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豊倉賢略歴
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2004 Aム2,3-1:

P-PMT・・E・D・・(Crystallization - Phenomena, Model, Theory, Process, Market, Technology, Production, Evaluation, Development)について

3-2 : C-PMT と研究者・技術者の育成


  2004A-1,3は大学における工学研究について豊倉が長年考えてきたことを書いたが、豊倉が研究室で進めた研究方針は研究哲学「 C−PMT 」によって構築されたものです。そこで、2004A-2,3では豊倉の退職記念で出版した著書、「 二十一世紀への贈り物、C-PMT 」に掲載された ” P-PMT・・E・D・・(Crystallization - Phenomena, Model, Theory, Process, Market, Technology, Production, Evaluation, Development)について ”(p.63~65)と ” C-PMTと研究者・技術者の育成 ”(p.61~63)を掲載することにした。卒業生はこれらを読むと学生時代を思い出し、 オリジナルな研究成果に向かって、新鮮な気持ちで活躍出来ることもあるのでないかと思い以下に記載します。

2004A-2,3-1: P-PMT・・E・D・・(Crystallization - Phenomena, Model, Theory, Process, Market, Technology, Production, Evaluation, Development)について 

  私の退職を機に記念出版を行いたいと申し出を研究室の卒業生から受けた。大学教授退官を記念した本は今までにも多数出版されており、私にとっても名誉なことですが、出版は卒業生の理解と協力が必要で、その出版は容易なことではなく、卒業生とも意見の交換を行った。そして40年間晶析研究を理解し、支えて下さった恩師、学会の方々、ともに研究を行った学会・産業界の研究者・技術者および研究室の卒業生のことを考え、21世紀に活躍する研究者や技術者の研究活動に役立つものを出版出来ればと、この本の出版に積極的に協力することにした。

  私が1959年4月に早稲田大学城塚研究室の所属となったとき、城塚先生から晶析操作をテーマにしては云われた。当時日本国内の晶析研究は東工大の藤田研究室と東大の宮内研究室で行われており、化学工学便覧の担当は旭硝子の八幡屋正氏が行っていた。また、晶析関係の文献としては化学工学便覧の他は、日刊工業新聞社発行の“新化学工学講座の晶析”、洋書ではBuckleyの“Crystal Growth”ぐらいであった。文献調査はI.E.C.のAnnual Reviewで紹介されたものが主な対象であったが、そこで扱われた大部分の論文は化学工学的と言うより理学的な論文であった。したがって、ここでの調査結果は直ちに化学工学的研究に参考になるものは少なかったが、ここで学んだ知識は後の晶析研究で得られた成果の検討に役立ち、オリジナルな化学工学的晶析理論(晶析工学基礎)の提出に役立った。私の行った最初の晶析実験は旭硝子の守山氏が発表した尿素添加系塩化アンモニア単一結晶の成長速度の測定に関する研究であった。実験条件は守山氏のレポートと同じにして行った積もりであったが、析出した結晶は樹枝状で、守山氏のレポートのような立方晶はどうしても得ることが出来なかった。この樹枝状結晶が共存した尿素添加塩安溶液を机の上にそのままにして1週間くらい経過した後、溶液内の結晶をよく見ると、樹枝状晶の枝の先に奇麗な小さな立方晶が析出していた。その頃、過飽和状態のことは文献で学んでいたが、実際には何も知らなかったことに気が付いた。もし、このとき溶液内の樹枝状結晶の枝先に生成した立方晶に気が付かなかったら、私は晶析研究を続けていたかどうかわからなかったと思う。このことから、大切な理論もそれが適用できる操作条件をよく理解しないで用いることは危険であることを学んだ。研究実験ではその現象をよく観察し、データを実測して、理論の適用できる条件およびその限界を知ることが必要であると考えた。この適用限界内の課題テーマを検討すると、工業的には短時日に新しい技術を開発し、成果を挙げることが重要である。しかし工学的にはさらに適用限界を超えた広い範囲に適用できる新しい理論を提出することが必要で、それはオリジナルな新技術の開発には極めて重要である。そのためには装置内で起こっている現象“P”に支配に関与する因子は何で、それがどのように関係するかを明らかにしなくてはならず、その手法としては妥当なモデル“M”を提出することが有効である。私は、このモデルを想定し、それを実験的に立証し、普遍性が認められて初めて新しい理論“T”が提出されたことになると考え、研究を続けた。それは単に一つの理論を提出することで、目的を達成することは出来ない。したがって新しい理論はそれと他の理論と共に新しいプロセス“P”として組み立てられ初めて工業生産に貢献する。ここで生産されるものはマーケット“M”のニーズに答える必要があり、そのためのテクノロジー“T”を開発して工業製品の生産“P”へと発展すると考える。


