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豊倉賢略歴
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2004 Aム2,1:企業技術者との討議が切っ掛けで提出された新型晶析装置の話

「連続式円錐形分級層型晶析装置」

  2004A-1,1(3月)-1 「オリジナルな技術とこれからの技術者」の中で、元大同化工機の青山常務との技術交流の話を紹介した。 豊倉は1966年(昭和41年)より青山さんが仙台で開催された1989年8月国際結晶成長学会・工業晶析セッションの日にお亡くなりになるまで親しくさせていただいた。 それは、青山さんが開発した逆円錐型晶析装置(後の CEC 晶析装置)と類似の連続式円錐形分級層型晶析装置を理論的に提出し、そのことで昭和41年に青山さんが早稲田大学に挨拶に来られてからです。 以降種々の晶析装置・操作法について討議を重ね、国内外の学会に共に参加して日本の晶析技術・工学の発展に務めた。 ここでは、1965年頃の工業晶析装置を思い出し、豊倉が円錐形晶析装置をどのように研究して提出したかを紹介する。

  当時の晶析技術の開発に対する産学の協力関係は 2004A-1(3月)ム1 に記述したように順調であった。1965年の1月、晶析技術開発のお手伝をしていた某造船企業の本社技術部で、連続分級層型晶析装置設計の話をした。 その時、同社技術担当役員からクリスタルオスロ型晶析装置壁形状はどのように決定するか質問を受けた。その時、頭の中に浮かんだことは、クリスタルオスロ型装置内溶液は装置底部より上部に向かって上昇する。 それに対して装置内の結晶は重力による沈降速度で降下するが、この逆方向の二つの流れに従って装置内の結晶は流動層を形成する。この流動層の流動特性は溶液の装置内空塔速度、結晶の沈降終末速度および装置内に結晶が懸濁している部分の空間率による相関式で表わされる。ここで、空塔速度は溶液流量を装置断面積で割ることによって求められる。 また、結晶の沈降終末速度は結晶の形状がほぼ同一であると考えると粒径の関数となる。 一方、分級層型晶析装置では、装置底部に分級された製品粒径の結晶が懸濁し、その塔底部から塔頂方向に向かって順次粒径の小さい結晶が流動層を形成している。
  そこで、装置内径が一定の円筒形分級層型晶析装置を考える。装置内の結晶成長による溶液濃度低下は一般に小さいため、装置内の溶液空塔速度は装置の位置関係なくほぼ一定と見做すことが出来る。 また、装置内に懸濁する結晶には粒径分布があり、その結晶粒子郡が装置内で流動層を形成していると、沈降終末速度の大きい粗粒結晶は装置底部に懸濁し、その結晶より僅かに小さい粗粒結晶がその上に懸濁する。 従って、装置内に懸濁する結晶は装置底部より高さ方向に粒径の小さい結晶が懸濁するようになり、 装置上部に小さい結晶の流動層を形成する。この流動層は上述の流動特性式によって懸濁結晶粒径に対応する結晶懸濁率(直接は空間率が推算され、それより懸濁率がもとまる。)が推算される。このように円筒形流動層型装置では高さ方向に空間率の分布が生じ、塔頂部では空間率が最大となる。 一方、装置内の懸濁結晶成長速度(ここでは、結晶の生産速度となる。)は対象としている装置内の結晶線成長速度と容積当たりに懸濁している結晶表面積との積によって決まる。 小さな装置高の円筒形流動層内の結晶粒径は近似的に均一と見做せるので、その部分の装置容積当たりの結晶表面積はそこの局所空間率と結晶粒径より推算される。 それより、小粒径結晶が懸濁する部分の空間率は大きくなり、そこに懸濁する全結晶郡の表面積は小さくなる。 円筒形分級層型装置では塔底部の結晶懸濁密度を安定操作可能な最大値をとっても塔頂部では小さくなり、装置全体の平均懸濁結晶密度は塔底部よりそれより小さくなって、結晶生産に寄与する装置内結晶表面積は小となる。 工業晶析装置は装置容積当たりの結晶生産速度を大きくすることが重要であり。 円筒形分級層型晶析装置を基準に、それより装置容積当たりの結晶生産速度を大きくする壁形状の装置を設計することは、高効率流動層型晶析装置開発の一方法と考えられると技術担当の役員に回答した。

(高効率円錐形分級槽型工業装置の提出)
  この直後、円筒形分級層型晶析装置より効率のよい装置形状の決定法を検討した。その詳細は化学工学30巻4号、359(1966)「連続式円錐形分級層型晶析装置の設計法」おろび ケミカルエンジニヤリング、(7)、77(1966)「晶析装置および操作の設計法(4)、晶析装置と操作ム分級層型晶析装置」に掲載されているので、式の誘導等に関心のある諸氏はそれを参照いただくとして、ここではこの理論の展開の考え方と故青山氏との討議の一部を紹介する。

