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野原の情景

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急にあたりが輝きだす。空気だ、草だ。

震動、地面に響く音が次第に遠くなっていく。あれは黒犬の足音か。

草の香りだ。風が渡っていく。

でも、何も見えない。まぶたが重くたれ下がって、開けることが出来ない。羽や、足の感覚がもうない。このまま、私は……。

靜か。体がふわふわっとする感じ。陽がとても暖かい。もう長くはもたないだろう、たぶん。

私の屍を、顧みてくれるものはいるだろうか。たとえば<コレクター>は、拾い上げてくれるかしら。それとも<博士>たちが持ち帰ってくれるとか。

いいえ、私が本当に望むのはそんなことではない。

それならどういうことを、といえば、<物語作家>がいつもの場所にすわって話し始める。と、どうもいつもと様子が違うことに気がつく。何が違うのか分からないが、とにかく変な気がして当惑してしまう。それもわずかの間で、また彼はいつものように話を作り始める。あの木影で、幹に背もたれ、草の上にすわり込んで。そういうこと。

私は、この情景の記憶とともに消えてしまう。でもこの世界は続いていく。この野原、この風景はこのまま残って続いていってほしい。

信じたい、いつまでもこのまま続いていく世界。私がここからはじかれても、何も変わらず存在していってくれることが私にとって救いとなる。<物語作家>が語ってくれた、かかしのように、私も不変なるものを求めているのだろうか。私の思いとともに、残したい情景。

ぼうぼうの原っぱ、涼しい木立の中、そこからちょっと離れて、川の近くの一本の高い木、張り出している太い枝、根元にある熱く陽に焼かれた石。

私はもうその風景の中にはいない。それでも世界は何も変わらない。虫たちにも、ここへ来る人々にも、変わらないそのままの生活が続いていく。それだけの、望み、私の、只それだけを。

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