5月23日にカーネギーホールで レヴァイン指揮メトロポリタンオペラ管弦楽団のマーラー交響曲9番を聞いてきました。
予想したとおり1楽章25分、2,3楽章それぞれ約15分、4楽章30分(!)
と異常にスローなテンポの9番でしたが、とくに4楽章はこれだけ遅くても
緊張が維持してなかなかよかったと思います。
(遅いといわれているバーンスターンがベルリンフィルを振った演奏でも
27分ぐらいだったと記憶しています。)
ただ、レヴァインはそんなに爺さんじゃないはずなのに立って指揮することが
できず、椅子に座って指揮して、しかも最低限の動きしかしない
晩年のベームよりミニマムパフォーマンスでした。
ほとんど小錦並にまるまると太って、雪だるまから足と手が出ている
といった感じで、いつ心臓発作でたおれてもおかしくない感じ。
翌日のNYタイムスの批評では、異常に遅いテンポ、弦の雑なアインザッツ
管楽器のバカでかい音、ほとんど麻痺して動かない左手と左足と
ボロクソで、「レヴァインを慕うファンの同情?の拍手が唯一の救い」
といった感じでこの指揮者の行く末を危惧していました。
オケは同じホールの同じ場所で聞いたサイトウキネンオーケストラと
比べるとたしかに弦が雑な感じがして、管のトップも力不足の感じはありましたが
オペラのオケはベートーヴェンの交響曲などをアインザッツをそろえて
演奏するよりはプッチーニやヴェルディを鳴かせて歌うほうが重要なので
それなりの力を発揮していたのではないかと思います。
スカラ座のオケなんかも弦のアインザッツはかなりガサゴソしています。
でもオペラで「泣き」が入ったときは類を見ない力量を発揮するので、なにを好むかなのだと思います。
管もサイトウキネンの方が大音量だったと記憶していて、むしろレヴァインは
控えめのダイナミクスでこの曲の悲しさを静かに表現していたのではないかと
思います。ただ、こういう遅さで緊張を迫るにはサイトウキネンやベルリンフィル
のような完璧な性能のオケの方がふさわしかったと思いますが。
(30年ほど前にレヴァインが録音した同曲のオケはフィラデルフィア管弦楽団でしたがやはりやや雑な演奏の印象がのこっています。
アメリカのオケはやはりちょっと繊細さや緻密さに欠けるような気がします。)
それにしても4楽章30分は異常な遅さで、ほとんど止まりそうなくらい。
弦も弓を返すまでに足りなくて苦労していたのではないかと思います。
フィナーレももうほとんど音のない世界で、例の全休止もバーンスタインも真っ青
なくらい長く、最後の音が消えていく中、20秒ほど会場が凍りつくように
しずまりました。(小澤の時はもっとながく静寂のときがありましたが・・)
無音になってから拍手が始まるまでの緊張はすごいもので、
レヴァインが譜面をしずかに閉じることで初めて大喝采の拍手が起きました。
この演奏に先だってアルヴァン・ベルクのヴァイオリン協奏曲が演奏されましたが
これは凄い演奏でした。ヴァイオリンを弾いたクリスチャン・テズラフはたいした
奏者です。
オケの音をつきやぶるようにソロが聞こえるかとおもうと、繊細極まりない音でこの難曲を見事に聴かせ、
無調で複雑なこの作品にロマンティックな、もっというとエロチックな響きを加え
て世紀末の響きを感じさせてくれました。
アンコールに弾いたバッハのソロも気品あり異常なくらい繊細な弱音で会場を
「しん」」とさせ、カーネギーホールを圧倒していました。
印象としてはクレーメルの再来かといった才能を感じさせました。
彼はこれから注目される若手ヴァイオリニストだと思います。
カーネギーホールは一番上のバルコニー席でも音響はとてもよく、
高いお金をださなくても楽しめます。(今回はバルコニー席48㌦)
ただし、普通のビルにして6階まで歩いてのぼるのが結構大変ですが。
それとこれは以前サイトウキネンの演奏のときにも書きましたが
遮音が不充分で外からパトカーのサイレンがかなりはっきりと入ってくる
のがやや気になります。とくに9番のように静寂を求められる
作品では、ちょっと興ざめな場合もあり、なんとかならないのかという気がしました。