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豊倉賢略歴
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2004 Aム2,2:1975年にヨーロッパに紹介された新型晶析装置

「1975、Mullin,青山、豊倉の新型分級層型装置の討議」

  1975年9月に第6回工業晶析シンポジュームがチェコスロバキアのウスチで開催された。 このシンポジウムには私、青山さんと一緒に参加し論文を発表した後、3年ぶりに再びロンドンを訪問し、University College Londonの研究室にMullin教授を尋ねた。
そこでは、 第6回シンポジウムで、Mullin教授が講演した メ Crystallizer Design and Operationモ と青山さんが発表した の研究室で高性能新型分級層型晶析装置について討議した。 それらの装置の特徴は他の改良型装置と合わせて、2004A-1、2(5月)に記述したので、関心ある諸氏はそれをご覧いだくとして、ここでは青山さんが発表した論文“ Purification of H3PO4・1/2H2O by Crystallization ( Aoyama,Y.& K.Toyokura; Industrial Crystallization ユ75,413 (1976) Plenum Press ) ”の解説をする。

この論文は、主として肥料用に湿式燐酸製造法で生産される多種多様の不純物を含む燐酸を晶析法によって精製する技術である。 既に一部で抽出法による高純度燐酸の生産技術も開発されていた。 本研究では、これら精製法の比較検討を目的にしたものでなく、晶析プロセスで比較的開発が困難な粘度の高い燐酸水溶液から純度の高い燐酸結晶生産技術の開発研究である。この装置は高効率連続分級層型晶析装置として種々のプロセスに適用することが期待される。

1) 燐酸半水塩結晶の燐酸水溶液内における沈降の終末速度と晶析装置の選定:
 晶析装置は装置内結晶生産速度を大きくする装置形式を選定することが重要であり、そのためには、装置内結晶懸濁密度と結晶成長速度を大きくすることが必要である。 一方、晶析プロセスでは生産された結晶と母液を分離しなければならず、そのためには粒径の大きい結晶を生産する必要がある。 大きい結晶を生産するためには、装置内で発生する結晶核数を制御する必要があり、流動層型晶析装置内の2次核発生速度は同じ操作過飽和度・結晶懸濁密度において他の装置形式より小さく保ち易い特徴がある。その上、装置内溶液の循環流速を適度に制御することよって装置より排出する結晶は粒径の揃った大きいものを選択的に生産できる。従って、流動層タイプの晶析装置は粒径の大きい結晶の生産に適した装置である。 そこで分級層型晶析装置を設計するには、装置内に懸濁する結晶の沈降の終末速度を測定することが必要である。そのために Fig. 1 に示すように円筒型メスシリンダー内に濃度既知の湿式燐酸水溶液( 原則として工業生産プロセスで生産されるものと同一組成のもの )を入れ、それを温度制御が可能な水槽中に浸漬して実験した。 

            

 


操作ではシリンダー内の溶液温度は水槽温度を制御することによって燐酸半水塩に対する飽和温度とした。 ここで、結晶の沈降終末速度測定に用いられた結晶はあらかじめ標準ふるいで篩分したものを用いた。この測定では、溶液が褐色に濁っているので、その中を沈降する結晶を確認するために、Figに示されるように上下2箇所をランプで照明し、そこを通過する時間より、沈降速度を求めた。測定結果をFig. 中の表に示した。この沈降速度は結晶粒径の二乗で相関された。
分級層型装置と混合型装置を考えると結晶の沈降終末速度がアレンの法則が適用できる範囲では分級層型装置の選定が考えれ、ストークスの法則が適用出来る範囲だと混合型の選定が考えられる。この通則に従うと燐酸半水結晶生産のための装置は、混合型装置の選定が考えられる。しかし、混合型装置で生産される結晶の粒径分布は広くなり、均一粗粒結晶の生産には分級層型が望まれる。しかし、この系に分級層型を選定すると供給される溶液の装置内滞留時間は長くなり、脱過飽和度は大きくなるので、装置内平均結晶成長速度が小さくなる。その成長速度の低下を防止するために、供給される溶液過飽和度を大きくすることが考えられる。しかし、その供給溶液過飽和度を大きくすると、結晶核の発生速度は大きくなり、所望結晶を生産できなくなる。 そこで、供給溶液の過飽和度を過剰な核発生速度を起こさない範囲に抑制して操作する方法を提出した。 そこで、この装置高さ方向の過飽和度の分布を考えると、到底部では大きな過飽和度で大きな結晶成長速度を期待できるが、その溶液が装置上部に向かって上昇すると過飽和度は急激に低下し、結晶の成長速度が小さくなる。 それを防止する方法として、温度低下による飽和濃度低下の大きいこの系に対して、装置壁にジャケットを設置した晶析装置を提出した。

