成長速度raに対する相関式(1)を用いることにした。

(1)


この式とFig.2に示した2次核発生までの経過時間との積より最小粒径Lminを求めて、操作過飽和度に対して点綴するとFig.3となった。

これより、カリ明礬系における2次結晶核を生む最小結晶粒径と操作過飽和度の関係式は式(2)となる。

(2)

5)2次結晶核を発生する最小粒径結晶による2次核発生速度
  Fig.1 の実験装置フロー中のG回分撹拌槽で2次結晶核を発生する最小粒径結晶数はFig.2中の撹拌槽内装置容積当たりの結晶数を操作時間(Fig.中では経過時間と同じ)に対して点綴した相関線が上方に折れ曲がった時の結晶数より算出される。溶液内のカリ明礬結晶の形状はほぼ正八面体と近似できるのでFig.2の点綴より決定できる最小結晶粒径より、2次核発生に寄与する1個の最小結晶の表面積は決定できるので、装置内で初めて発生する2次核発生に寄与する種晶の全表面積は決定できる。それらより装置内の最小種晶表面積当たりの2次結晶核発生速度f'は容易に算出され、それを撹拌翼の回転数nrや操作過飽和度ΔCに対して点綴するとFigs. 4&5となる。

ここで、Fig.4の点綴に対して3本の相関実線を引いたが、これは比較的データの多い過飽和度0.0292〜0.0297のデータの相関に合わせたものであり、Fig.5の相関では2005B-2,1で扱ったカリ明礬系の流動層種晶の2次結晶核発生速度に対する操作過飽和度の相関をそのまま適用した。その結果、これらの相関式は式(3)および(4)となった。

(3)

(4)

そこで、これらの式を組み合わせて、2次核発生速度に対する操作過飽和度と撹拌翼回転数を組み合わせた指数関数を提出し、そのグラフに取得データを点綴するFig.6の相関を得、式(5)の相関式を得た。

(5)

6)2次核発生のための最小種晶粒径に関する研究の意義:
  過飽和溶液内に懸濁する結晶によって発生する2次結晶核が工業晶析操作に大きな影響を与えることは工学系の研究者、技術者によって既に経験されている。しかし、結晶核の発生に対する再現性あるデータの取得は容易でなく、核発生現象を工業晶析装置・操作の設計やそれによって生産される結晶製品の向上に適用することは容易ではない。それは一口に結晶核発生と云ってもその操作条件によって支配的に関与する機構が異なるからで、この分野の研究は今後益々活発に行われることを期待する。今回を含めて3回のHPに豊倉研究室で行った初期の2次核化現象に関する研究とそこで得られた新しい研究成果を紹介した。その主なものを要約すると:
氈j過飽和溶液内に結晶が存在してもそれは溶液内で流動して初めて顕著な核発生を起こす。
)過飽和溶液の中に懸濁している結晶も穏やかな流動で、激しい結晶の衝突がないような状態では、シェヤーストレスによる2次核発生が支配的なことがある。この場合も2次結晶核を生む結晶表面の状態は核発生速度に影響する。。)過飽和溶液内に懸濁結晶が存在してもその粒径が溶液過飽和度によって決まる2次結晶核を生む最小粒径以下であると結晶核を生むことは出来ない。
「)微粒結晶を生産する場合、過飽和溶液内で発生する1次結晶核を所望粒径に成長させる必要がある。
」)工業晶析操作で微結晶が生成するとそれを濾過分離することは困難なことがある。その場合適度の種晶を添加し、それにより適切な2次核を発生させて成長させると成長した結晶を濾過分離するための母液濾過速度を大きくすることが出来る。しかし、その結晶が大きく成長して最小粒径を越えると新たな2次核を発生するようになり、その微小結晶が大きい結晶の間を詰めて濾過速度を低下させてまた濾過分離が困難になることがある。

この様に過飽和溶液内の核発生現象は工業操作に影響する種々の現象を起こすことがあり、まだまだ多くの課題がある。7月以降のHPにおいても核化現象に関する豊倉研究室のその後の研究を紹介する。

2005年5

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