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豊倉賢略歴
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2005 B-1,1:2次核化現象研究を始めるに当たり

1)20世紀前半の工業晶析核化研究と工業晶析装置設計の概要:

  1900年代における核化現象に関する研究はOstwald,Miersに始まり、1950年頃まではどちらかと言えば基礎分野の研究者によって行われた。それらの主なものは準安定域と不安定域の境界を示す過溶解度曲線に関する研究、結晶核発生までの待ち時間(あるいは誘導時間)、結晶核を熱力学的に示した結晶臨界粒径、1次結晶核発生速度に関する研究などであった。しかし、晶析操作の操作条件と結晶核発生速度の関係は20世紀の後半までほとんど明らかになっていなかった。過飽和溶液内核発生についてはその溶液の中で自然発生的に生成すると考えられる結晶が存在すると、結晶の存在しない場合に比較して結晶核の発生速度数は大幅に大きいことは知られていた。一方、工業晶析操作では生産される結晶量と結晶粒径は極めて重要である。その時生産される結晶量は晶析操作が行われる前の溶液中に溶質が溶存している溶質濃度とその溶液量から算出される溶質の溶存量から晶析操作の終了時に溶液中に溶存している溶質量を差し引いた差から容易に求められるが、結晶粒径は生産される結晶数が分からねば推算された晶析結晶量から求めることは出来ない。一方結晶粒径は晶析操作中に溶液内の結晶が成長する平均成長速度が分かるとその操作時間より求められる。この晶析操作時の結晶平均成長速度は晶析操作時の操作過飽和度と操作温度等によって決定される。一方晶析操作中に発生する結晶数も操作過飽和度と操作温度およびその他の操作因子の影響を受けるが、それらの定量的な関係は全く明でない。晶析操作で安定的に所望粒径の結晶を所定量生産することは、操作条件を決定することより推定される平均結晶成長速度と操作条件で決定される製品結晶量と粒径の結晶が生産されることになる。また同じ条件で操作した場合の結晶核の発生数と操作条件から決定される製品結晶が同じものでなければならない。この二つの異なる推算結果は一致しなければならないが、その推算方法は未だ確立されていない。二十世紀半ばには操作条件を決めると結晶成長速度から製品結晶量と結晶粒径は何とか推算できるようになっていたが、その操作条件で生成する結晶数を予測することは出来なかった。そのため晶析理論で所望結晶を生産する装置・操作法を設計することは一般的には不可能で、生産対象となる特定の系の結晶を特定の装置で生産する技術に精通した特定の技術者のみが所望の製品結晶を生産できる晶析装置・操作を設計出来ると言われた。筆者が1960年代に晶析装置の設計理論を提出するのだと云った時、当時世界の晶析装置メーカーで最も知名度のあった米国Swenson社のBennettは無謀なことだという手紙を送って来たことがあった。しかし、1940年代にアメリカ、アラバマ州にあったTVA公社総合開発センターのMiller & Saemanが晶析装置の設計理論を発表して以来1960年代にかけて、アメリカ、ヨーロッパ、日本の先駆的な研究者は装置内の結晶成長速度と操作条件をベースとした晶析装置設計理論を研究して提出した。[その設計理論は平成16年度のHP(tc−PMT)で扱った。] 

2)1960年代〜70年代の2次核化研究:

  20世紀の半ばに研究された結晶成長速度に基づく晶析装置設計理論では、装置内で発生する結晶核数は装置設計で設定した結晶成長速度において所望結晶を生産するのに必要な結晶核数であると仮定していた。この仮定は稼働している工業晶析装置ではほとんど不可能であると考えられている。一般的には当時の晶析操作では、装置内で発生する結晶核は過剰になることが多く、その過剰部分の結晶核は微小結晶除去装置を設置することによって除去し、一見無謀と思えた仮定を妥当なものにする操作法が開発されている。この操作法に対して当時の晶析装置設計の第1人者であった W.C.Saemanは除去される結晶量を生産される結晶量に対して数パーセント以内に抑えるようにしないと生産コスト高となると警告している。このように考えると晶析装置の設計に使用する結晶成長速度を装置内で発生する結晶核数が所望結晶を生産するのに適切な数になるように(実際には装置内で発生する有効結晶核数を所望の結晶を生産するのに許容される範囲に入るようにすること)操作条件を選定することが必要になる。そのためには装置内における結晶核発生機構を明らかにし、操作条件と装置内における結晶核発生速度の関係を明らかにする必要がある。筆者はC.F.C.晶析装置設計理論を提出した1963年以降1970年頃にかけてその理論を使った工業装置の設計を行うことに力を注いだ。その結果、C.F.C.設計理論を使って工業晶析装置設計を行うことが多くなったが、晶析装置内の核発生を研究しなければならない必要性は高くなった。1966年から68年に滞在したTVAの研究所で2次核化現象に関する論文を読んだ時には、欧米の先駆的な研究者の2次核発生に対する認識の強さを感じた。1968年11月に2年間のアメリカの留学生活を終了し帰国し、翌年春の化学工学協会年会に参加した。その時開催された晶析セッションでは2次核に関する研究発表はなかった。一方、ヨーロッパにおける工業晶析についての重要性は高くなり、WPC ( Working Party Crystallization ) はEFCE ( European Federation of Chemical Engineering )で 1970年に承認されて発足し、1972年に初めて世界規模の国際工業晶析シンポジウムをチェコスロバキヤのプラハで開催した。そこではopening session に核発生関連の研究報告が設置され、特にMedford,USA のProf. Botsarisは“Effects of Secondary Nucleation in Crystallization Systems“ を展望講演で発表した。その他の二次核化現象の研究発表はLondon, Englandの Prof.Strickland-Constable, Torino,Itali, のProf. Pasoli, Delft,The NetherlandsのProf. De Jong, らが行った。Iowa,USA のProf.Larsonはポピュレーション バランスに関する研究発表を行い、2次核化現象の発表は行わなかったが、固定結晶面にロッドを衝突させて発生するコンタクトニュークリエーションに関する研究を行っていた。この国際シンポジウムを通して、晶析分野の先駆的研究者は皆2次核化現象に強い関心を示していた。

