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豊倉賢略歴
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2004 B-2,4:20世紀における工業晶析プロセスと晶析装置の発展

   日本における晶析技術は戦後日本の科学技術の進歩、化学産業の進展にあわせて発展した。平成3年末に発足した「産業技術と歴史を語る懇談会」の活動に呼応して平成5年に化学工学会内に発足した「産業技術史調査委員会」の活動成果として、“日本の化学産業技術ム単位操作からみたその歩みと発展ム”(社)化学工学会編を平成9年に出版した。豊倉はこの委員会の委員として斉藤委員長の下でお手伝いを行い、第6章“晶析”の執筆をした。ここでは同書のp153〜185に掲載された記事を要約した形で記述する。( 同書は平成9年12月24日に(株)工業調査会より出版されており、同書についての問い合わせは同社(電話 03-(3817)4701)または豊倉までお願いします。)

第6章 晶析の要約
 
6・1 はじめに(p153〜154) ;
晶析についての解説と1960年以降に日本企業が開発した晶析技術のリスト

6・2 晶析現象・工学・技術の概要(p154〜159) ; 
6・2・1 晶析現象と初期の晶析技術・・・・簡単な晶析実験を通して晶析特有な現象を説明し、初期の晶析操作で工夫された晶析技術の紹介から晶析と晶析技術の理解を求める。
6・2・2 初期の晶析技術と晶析工学の発展・・・・20世紀前半の工業晶析装置内起こっている現象とその検討に使われる工学理論。20世紀前半に開発され現在も使われている晶析技術とSaemanらの晶析工学理論および1950年代から1960年代に開発された日本の晶析技術について。

6・3 第2次世界大戦後の晶析技術(p160〜168) ;
  
1950年代後半から日本の大学における晶析研究も軌道に乗ってきた。

6・3・1 製塩用晶析装置の開発・・・・1950年代後半に日本専売公社を中心に4段階のステップを踏んで日本における標準型製塩晶析装置の開発を行い、日本独自の晶析プロセスを開発した。
6・3・2 化学工業プロセスへの適用・・・・1950年代より1970年代に開発された日本の工業晶析プロセスの概要が紹介された。さらに、日産化学工業で行われた分級層型晶析装置のスケールアップ法が紹介された。また、日本鋼管が開発した日本の事情に即した半水・2水石膏法湿式リン酸製造プロセスの特徴が紹介された。
6・3・3 晶析装置の操作条件・・・・晶析装置の安定操業に有効な操作条件の検討についての研究の状況が紹介された。1965年頃には、クリスタルーオスロ型装置が日本の化学企業によって独自に開発された。一方、晶析装置についての実績が不十分で、文献に紹介されるような操業に乗せるための苦労が紹介された。連続運搬層型晶析装置に設置された分級脚が十分機能しないための対応も記述されている。また開発研究用のパイロットプラントの操作を軌道に乗せるための方策や、精糖プロセスにおける回分晶析操作についての方策等も紹介されいる。

6・4 国産晶析装置の開発(p169〜174) ;
6・4・1 DP型晶析装置の開発(月島機械)・・・・日本で開発され、海外でも稼働しているDP型装置をDTB型装置と対比して紹介され、特にDP型装置の50重量%の製品粒経は従来型装置のそれに対して、同じ見掛け過飽和度において粒経が2倍程度大きくなったデータが示されている。(見掛け過飽和度は結晶生産量を溶液の装置内循環量で割って求めた値)
6・4・2 逆円錐型晶析装置の開発(大同鉛・・現クリスタルエンジニアリング)・・・・クリスタルーオスロ型晶析装置を改良して開発した装置であるが、さらに種々の改良を重ね装置の生産性の向上を図ったり、湿式リン酸液より高純度リン酸半水塩結晶の安定生産を可能にするなど種々の改善を示している。

6・5 晶析操作の環境対策技術への展開(p175〜178) ;

  廃液より溶存物質を結晶として析出分離すると、析出物質の純度がかなり高くなる特徴があり再利用の可能性がある。その特徴を生かした環境対策技術は注目され、すでに一部の技術は完成している。アルミニウム含有廃水は廃棄後PHが中性に近くなると水酸化アルミニウムの微粒が析出し、ヘドロの発生になり、国内外の深刻な公害問題になった。これに対して青山氏は長年積んだ経験を生かして濾過分離の容易な水酸化アルミニウム凝集物が生成するペレタイザーを開発して晶析技術を利用した環境対策技術を開発した。また、都市下水中のリン酸除去については荏原製作所、栗田工業、日立プラント建設サービスなどがそれぞれ独自に晶析技術を利用した脱隣酸プロセスを開発している。また、排煙中の亜硫酸ガスの除去技術も建築材としての石膏の供給不足が懸念されたときには、晶析技術を利用して開発研究が行われた。

6・6 晶析操作
の省エネルギー分離精製プロセスへの展開(p178〜183) ;
  第1次オイルショックを機に晶析技術を利用した省エネルギー分離精製プロセスに対する開発研究は2004B−1,4で扱ったように世界的に注目されるようになった。特に、エネルギー事情の厳しい日本においては非常に深刻な問題で、欧米諸国より積極的に行われた。長年晶析技術の開発を行ってきた月島機械はその経験を生かして4C(Counter-Current Cooling Crystallization Process)融液精製晶析装置を1982年に開発した。この装置は晶析部と精製・融解部からなり、特に晶析部は3段の交流晶析槽から構成して、効果的な熱回収を行うようになっている。一方、新日鉄化学は結晶生成・成長・精製・融解の行程を1本の塔型晶析精製塔 BMC( Back Mixing Crystallizer)で連続的に行う装置を開発しており、また呉羽化学工業もKCP(Kureha Crystal Purifier)を(独自なアイデイアで開発し、オルト・パラ・ジクロロベンゼンの分離精製に使用している。また、東京工業試験所は古くから冷凍法による海水淡水化技術の基礎研究を行ってきたが、この技術は三井造船グループで工業化研究を行い、輸入LNGの気化時に生じる低温エネルギーの利用による淡水化技術も開発している。特に東京ガスが開発したLNGの海水中での吹き出しノズルは安定操作に貴重なものである。

  これに対して、神戸製鋼所の守時らは高圧付与による固液平衡関係の変化に注目して短サイクル加圧晶析装置を開発している。この装置は液体の非圧縮性に着目した省エネルギー高純度精製装置であり、欧米各国の技術者からも斬新なオリジナルな技術として着目されている。



  20世紀は液相の取り扱いの容易さとそれより提出された簡便に操作できる技術によって非常に発展した。しかし、人類の将来を考える時急激な発展はよいのであろうか? これに対して、結晶で代表される固相は流体に比べ、輸送に手間がかかり、また表面と固体内部の状態は全く異なる性質を持つ複雑なものであり、人類が着実に進歩・発展してきたのは固体である地表の上で生活をベースにしたからで、これからも人類が着実な発展を続けるためには固相と流体相との調和が必要と考えている。そのためにも固体相のベースになる結晶をよく理解して、固体物質利用と消費と生成の調和を真剣に考える必要があるのでないだろうか? 

2004年9月

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