3/24(日) 観戦最終日 エキシビション |
昨日はもう、あまりに嬉しくて、ついついオーバーヒート気味に書きまくってしまった。こんなに長い文章、誰が読んでくれるんだろう、と思いつつ、今日もまた。 ほんとにほんとの観戦最終日。奇跡のように手に入ったチケットを持ち、エムウェーブに向かう。今日は、エキシビションが行われる日だ。 長らくお世話になったホテルをチェックアウトし、長野駅のコインロッカーに荷物を預けてから、バス乗り場に向かう。ところが、いつもの乗り場にはバスも係員もいない。時間が早いのでシャトルバスは運行していないのだろうかと、昨日と同じく路線バスの停留所で待つ。 駅周辺には、なぜかものすごい数の警察関係者が出ていて、警備に当たっている。何か催し物でもあるのだろうか。いくら一番人気のエキシビションだからといって、フィギュア観戦客の整理のためだけに、こんな大警備線を張るはずがない。ベンチに座りぼーっとそんなことを考えていると、道路を挟んだ向こう側に、見慣れた長野電鉄のバスがずらりと並んでいるのが目に入った。 ……なんであんなに、いやもしかして、と急いで近くの階段を駆け登る。エムウェーブ行きのバスの案内看板が立っていて、まぎれもなくさっき見たバスのたまっている方向を指している。この看板は毎日見ていたが、いつも同じ場所なので今日は見過ごしていた。危うく、路線バスの発車まで1時間近く待つところだった。この日だけ発着場所が変わったなら、注意書きでもしてくれればいいのに、と思いつつ、道路にかかった歩道橋を渡り、バスに乗り込む。 エムウェーブでの到着も、いつもと違う場所だった。地下スロープをくぐり、ダフ屋をやり過ごして入口に向かう。「持ち物検査を実施しておりまーす。カバンを開けてお入りくださーい」という係員の声が届く。そして、駅周辺と同じく、群がるほどの警備員の数。やっぱりエキシビションのせいか、確かにこれほど全国から人が集まるのはそうないことだからこれぐらい厳重にしているのかも、と勝手に解釈したが、真相は帰りの長野駅で明らかになる。 先にその話をすると……エキシビションを見終えた僕は、長野駅で人が大勢集まっているのに出くわした。誰かを待っている様子から、選手がやってくるのだろうと思った。しばらく待っていると、歓声が上がる。誰だろう、ヤグディンか、はたまたスルツカヤか。いろいろと頭に浮かばせていたが、なんと、皇太子・皇太子妃の二人だった。 だから、だ。だから朝からあんなに厳重な警備だったのだ、とようやく知る。しかし、皇室に特に興味のない僕は落胆し、帰路に着いた。せっかく選手が来るのかと寒いのを我慢して待っていたというのに、という話。 とにかくこの時点では、そんなことは全く知らなかったわけで……カバンを開け、中に入る。実は、秘かに持ってきていたビデオカメラを見とがめられるかと少しヒヤヒヤしていたのだが、何のことはなく通過する。さらに金属探知器のゲートもくぐり、席へと向かう。 ![]() リンクが見える位置まで来ると、意外にも選手達が滑っているのが見えた。今日は公開練習はないかと思っていた。席に座ってしばらく見ていると、なんとスルツカヤ選手が出てきた。オリンピックでも聞いたあのポップなメロディーに乗り、カウガールの振り付けを踊っている。もうたまらん、ってぐらい可愛いのだ、これが。 スルツカヤが練習を終えて外に出るのを見計らい、出入り口付近に移動して写真を撮る。と、今度はヤグディン選手までが出てきた。昨日の練習には現れなかったが、今日は軽くジャンプやステップを練習していた。そして帰り際にはまた席を移動して見送る。隣にいた女性ファン二人が声を揃えてロシア語で何か叫んだ。しかし、つれなくヤグディンは去ってしまう。「ヤグ、つめたーい」などと言いながらも、姿を見られた喜びに不満な様子ではなさそうだ。 