  1954年4月から始めた私どもの晶析研究はこのP(Phenomena)-M(Model)-T(Theory)の道を辿って理論を提出し、それを次の段階のP(Process)-M(Market)-T(Technology)-P(Production)へと発展させてきた。ここで得られた製品は広い立場からE(Evaluation)・D(Development)することによって新たなPMTPMTPへと発展させた。この展開の過程では晶析研究・晶析技術の開発に活躍された恩師、学界・産業界の研究者・技術者の御指導、御助言、御協力があった。既にお亡くなりになった藤田先生・宮内先生・中島敏氏・青山吉雄氏らからは貴重なご意見を頂いた。1965年の春に某造船企業の技術部で、私の提出した円筒型晶析装置設計理論の講演をしたとき、担当の役員からクリスタルオスロ型の装置壁の形状決定はどう考えたらよいかという質問を受けた。この質問に対しては装置壁の形状は装置内のスラリー流動状態の安定性をよくする形状と装置内の流動特性より装置容積当たりの結晶表面が大きくなるような形状の決定法があると答えた。そこで、後者に対して装置内に懸濁している結晶の粒径は装置内の高さ方向に分布があるが、その懸濁密度が一定になるような形状にし、その上その懸濁密度を最大に保って操作したとき、装置内の結晶表面積が最大値になると想定して装置壁形状の決定式を提出し、その装置壁形状を算出した。そうすると欧米で開発されたOslo型と異なる逆円錐形状の装置となり、これでよいかと半信半疑であった。この論文を発表して数ヶ月してから、住友化学に就職した中沢君から私の提出した装置形状とよく似た形状の晶析装置の特許が広告されているとの話を聞いた。これが当時の大同鉛Mの青山氏が開発した装置であった。これがきっかけで以降青山氏と密接な交際を続けることが出来た。青山氏は、私の提出した理論を検討し実務に利用すると同時にいろいろ御意見を呈示された。今から10数年前、藤田先生から、“お前は青山さんとの関係を大切にしなさい”という御助言を頂いたことがあった。晶析基礎現象を研究して新しい晶析操作・装置を提出しても実用化しなければならず、そのためにはマーケットの実状を知らねばならない。またそのような製品を工業的に生産するためには理論に裏付けられた技術が必要で、それを考案・開発して初めて有用な製品を生産することが出来る。大学で狭い範囲の研究を行っていると視野が狭くなる傾向があるが、幸いにも恩師・先輩に恵まれ有益な御意見を頂くことができた。しかし、この道は複雑で未知な部分があり、常にそれを解決しつつ前進しなければならなかった。その過程で、新しい研究課題もたくさん生まれた。その中から、工業技術の開発に必要なものを選択し、解決していかなければ工業的に意義のある新しい理論体系を提出することも新しい技術開発を行うことも出来ない。そのためにも恩師はじめ、学界・産業界で活躍されておられた多くの先輩研究者・技術者のお話をお伺い、おおくのヒントを得て研究を進めて来た。本誌の発行に当たり、私がいろいろお話を伺った方々のお考えを記事にして頂くことは、単に晶析工学のみではなく、これからの化学工学、化学産業の発展に貢献する研究、技術開発を志す諸氏に貴重なことであると考え、お世話になった恩師、学会・産業界の方々に“エンジニアリングリサーチ&エジュケーションフィロソフィー”のご執筆をお願いした。また工学および工業技術は種々の学問・技術の上に成り立っており、大勢の優れた研究者・技術者の協調が必要で、それらが継承・発展されることによってさらに発展し、大成されるものと確信している。そのためには将来活躍される研究者・技術者の養成も極めて重要であり、御執筆に当たっては晶析に拘ることなく、お差し支えない範囲で経験されたこと、また、日頃考えられていることをエジュケーションを含めてお書き頂くようお願いした。ご多忙のところ出版の差し迫った短い期間にお引き受け頂き、本誌に御執筆いただいたことを記して謝意を表します。


2004A-2,3-2 : C-PMT と研究者・技術者の育成 


  「大学では如何なる教育をして学生を卒業させるべきか」 という問にはいろいろ回答があると思う。所詮人生には終焉があり、その時一生を振り返って満足できる人間を育成できればと考えている。