3)早稲田大学豊倉研究室における2次核化現象の研究:

  世界の2次核化現象の研究は、世界の工業晶析装置の趨勢がDTB型DP型に向いているのを受けて、コンタクトニュークリエーションに集中する傾向が見られた。1970年代初期の研究は2次核化現象に関する比重が高くなり、2次核化現象に関する最近の研究を纏め紹介する総説は多くなった。1974のAIChEのシンポジュームシリーズに掲載されたStrickland-Constable の総説で紹介された2次核化現象実験より、クリスタルオスロ型晶析装置内における2次核発生速度の推算が出来るようになるのでないかと考えて、小型円筒型晶析装置によるカリ明礬12水塩結晶の2次核発生速度に関する実験を行った。その実験の詳細は2005B-2,1で扱うので、ここでは、1)実験を始める前に順調に進んだ時に期待できる成果は何か? 2)この研究成果を発表した後にあった反響は何であったかを整理して扱う。

3・1)流動層種晶による2次核発生の研究が順調に進んだ時に期待したこと:
  先程も触れたが、コンタクトニュークリエーションについての研究はアメリカのProf. Larson 一派が既に行っており、可成りの成果をあげていたので、筆者らが後から始めてどこまでオリジナルな成果があげられるか自信が持てなくて、将来の展望を考えながら数年が経過した。先程も触れたが、クリスタルオスロ型晶析装置は均一粗大粒径を生産する装置として評価されていたが、装置内結晶の平均成長速度がDTB型装置やDP型装置のように大きく取れないのでないかと考えられ、特殊装置のように考えられていた。しかし、この判断はその形式の装置を制作しているメーカーの意見であり、その判断の妥当性について新たな検討が出来るのでないか? またこの研究成果として操作条件と2次核発生速度の関係が得られると、装置内結晶成長速度と有効結晶核発生速度に基づく工業晶析晶析装置の設計が出来るのでないかと考えた。

3・2)この研究成果の発表後に経験したこと:
@ 3・1)の前半で記述した従来の考え方で常識的になっていたことを白紙に戻した方が良いのでないかと感じたこと:
1959年にNewman &BennettがCEP に発表した論文では循環流速の早い装置では溶液の装置内循環に要する循環時間は短いので装置内平均過飽和度は大きく取れるが、循環流速の遅い形式の装置では装置内循環に要する時間が長くなり、平均操作過飽和度が小さくなる。この考えに従って、装置の生産性を考えると循環流速の早い装置の方が、結晶の生産性が良くなる。しかし、装置内結晶の生産性を結晶核の発生速度をベースに考えると溶液循環速度大きい系では結晶核生速度が大きくなる可能性があり、どちらが有利か考えるには装置内結晶核発生速度をに基づいて検討する必要がある。この議論はカリ明礬の2次核発生速度の研究結果が出てから3〜4年経過してから東京大学の宮内先生と討議したことがあった。この議論は化学工学協会関東支部主催の最近の化学工学講習会に書いた資料を御覧になった宮内先生がご指摘下さったことで、この問題は結論が出るまで未だ時間が必要と考えられる。
A 3・1)の後半で記述した結晶成長速度と有効結晶核発生速度に基づく晶析装置
設計法の検討は既に行われており、故青山氏は工業晶析装置の試運転データがこの新しい理論によって推算されることを示した。これは2005B-2,2で紹介する予定である。
B この流動層型晶析装置の2次核発生速度に関する研究は1975年の化学工学協会
関東支部大会で発表したが、その発表を聞いて下さった東京工業大学名誉教授の藤田重文先生は、発表した日の夕刻に開催された懇親会の乾杯前のスピーチで、筆者の発表は分かり易かったと話して下さった。藤田先生にはそれ以降お目にかかる度にいろいろご指導をいただいたが、兎に角学会発表はオリジナルな発表をすることが必要であると感じた。
C この論文は1975年にチェコスリバキヤのウステイで開催された国際晶析シンポ
ジウムで発表したが、その発表を聞いたポーランドのDr. KarpinskiはDr.Nyvltの紹介を受けて1977年に1年間早稲田大学豊倉研究室に留学してきた。その後1983年にドイツのDr.Ulrichが豊倉研究室に留学してきたが、それもこの論文の評価が日本への留学へとなったと思う。

2005年1月

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