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豊倉賢略歴
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2004 A-2,4:海外で評価される晶析装置設計理論・設計法の構築


  工学理論は工業装置操作の開発・改善に貢献した時初めて評価されるものであるが、その可能性が大きいと判断された時にも拡大して評価される。しかし、後者は裏切られた時大きな反動があるので、特別な理由のある場合を除いてそのようなことは出来るだけ避けるようにすべきと考えている。国際交流を活発にすることの意義は2004A-1,4に記述したが、国際交流活動をするためには国内外の専門分野を同じくする人達から信頼されることが必要である。そのためには該当する専門分野の研究者・技術者から評価されるオリジナルな工学理論の構築や生産技術を開発した経験が必要である。
  オリジナルな工学理論の構築については晶析装置設計理論を例に2004A-1,4で扱ったが、オリジナルな理論を提出したのみではその理論は評価されたと見做すことは出来ない。 その理論が評価されるためには、それを工業装置・操作の開発に適用して所望製品を従来の装置・操作法より安価に・安定して生産できることが必要で、A-1,4で扱った晶析装置設計理論を如何に工業装置・操作の検討等に適用できるようにしたかを紹介する。

1) 連続分級層型晶析装置設計理論による工業晶析装置設計:

   工業晶析装置の設計式の誘導は、工業装置が最も良好な定常状態になった時を対象
に考え、その状態を表示する主要因子に着目してそれら相関を立式し易いようにモデル化して行われる。従って、その式をそのまま計算しても目的の製品を生産できる装置を設計することは出来ないことが多い。また上記A-1,4の式(1)で表わした設計式では、次のことは仮定した。

1-1) 装置内溶液は準安定域過飽和溶液で、装置内では結晶核の発生は起らない。
1-2) 装置内に懸濁する結晶は結晶懸濁流動層の流動特性式に従って層高方向に粒径分布は出来るが、水平面方向には均一粒径の結晶のみが懸濁する。従って、生産される結晶粒径は均一である。
1-3) 設計式の誘導で設定した理想操作状態は最初から存在するのでなく、スタートアップ時に操作法を工夫して、早く目的製品結晶を生産できる装置内結晶の安定懸濁状態を生成できるようにする。
1-4) 実際の操作において設定モデルと一致しないことに対して調整する必要が生じることが多い。その方法に対しても十分検討しておかないと工業操作として対応させて設計理論を適用することは出来ない。


このような問題を解決して、初めて晶析装置設計理論を工業操作に適用できる。それは時としてノウハウと考えられて現場技術者の裁量に委ねられることがしばしばあるが、本来科学技術として理論的に検討し、そこで提案された方法、結論はテストによって実証し、その妥当性を確認する必要がある。しかし、全ての問題を工学理論に基づいた科学技術として解決する時間的余裕がないことが多い。従って、プラントを建設し、製品を市場に供給するタイムリミトの範囲で晶析工学理論に基づいて一般的な対応策を提出・解決し、その制約時間内に工学理論に基づいて一般的な解決ができない場合、対象とする系の当面の生産目的を満足出来るノウハウと考えられる方法で生産装置・操作法を修正設計し、工業プロセスを提出して目的を達成する。如何に上記1−1)〜1−4)に対する解決法はここでは1966年にTVAに出発する前に豊倉が検討した枠内で記述する。(今後若年研究者・技術者が工学理論に基づいてオリジナルに提出した生産技術を持って海外に出掛ける場合の参考になればと思い、およそ40年前のことを記述します。)

2) 工業晶析装置設計理論と工業装置・操作の間のギャップとそのアプローチ:

   1−1)〜 1−4)に羅列した理論と工業装置・操作のギャップは設計理論を提
出した1964年からアメリカに出発した1966年の間に晶析装置に関心のあった日本の造船企業のエンジニヤリング部門の技術者や化学企業の技術部の人々からの質疑に対して回答したもので、回答としては充分なもと言えないものもあると思うが、企業技術者に容認されたものである。不十分な回答の中にはその後別の解答が出されたものもあるが、その差異はレベルアップしたと言う事であるので、ここでは、敢えて当時のものを記述するに止める。以下に1−1)〜1−4)に対応するものを2−1)〜2−4)に対応させ記述する。

