木下黄太氏インタビュー
「放射能防御」と脱原発を巡る、もろもろの事情
被曝回避を無視したら、原発事故がどれだけあっても構わないことになる
木下 まあ野田政権を倒せば、次の政権は、原発を推進するのかしないのかで選ぶしかなくなるじゃないですか。目指すべきはそこだったんですよ。
それを、妙な妥協をしたために、結局デモ側と政府側の両方のガス抜きになってきてしまって、運動はしぼむし、民主党も弱体化して政権交代を招くという、結局脱原発が遠のく結果を招いてしまったわけですから。
運営者 それは何故かと言うと簡単で、左翼は伝統的に、本当に「勝ちたい」と思っていないからですよ。戦い続けるという状況が続くことが一番望ましいんですから。万一勝ったりしたら、社会党みたいにつぶれちゃうんです。
左翼には最終勝利というのはないんです。彼らはそういう世界に住んでるんです。
木下 その方が自分たちのあり方としては強いですよね。
運営者 本来は組織目的を追求していかなければならないのに、自己目的化の中に安住することができる人たちというのは、僕にはちょっと信じられない人たちですよ。
木下 だから避難についても何かごまかして妥協してしまうんです。僕がやってるみたいに、放射能防御を現実化させるという感じじゃないんですね。
まあ、左翼の評価については、僕と岡本さん(聞き手)の見解とは差がありますが、そういうところで、僕と左翼的な活動体との関係性は大半切れていくんです。全部そういう感じになってると思います。
でも、どのような運動体でも、あれだけの原発事故が起きたのに、被曝回避を完全に無視するというのは、立論として無理がありますよ。
だって、被曝回避を考えないようにした瞬間に、原発事故なんかいくらあっても構わないことになるんですから。
運営者 (笑) それじゃ推進派と一緒じゃん。
木下 それで脱原発を主張するのは無理なんですよ。
官邸前金曜行動をやることによって、都内で脱原発意識の高かった人たちの意識も沈んでしまったと思います。そして非常に難しい状況が、固定化してしまったと思います。
運営者 放射能による健康被害というのは、顕現化するまでに何年か時間がかかります。
その期間の間に、脱原発の皆さんも含めて放射能に懸念を持っている皆さんがあちこちで自爆し続けていて、それによって運動体が弱まっている。時間に負けているという感じがします。
木下 既存の左翼勢力の人たちと、そうでない人たちがいるという構図も変わってないと思います。
官邸前金曜行動のようなものを、世間一般の人たちがどう見ているかというと、「左翼が何かやってるな」としか思われてないわけです。
一般の人がたくさんいるように見えましたが、中心は共産党だったんです。共産党の友好団体化していることが明らかで、共産党としては、例えば参議院選挙の東京選挙区で共産党の候補が5位に入れば御の字だったのが通常でしたが、上位に躍進したでしょう。
彼らからしてみれば、都内では党勢が1.5倍くらいに拡大した感覚があると思いますよ。
運営者 不思議なことに、脱原発をきっかけにして、共産党に加担することになった一般の人も沢山増えましたからね。何故か必死で共産党候補を応援している本人たちの中では不思議とは思っていないようですが。
木下 結局、脱原発でできた新しい運動体が、共産党に回収されているという状況があるんでしょうね。
運営者 だって、ネットを介して新しく政治的分野に入ってきた人がたくさんいて、その人たちが脱原発だけでなく、秘密保護法や集団的自衛権、反イスラエル等について慣れないながらも語っていて、そういう人たちを刈り取る人が他にいないのなら、それは共産党が刈り取って、当然だと思いますよ。
木下 政治団体としては、つまり共産党は当たり前のことをしてるだけなんです。
運営者 僕は発災直後から左側の皆さんに言っているのは、「せっかくネットから新しい人達が入ってるんだから、古いやり方ではなく、新しいやり方で取り組めばもっと党勢が拡大すると思うよ」と言ってたんですけど、そんなことをしなくても20世紀のやり方でちゃんと党勢が拡大しているんだからレベルの低い話ですよ。
■木下黄太氏インタビュー
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