  最近日本の教育はよく討議されるようになっているが、教育は本来括一的に行うものではない。私、戦時中は国の方針で検定された国定教科書に従って括一的な教育を受けたが、戦争直後は教育界も混乱して国としての方針のない時代が続いた。この時代は学校の宿題もなく、自由な時間が充分あって、自分自身で学習したいことを充分勉強できた。しかし、最近大学に進学する学生の多くは試験でよい点を取ることを勉強と思い、よい成績を取ることのみに満足して、勉強した内容に対して自分で納得できる評価を与え、発展させることを考える学生が少くなっている。過日学会のある会合の懇親会で会った国立研究所のある所長さんは、最近の博士の中には上司に何を研究したらよいかと質問するのが居ると驚いた話をしていた。修士過程を終了した卒業生の中には与えられた研究課題に対してどうやって研究したらよいのか分からず、上司に尋ねる研究所のスタッフも多いと聞いている。最近素質のない学生でもスパルタ教育でテクニックを憶えよい成績を取ると実力のある学生と錯覚する先生や学生が増えているのではないか? しかし、あまり素質のよくない学生には既成の理論をよく勉強させ、それを使えるようにしてその範囲で応用研究をやらせるということはある。そのような教育を受けて既成の学問・技術を充分駆使できるようになった技術者はそれなりに世の中の役に立つ技術開発を行うことができ、技術者として一応評価されてよいと思う。そこで、このような技術者をAグループとする。それに対して非常によい素質の技術者Bが居たとする。素質のよい技術者の中には何でもよく出来る人がいるかもしれないが、その中でもずば抜けて得意な分野をもっているものをこのBの範疇の技術者と考える。本来、グループBの範疇にある技術者が才能に恵まれ、複数に分野で才能を発揮して、一つに絞れない技術者は、何方かといえば不幸でなかろうか? よく社会で活躍する人の中には、日の当たる分野は時代とともに変わるので、その時代の変化に即応して、何でもこなせるようにすることが大切と云う人がいる。これは終身雇用時代には確かに重要な一つの生き方であるが、これからの時代には真のスペシャリストが重要であり、世界に通用する研究者・技術者になるためにはグループBのことを真剣に考えることが大切と思う。複数の分野に高い関心のあるスペシャリストが一つの分野を選定すると言う事はその中味から決めることではないと思う。学問であれ、技術であれ、その対象を限定して考えるとその応用範囲は必ずしも広くないが、その奥にある本質的なもの対象にすると、その考えは種々のものに共通して適用できるものであり、また、真のスペシャリストになるためには一つの考え方でも、そのオリジナルな哲学は共通して広い分野に適用できる域に達しなければならない。このように考えると、AとかBとか最初に決めて進めるべきでなく、気がついたらいつの間に自然に決まっているものである。その意味で、指導者は将来ある技術者・研究者に何をなすべきかを指導するのでなく、指導者自身はかくかくしかじかの時には過去このようにしたことがある。その結果について自分はどのような判断・評価をしているいう参考意見を種々提供することが一つの個性あるスペシャリスト教育法になるのでないだろうか? そして、いろいろのことを考える時、まず第一段階としてPMT(Phenomena-Model-Theory)を考え、この研究開発法で新しい理論が提出されれば高度なオリジナリティーがあるものが提出出来る可能性が高くなる。しかし、それは無理に出そうとして提出できるものではない。過去の手法を活用して無理にオリジナルな理論を提出しても次の発展が困難になるので、この理論展開は慎重にすべきである。

  工学は基礎学問と物を生産する技術の基となる学問とから成り立っている。ここで、工業系大学の卒業生は有用な物質を生産する技術の概要を知らなくては基礎学問を学んでも、その意義を十分理解することは出来ない。また最近化学工学系の卒業生も大型装置が怖くて工場で働くことを嫌がり、大学の研究室と似ている研究所勤務を希望する者が多くなっている。これは一部の大学における工学教育や研究室での教育に迷いがあるのでないか。化学工場の建設は種々の工業技術の結集の上に行われるもので、特に低学年では化学工場を理解するのに必要な工学基礎からプロセス工学、工場技術の概要を学び、それらのすべてを概観出来る学力を身につけて初めて工学全般のバランスを考えながら専門科目を学習して産業の発展に寄与する研究や技術開発が出来るのである。

2004年7月


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