2-1) 1−1)で仮定した装置内溶液を準安定域過飽和溶液と想定することは特別な系の特別な製品を生産する時は可能と見做せることもあるが、現実の工業操作では殆ど不可能である。もしそのモデルに近い溶液で結晶生産を行う場合、現行の工業装置では生産コストが高くなり、工業操作の対象にならない。見かけ上このモデルに近似する方策としては、微小結晶除去装置を晶析装置内に設置し、それによって装置内で起こっている核発生現象によって生成すると考えられる結晶核数を除去してこの設定モデルにアプローチする方法が一般的に取られた。一方、同型式のテスト装置でテストを行い、定常操作時の結晶生産速度とその時の塔頂・塔底における結晶粒径と溶液過飽和度および装置内の流動層高実測し、それより設計定数を求め、それを使った装置設計法では、モデルの差異の修正は設計定数の中に含まれると考えられるので、この方法はそのまま工業晶析装置設計に適用できると考えられる。その詳細は、2004A-1,4の参照文献(化学工学、29巻、9号、698(1965))に記述されているが、それは後に青山氏が発表した「パイロットプラントデータと工業晶析データ比較」の論文でも確認されている。(化学工学、37巻、4号、416(1973))。

2-2) 1−2)に記述された「装置内に懸濁する結晶は結晶懸濁流動層の流動特性式に従って層高方向に粒径分布は出来るが、水平面方向には均一粒径の結晶のみが懸濁する。従って、生産される結晶粒径は均一である。」は当時としては習慣的に容認されていたが、この種の装置を運転した技術者は得られたデータより、実験室規模の装置でも工業規模でも均一粒径の結晶が生産されないことを認識していた。これに対する対応は誰もほとんど検討を行なっていない。工業装置の設計をするに当たり、豊倉は塔頂部、塔底部の結晶の代表粒径として、実測された結晶の粒径分布の重量基準のモード径で代表させ、それを2004A-1,4 の式(1)の結晶粒径として使用することを提唱している。この考えの根底は2−1)と同様に設計定数の中に修正係数が含まれていると見なしており、それについての充分な検討は行われていないが、今迄のところ余り大きな問題は起ってない。

2-3)  1−3)に記述したように「設計式の誘導で設定した理想操作状態は最初から存在するのでなく、スタートアップ時には装置内の状態が全く異なっている。そのためそのまま操作を続けても晶析装置設計理論提出時に想定した装置内の状態にはならない。このような失敗は豊倉と一緒に研究していた学生も経験しており、また豊倉が指導していた企業技術者も注意はしたが同じミスをしていた。この段階を乗り越えられない技術者は晶析技術開発から撤退しているようで、これを乗り越えられた技術者のみが、工業晶析分野の専門技術者になることができる。そのため操作法を工夫して、早く目的製品結晶を生産できる装置内結晶の安定懸濁状態を生成することが重要である。安定した結晶流動層を晶析装置内に形成した時、装置内の結晶を流動させ流動層状態に保つ溶液流は乱流状態である。しかし、結晶の懸濁密度が極端に小さい時には懸濁流が一つの流れになり、流動層を形成することが出来ない。特にこの懸濁液が層流を形成し、それが装置内を流れると一部の結晶は溶液と共に装置内より排出されるので、装置内に結晶を蓄積させ、流動層を形成させることは出来ないことがあると考えられる。(その時の操作条件によっては、ほとんど流動層は形成されないと考えられる。)工業操作で装置内に充分な量の結晶を供給出来る場合は、それを供給することによって装置内をほぼ定常状態に近い状態にして操作を開始することことがのぞましいが、それが出来ない場合は装置内の溶液循環流を加減して流動層を形成しやすくすることが大切である。設計するためのデータを取得するには、装置内の状態が定常時に想定された状態になるのを待って実測することが大切である。

2-4) 1−4)に記述された「実際の操作において設定モデルと一致しない場合、それらを一致させるように、調整することが必要なことが多い。ここで対象になる、操作法や現象は多種多様であり、予めどのようなことが起こりそうか十分検討しておくことが大切である。実際に起ったことを列記すると次のようなことがある。工業操作を考えたとき塔底・塔頂部の結晶懸濁密度はどのくらいになるか? 設計理論の設定モデルでは種晶は添加すると考えてるが、多くの工業操作では種晶は添加していない。その時の対応の取り方をどうするか?この装置形式の選定はどのように考えるか? その選定基準はなにか? 所望製品粒径の結晶が得られない時どのように操作するか? 生産量を変更するにはどう対処するか? 配管内の閉塞についての対応?・・・・がある。具体的な対応策は生産現場の事情によって大幅に変わるので、ここでそれを記述するのは控えるが、その問題の中には今後の課題も含まれると推察されるが、それらは対象を限定することによってその解決策は見出されると考えている。豊倉が海外留学の前に、自分の専門分野を受け入れ機関側に印象つけるために設計理論を提示したが、そのような場合、それに関して誰もが考える問題点を、その理論を工業装置設計の立場で考えておくことが重要であった。この方法に対しても十分検討しておかないと工業操作として対応させることは出来ない。」それは招聘してくれた機関の期待を裏切ることになるので、人に接する場合このことを慎重に考えておくことが必要はある。 

2004年9月

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