  装置内結晶懸濁密度を装置底部と同じにすることによって、装置内の平均結晶懸濁密度を大きくし、装置容積当たりの平均結晶生産速度を大きくするための装置設計理論の提出を次のように行った。
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この理論の提出の前に、連続円筒形分級層型晶析装置の設計理論( 化学工学、29巻、9号、695(1965)「 連続式分級層型晶析装置の塔高算出法について」 )を発表しており、その論文を発展させて円錐形装置の研究を行った。 ここでは、前報で提出した理論、装置設計法を最大限利用した。 それについて関心のある諸氏は1965年に発表した上記論文を参照して戴きたい。また、その研究を行った時工業装置に対して提出したモデル装置と工業装置との差異の対応については、円筒形装置や故青山氏が発表した設計理論に基づく工業装置の設計・検討との関連で近々このホームぺーじに掲載する予定なので、それをご覧下さい。
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  この高効率分級層形装置設計理論の提出で対象になる円錐形装置は水平方向の面の形状は円筒であり、装置壁形状は装置底部よりの高さとその位置における水平面に描かれた円の半径で表わされる曲線で示した。 装置内の懸濁結晶は高さ方向に粒径分布があり、装置底部に懸濁する結晶粒径は最大で、流動層頂部の結晶は最小粒径である。流動層頂部の結晶粒径は円筒形装置の空塔速度に対して、空間率が0.9の時に流動層を形成する結晶粒径とした。 (これらの仮定の妥当性は別に検討している。 ・・・ これはモデル装置内現象に対して提出された理論を工業装置・操作に適用するときに重要であり、別の機会に取り上げる予定である。) 装置内に懸濁する結晶粒径は理論の一般性を考えて流動層頂部の結晶粒径で割った無次元粒径で表わした。このような前提に基づいて、設計理論およびその工業装置設計法の提出を次のように進めた。( 関係式および図面、線図等の確認の必要な諸氏は1966年に発表した上記論文を参照して下さい。 )

1) 装置内懸濁結晶粒径に対して、必要な装置断面積(あるいはその断面の半径):
  上記流動層の流動特性式より水平方向の装置断面積(あるいはその半径)は、結晶粒径に対して容易に点綴できる。
2)  装置底部よりの装置高さ(装置塔高)は円筒形晶析装置の塔高算出式と同様に立
式することが出来た。 しかし、 1)より明らかなように、この新型装置では装置内の空間率が円筒形と異なって高さ方向に分布があるために、新しい扱い方を提案した。また、円筒型パイロットプラントテストデータからの円錐形装置の設計についても装置断面積の高さ方向分布を配慮した設計法を提出した。 円錐形装置の (CFD) ,(CF SR )については 懸濁密度一定の過程より定義式を提出し、それより算出された線図を用いて、無次元過飽和度、無次元粒径に対して容易に求められるようにした。 この線図で使用される 無次元過飽和度、無次元粒径は円筒型と全く同じである。 装置内の任意粒径結晶が懸濁する装置底部からの高さの算出には、塔頂、装置底部おける無次元過飽和度と無次元粒径と任意粒径と流動層頂部に懸濁する結晶粒径との比で示される無次元粒径から算出される任意結晶粒径に対応した無次元過飽和度の算出式を提出した。 この式より算出される無次元過飽和度と任意無次元粒径を用いると、流動層頂部と装置底部の無次元過飽和度と無次元粒径に対して提出された線図より任意粒径に対応した(CFD)、(CF SR ) を求めることが出来る。それより、流動層高を算出するのと同様の方法で、装置内の任意粒径が懸濁する装置底からの高さが求まる。ここで算出された高さと装置水平断面より求めた円筒半径を結晶粒径をパラメーターに点綴すると、装置壁形状となる。このように点綴して描いた形状は上記ケミカルエンジニヤリング(1966)の記事に示してある。

  このような特性を仮定した算出した装置形状は当時広く使用されていたクリスタルオスロ型晶析装置とは形状が全く異なっていたので、工業装置として適用されるかどうか全く分からなかった。 しかし、昭和40年3月に研究室を卒業して企業に就職した中沢さんより特許を調べていたら、この理論で決定したと形状のよく工業晶析装置の特許が出されていたとの連絡を受けた。 それが切っ掛けになり、アメリカTVA公社の招きを受けてアメリカに出発する前に、故青山氏や元大同化工機の技術者に晶析装置設計理論の話をし、その工業装置設計への適用について討議した。 その後故青山氏によって工業装置設計に適用し、立ち上げた装置の試運転データによる検討が行われ、化学工学、37巻4号、416(1973)「分級層型晶析装置による硫酸ナトリウムの晶析ムパイロットデータより工業装置へのスケールアップ」に発表された。この時の故青山氏との討議についても、近いうちにホームページに掲載の予定である。

2004年3月

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