午後2時、待ちかねたエキシビション演技がはじまる。まずはオープニングとして参加各国の大きな国旗を持ったスケーター達が現れたあと、日本人選手としてアイスダンスの有川・宮本ペアと、世界ジュニア選手権で優勝した高橋選手が演技を行った。 その後は、各種目ごとに5位になった選手から順に、上位選手達の演技が続く。僕が昨日の練習で気に入った中国のチン・パン選手が出てきたが、昨日と違って席が遠いため顔がよく見えない。そしてもちろん、女子シングルの恩田選手も登場。大きな拍手を浴びる。ストロング・ジャンパーとしての彼女の力は今大会でより深く印象づけられたに違いない。コーチの話によれば、これからはコンビネーションジャンプにも力を入れていくということらしい。表現点も前よりは出るようになった。これでアクセルが成功するようになれば、大きな大会でメダルが狙えるはず。 ![]() コーエンの後に登場したのは、アイスダンス4位のドロビアズコ・バナガス組。今日のエキシビションに彼らが出てくれるのか心配したのは、僕だけではあるまい。 実は、オリンピックと同様の”事件”が今大会でも発生した。アイスダンスのフリー演技で4位となったリトアニアのペアが判定を不服とし、同調する別国の選手達から集めた署名と共に、国際スケート連盟に抗議文を提出したのだ。そのため、当事者であるリトアニアのペアがエキシビション出場を拒否することは充分考えられた。 それでも、問題なく彼らは出場した。日本でもかなりの人気があるようだ。ただし、演技後にアナウンスされたコメントによれば、今大会限りの引退を表明しているという。 ちなみに、各選手の演技後、日本語アナウンスでちょっとしたコメントが紹介されるのだが、ロシアのアブト選手に子供がいることや、スルツカヤ選手が秋田犬を飼っていることなどが紹介され、なかなか面白かった。アブト選手はちょっとやんちゃな少年っぽいスタイルで登場し、女性ファンからは黄色い声があがっていた。 アブト選手の後には、ペアで第3位のキョウコ・イナ&ジョン・ジンマーマン組が登場。彼らのエキシビションプログラムは見せ場が多くあって、見ていてとても楽しめる。特に、ラストで女性が倒立するように持ち上げられ、そのまま首を起こしてポーズを決めるシーン。昨日の練習でやっていたから、来るぞ来る ![]() 前半の選手としては最後になった、村主選手。「Don't cry for me,Argentina」に乗って静かに演技が始まり、途中からはアップテンポにリズムが変わる。オリンピックでも見たが、僕はこのプログラムが大好きだ。起伏に富んだ内容を堂々と滑り、最後にポーズを決めたあと、二三度腰を動かす。あの仕種に、本競技中には見られない茶目っ気があって、とても可愛い。 休憩をはさみ、出てきた本田選手。フリーでの厳粛なイメージとは180度違うアップテンポな曲にのり、意外に上手なステップを見せてくれる。最初はショートプログラム用として考えていたということで、内容も充実している。オリンピックの時には何度かミスをしていたが、今回は銅メダリストとして完璧に滑りきった。立派だと思う。 以降、ロシアのトットミアニーナ・マリニン組、ミシェル・クワン、カナダのボーン・クラッツ組、ティモシー・ゲーブルなど、オリンピックのエキシビションでも見て馴染みのあるプログラムが続く。ただ、クワンを除いて、盛り上がりは今一つだった。流れる曲の歌詞がわからないのも一因かもしれないし、アメリカの観衆が盛り上がり過ぎなのかもしれない。ただ、時間が決まっているせいか、演技を終えて間もないのに、「この拍手に答えて、もう一度登場して頂きましょう」というアナウンスと共に無理矢理アンコールがはじまる、というのがすこし不条理に思えた。 ![]() 後半も終わりに近づいた。残るは、各種目で優勝した選手たちだけとなった。 ペアで中国に初の金メダルをもたらした、シェン・ツァオ組。相変わらず高い技術力。ただし、男性の肩にシェン選手が寝そべるようなポーズで決まるフィニッシュ、シェン選手の表情がみものなのに、遠すぎてわからなかったのが、残念。 彼らが演技を終えてアンコールにかかる前に、またもやアナウンスで一口エピソードが語られる。「ツァオ選手は流行音楽を聞くのが好きとのことですが、アンコール用のこの曲も、彼の選曲なのでしょうか」というようなコメントが流れる。これを聞いて、あっと思い、そして思わず「ふふふ、ネタはばれているのだよ」と、含み笑いをしてしまう。 昨日の公開練習の時、モーニング娘の最新曲「そうだ!We’re ALIVE」が流れていた。きっと誰かがエキシビションで使うのだろう、しかも日本人ではなく外国人の誰かが、と思った。 そして果たして、予感は当たった。しかし、これを機に会場は大盛り上がり、というのを主催者側は考えていたのかもしれないが、見たところ、ハズレだったかも、という印象。うーむ、日本のお客さんはもうちょっと盛り上がった方がいいのかも、と自分を含めて思う。 そして、ついについに登場、にこにこスルツカヤ。オリンピックでも見せてくれた、あのカウガール姿に身を包み、最高に楽しいナンバーを踊ってくれた。思えば、オリンピックのエキシビションでこの演技を見た時が、僕がスルツカヤファンになった瞬間だった。こんなにかわいい人だったのか、という新鮮な驚き。その勢いで、この長野まで来てしまった。 当然のごとく、アンコールを求める拍手。再度登場した時にかかった曲は、これまたモーニング娘の「LOVEマシーン」だった。うー、さすがにモーニング娘の息のかかった大会ではあるなあと思いながらも、今度はそこそこ観客にもウケているようだ。さすがのスルツカヤ人気。
トリを務めたのはもちろん、男子シングル金メダリスト、アレクセイ・ヤグディン。今日は客席でも飲食スペースを歩いていても、あちこちから、やぐやぐやぐやぐと聞こえていた。 演技が始まる。同時に、会場の空気が変わる。誰の追従も許さない、ヤグディンだけの世界の幕開けだ。なにもかもが素晴らしい。 ![]() そして再登場した衣装は、あのショートプログラムのものだ。オリンピックと同様、ショートプログラムの一部を見せてくれるようだ。 「winter」が流れ出す。またもや別の世界に入っていくヤグディン。そして、神懸かり的とも思える、ステップ。これを見るたび、僕は涙がにじんでしまう。フィギュアスケートファンとしては僕は全くの初心者だが、あの凄さはわかる。何にせよ、優れた芸術は人の胸を打つのだ。しかも今日は、オリンピックよりも長く演技をしてくれた。 ものすごい歓声があがる。鳴りやまない拍手。すると、ヤグディンは審判席のあたりに近寄っていき、何か話をはじめる。そしてなんと、さらにもう一度、アンコールにこたえてくれるというアナウンス。会場は歓喜の嵐だ。 曲が流れ、再びあのステップを踏むヤグディン。また泣きそうになってしまう。とにかく凄かった。彼のサービス精神には心からの賛辞を送りたい。 …… こうして、僕の世界フィギュア観戦は終わった。夢のような楽しい日々だった。バスを待つ人々の長い長い列に並び、ここに来て一番の冷え込みとなった寒風に吹かれながら、ぼんやりとした頭でここまでのことを思い出す。 ほんの2カ月前まで、スルツカヤもヤグディンも知らなかったのに、今こんな場所まで来ていることの不思議を思った。それでも出会えたこの素晴らしい世界に、感謝をしたい。自分に、ここまで追いかけさせるパワーを与えてくれたのだ。あのオリンピックのエキシビションが、全てのはじまりだった。素晴らしい出会いを、忘れない。 |