2) 燐酸半水塩結晶の成長速度
燐酸半水塩結晶成長速度を内径8cm高さ100cmの円筒型晶析装置に粒径1mm以下の篩分けされた種晶を入れて成長実験を行った。実験に使用する溶液は所定濃度に調整したものを2立方メートル用意し、それを所定温度に保って所望の過飽和溶液とした。この過飽和溶液を装置底部に供給し、 装置内に懸濁するように入れられた種結晶を成長させたが、その結晶成長量はテスト装置に供給された種晶量の2倍以上になるように2時間成長させた。 その結晶の懸濁ベッドの高さは成長によって増大したが、その高さは、およそ40cmになった。その時の結晶成長量の変化をFig.2に示す。

          

 

Fig中△印で示した点綴は装置に溶液を供給する前に、溶液を未飽和域に保ち、晶析装置に供給する直前に冷却して所定の過飽和溶液として成長実験に用いた時のデータです。このプロットより成長時間に対する結晶量の変化は成長時間の2乗に比例しており、結晶粒径の成長速度は粒径に関係なく一定の速さで成長していると考え
た。Fig.2の点綴より結晶成長速度を求め、それを過飽和度に対して点綴するとFig.3 となった。


このプロットでは過飽和度の大きい範囲では同じ直線上にあったが過飽和度の低い領域では過飽和度に維持された時間によって成長速度が異なり、過飽和溶液内の状態が過飽和度の履歴によって大きく異なったと思われた。それより、装置内の晶析現象は現在考えられている影響因子のみで、完全に理解できる状況ではなく、晶析理論によって、装置内現象を予測する場合は、理論的に算出された結果が装置内の実測データと一致することを確認することが必要である。


3) ベンチスケールテストプラントによるテスト結果以上の基礎データよりFig.4に示すベンチスケールプラントを立ち上げ、実験テストを行った。この装置は大同化工機で開発された円錐形分級層型装置である。


テストのフローはFig.5に示すCycle 1, 2, 3の3通りである。

Cycle 1 ; この循環ラインでは装置本体壁外側にジャッケトによる冷却装置を設けず、
  通常の分級層型装置と同様の運転をした。装置本体内の結晶層を通過した過飽和溶液は装置上部より溢流し、溶液供給槽 B から供給される溶液と混合することによって溶液温度は上昇した。 同時に溶液中の燐酸濃度も上昇し、Fig.4&5 中の点C となった。この溶液は熱交換器で冷却され、Fig.4&5 に示される点Dとなり、熱交換器出口で装置内溶液中の最大の過飽和度溶液となった。この溶液はそのまま装置底部に供給され装置本体中に懸濁する結晶流動層を通過して塔頂部に到達し、循環を繰り返した。それによって成長した結晶は所望粒径になると装置底部に到達し、製品としてそこより装置外部に取り出される。この操作を続けて10時間を経過したところで過剰核を一度に発生し、循環溶液内に微小結晶が懸濁し所望粒径結晶を生産出来なくなった。そこで装置内を手直しして Cycle 2 で操作した。

Cycle 2 ; この循環ラインでは、長時間の運転でも循環溶液内に過剰核の急激な発生を防止するように装置上部より排出される過飽和溶液中のクラスターを完全に溶解するための溶解槽に供給しそこで溶液を加熱昇温して未飽和溶液とした。この溶解槽の滞留時間は30分で操作した。その結果この循環では、Cycle 1 と比較してFig. 5 に示すように循環流は A-C- は A-A'-C'-となり、供給槽からの供給液との混合によっても溶液濃度は変わらなかったが溶液温度は CよりC'となり、高温となった。この高温になった溶液を熱交換器で冷却してその到逹溶液温度は Fig.5 に示されるように 点D で操作した。この操作を行うと12〜14時間操業を続けたところで、熱交換器出口付近にスケール状結晶の析出するのが確認された。これは溶解槽で昇温した分の温度を降下させるために冷媒温度を下げたためにと考え、冷媒温度をCycle 2より高い温度で操作して熱交換器出口溶液温度を Fig.5 の点D'で操作する Cycle 3でテストを行った。

Cycle 3 ; この循環では装置底部に供給される溶液温度は高くなるために、そのままの操作では Cycle 2 と同程度の結晶を生産することが出来ないと考え、装置本体外壁外側にジャケットを付けそこに冷媒を供給して装置本体内の過飽和溶液を冷却する操作法を考案した。しかし、この操作では装置壁付近の結晶懸濁スラリーの温度低下は期待される本体内部のスラリー温度への降下は難しいと考え、このスラリーの半径方向の混合を助成して半径方向の温度分布の生成を抑制する特種撹拌翼を考案設置した。その結果 Fig.5 に示す A-A'-C'-D'-A-A'・・・循環フローを提出することが出来、安定晶析操作法を確立した。この結果 Fig.4 に示したベンチスケール装置を20倍スケールアップした工業装置を建設できた。

この装置は湿式燐酸より燐酸半水塩結晶を生産する装置操作法を開発した。 しかし、この研究はそのような製品の生産を可能にしたと言うのみでなく、DTB型やDP型装置で代表される混合型装置に比較して生産性が低いと言われて来た連続分級層型晶析装置の弱点をカバーし、均一粗大結晶を生産出来る道を開いたもので、21世紀の晶析装置に新しい選択肢を提供する研究成果と考える。

2004年5月

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