木下黄太氏インタビュー
「放射能防御」と脱原発を巡る、もろもろの事情
結局脱原発が遠のく結果を招いた「官邸前金曜行動」
運営者 でも、早川先生や東海アマ氏と一緒に排除を食らったんですよね。
木下 ネット上ではそうなりますね。ただし、早川教授や東海氏は、現実の運動に機能できない性質の人で、僕からも論評の価値がありません。だから、この2人は元々関係ないんです。まあ、具体的に排除されたのは僕やこちらの関係者でしょうね。
そして、僕は官邸前行動で表に出て行くつもりも、当初から全くなかったんです。こっちが仕掛けていないのに、のこのこ顔を晒したくないです。
ごく初期に、一度だけ警察の警備の様子やテレビ局のカメラの配置、動員の状況を確認するために行きましたが、それ以後は一度も行っていません。
チェックしていると、警察幹部は車から降りてデモの様子を確認し、デモ隊が官邸に突入する様子がないのを見て、安心して帰って行ってましたからね。
警察の記者クラブ歴が結構ある僕の感覚からすると、警察が安心して帰る時点で、ほんとのデモではありませんね。根源的に。
彼らとしてみたら、被曝回避の主張は、自分たちの運動をダメにする元になるから出て行けということなんでしょうが、まあ反原連はそれ以前のレベルだったということです。
運営者 彼らがご褒美として官邸に入って総理に会う前の話ですよね?
木下 ええ。ですから、妥協しつつそういう政治活動に中途半端に関わると、下手したら最後は生き死にの問題になるのが歴史が教えていますから、これは完全に離れた方が絶対に良いと確信しました。
最近の人は知らないかもしれませんが60年代のセクト争いでは普通に死んでますからね。
運営者 国鉄労組前の内ゲバでも100人以上死人がでてますからね。文化的土壌は似通っているでしょうから。
木下 権力側がそう仕向ける場合がありますからね。
それから、この行動を一般の人にお勧めできなくなった最大の理由は、子供たちをデモにベビーカーで参加させましょうと主催者が呼びかけていたことです。
被曝回避だけでなく、不慮の事態が起きたら子どもは危ない。逆に、不慮の事態が絶対にない官邸前のデモなどやる意味さえ理解不能です。
運営者 彼らの脳裏には、「戦艦ポチョムキン」のオデッサ階段のシーンが流れていたんでしょうね。「警備公安の手によって子供たちが危険に・・・」
木下 そんなシーンを思いつく知性があるとは到底思えませんが。。。そういう観点から見たときに、「この人たちに関わっていても碌でもないことにしかならないな」と判断したわけです。
彼らは、反原発のみのワンテーマと福島の人たちへの配慮、さらに警察に褒められる安全なデモを優先したために、放射能防御という最重要テーマを完全に排除してしまい、その結果、骨抜きになってしまったのだと思いますよ。
最終的には野田政権と妥協して官邸に入れてもらって終わったという。ガス抜きです。情けないですよ。反原連というのは恥さらしの極限です。
しかも、福島の人たちを差別してると思われたくないが為に、放射能防御というテーマを完全に排除したのに、福島民友新聞には「福島県人差別だ」と書かれてしまう。元も子もないですよ。なんの意味もないですよ。
運営者 官邸前でもめることで、民主党政権の短命化、自民党政権の実現、原発推進につながってよかったじゃないですか(苦笑)。
われわれはこの3年間の間、ずっと放射能防御のことしか話してないんですけどね。しかし反原発を語っている人たち、放射能防御との間の距離感が非常に微妙であるというか、はっきり違うということがよくわかりました。
木下 反原連が反原発の全てではないですけれども。
しかし、日本の左翼は、肝心なところで、どうやって勝ちに行けるのかというところの思考ができていないんですよね。
官邸前行動は、自民党の政権交代を招いただけです。311以後の運動は、自分たちが勝ち目がある方向を全て捨てる方向に動いてしまったと思いますね。
だってこれによって野田政権を倒せば、次の政権は、原発を推進するのかしないのかで選ぶしかなくなるじゃないですか。目指すべきはそこだったんですよ。
それを、妙な妥協をしたために、結局デモ側と政府側の両方のガス抜きになってきてしまって、運動はしぼむし、民主党も弱体化して政権交代を招くという、結局脱原発が遠のく結果を招いてしまったわけですから。
まあ、もしかしたら、彼らは意図的におこなった疑いもあるのかもしれませんけれども。僕の考えすぎかもしれませんが・・・