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2005 B-2,1:硫酸アルミニウム12水塩の二次核発生速度


  本稿は1975年 [ 化学工学論文集Vol.1,No.3,262(1975) ] に掲載した論文の裏話を紹介する記事で、実験条件や解析法の詳細は上記原論文をご覧頂きたいと思います。

1)実験法:

  実験装置の概要をFig.1に示す。この実験の特徴は系内を循環する未飽和溶液は熱交換器4を通してはじめて所定の過飽和溶液となり、それは直ちに晶析装置5に入るようになっている。晶析装置から排出する溶液は2つの排液口から出せるようになっているが、通常は下側の排液口を閉じておき、上の排出口より出て系内を循環するループを形成するようになっている。テストは晶析装置に1個の形状の整った粒径1〜2Bの明礬結晶を設置した固定単一種晶によるテストと数千個の粒径0.1@程度の多結晶懸濁系のテストを行った。晶析装置に核発生のための種晶をセットし、溶液を循環して定常になったところで、晶析装置の下側排液口を開き循環液がサンプリングセルを通過して系内を循環するように変える。このように変更したループを溶液が流れその状態が安定したところで、晶析装置からの溶液がサンプリングセル内を満たしていることを確認して、下側排液口からの溶液流を止め、元の上部排出口から溶液を排出するように戻した。晶析装置からの溶液はサンプリングセル内に満たしたまま、その溶液温度を晶析装置と同温度に保って静置した。セル内の溶液は無色透明のままであったが、時間が経過するとセル底面に微小結晶が生成するのを確認した。その微小結晶を光学顕微鏡で観察し、その結晶の粒径変化をサンプリングセル内の溶液流れを止めてからの経過時間に対して実測・記録した。それを点綴するとFig.3のようになる。Fig.3の横軸はサンプリングセル内に蓄えられた溶液が、晶析装置内に設置された結晶を通過した時間を基点にしたそれからの経過時間である。縦軸は実測された結晶粒径であり、それらの実測値の点綴は直線上にあった。これらの横軸経過時間を短い方に外挿すると原点を通過した。このことより、2次核化現象ではほとんど待ち時間なく2次核を発生していると考えた。・・・・この現象と対比して考えると理解できることは工業プラントでも経験している。・・・・また、操作過飽和度の大きい時の点綴は結晶が大きくなるとFig.3に示された直線からはずれた。これはセル内結晶の成長によりセル内溶液過飽和度が低下したためと考えている。また、セル内結晶粒径変化の測定より結晶成長速度を求め、それを操作過飽和度に対して点綴してFig.4を得た。これより特に粒径の小さい部分の結晶成長速度もFig.3の点綴の勾配から求めたものを使うことができると考えている。

2)2次核発生速度の測定:
 Fig.1のサンプリングセル内で確認された結晶の粒径はほとんど揃っていた。ここで確認されたセル内の全結晶数を計測し、セル内溶液容積当たりの発生結晶数を測定した。この測定値を系内循環の溶液がサンプリングセルを満杯するのに要する時間で割り、晶析装置内存在する結晶による結晶核発生速度を求めた。また、固定種晶による2次核化現象を考えると、種結晶と固体との衝突のなく、それによる2次核発生ではコンタクトニュークリエーションは起こっておらず、種晶の表面積が2次結晶核発生速度に直接関与すると考え、結晶核発生速度を結晶表面積当たりで表示した。


 多結晶懸濁系の2次核発生の測定実験においてもその実験結果を固定結晶による2次核発生速度の実験結果と比較検討することも考慮して、同様の整理を行った。多結晶系では溶液は晶析装置内を一様流となって供給されるように装置底部にストレイナーを設け、その上に種結晶による流動層を形成させて実験した。多晶系の実験結果において、溶液の空塔速度一定時のデータを操作過飽和度に対して点綴したものをFig.5, また操作過飽和度を一定にして、種晶層内結晶表面積基準の相当直径より計算したレイノルズ数に対して点綴したものをFig.6に示す。その結果を総括して点綴するとFig.7となった。それより流動層種晶による2次核発生速度は式(5)となった。
                             

 

(5)

  流動層種晶による実験で流速を遅くすると、結晶は沈降し固定層を形成する。この固定層種晶による2次核発生速度を測定しFig.7に点綴するとFig.中の逆三角形の点綴となった。これより固定多結晶による2次核発生速度は流動層種晶による2次核発生速度の相関線と平行になると見なし、式(6)を得た。

(6)

  式(5)、(6)を比較するとその定数項が大幅に異なるのは、固定層を形成する結晶の有効表面積が異なるためと考えた。また結晶流動層では懸濁結晶は相互に衝突することも考えられる。しかし、式(5)の過飽和度やレイノルズ数の指数が式(6)の指数と同じと考えると、本実験の操作範囲の硫酸カリウム・アルミニュウム12水塩系の2次核発生においてはコンタクトニュークリエーションの寄与は無視できると考えた。

3)固定単一結晶による2次核発生速度の検討:
  流動層種晶による2次核発生速度の整理と同様に整理した固定単一結晶の2次核発生速度はFig.8の点綴のごとく散らばった。Fig.8中に式(5)を示すとFig.8中の直線となり散らばった点綴のほぼ中央に引かれた。一方晶析装置内に固定された結晶の表面状態の変化を慎重に観察すると、溶液が直接当たる面と溶液流れの裏側になる面ではその結晶の成長によって面の状態が変わっていた。この系の2次核発生速度が結晶表面に沿って流れる溶液の粘性流によると考えると、結晶表面の成長状態によって2次核発生速度が大幅に異なることがあると考える。一方流動層種晶による2次核発生速度の散らばりが少ないのは流動層種晶が晶析装置内に多数存在し、それらが流動し、不規則に動いて各結晶の表面状態が平均化されるためと考える。

2005年1月

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