サイレジア偽装作戦

紅の勇者オナー・ハリントン(6)

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デイヴィッド・ウェーバー 著/矢口悟 訳
カバーイラスト 渡邊アキラ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011447-1 \800(税別)
ISBN4-15-011448-X \800(税別)

ぱっとサイ………(殴/蹴)

 ついに全面的な戦争状態に突入したマンティコアとヘイヴン。技術力と兵員の技量、士気で勝るマンティコアと圧倒的な物量を誇るヘイヴンの間で、互角の戦闘が各地で展開する。だが、ここに来てマンティコア側には頭の痛い問題が持ち上がっていた。サイレジア連邦との通商航路に出没する海賊によって、マンティコアの商船が次々と襲撃され、略奪され続けているのだ。商業航路の安全が保証されなければ、マンティコアの経済は少なからず停滞する。そしてそれは総力戦を戦うマンティコアにとって兵站の停滞を意味することになるのだ。だが、その総力戦がサイレジアに割く兵力を許さない。窮余の策としてマンティコアがとった作戦、それは大型商船を改造した偽装艦で、海賊たちを誘い出し、一挙に殲滅しようと言うものだった。鈍重で装甲も弱体ながら、攻撃力だけは第一級のアンバランスな仮装巡洋艦隊が編成される。そしてその戦隊の指揮官として、今は事情があってマンティコア軍籍を休職とし、惑星グレイソンの領主として暮らすオナー・ハリントンに白羽の矢が…

 一見無害な商船を装って、その実多少の武装を備えた仮装巡洋艦ってのは、本来通商破壊作戦なんかに従事するものなんだけど、今回のお話に登場するのはちょっと桁違い。数百万トンの巨体を活かし、この世界での最強艦種である超弩級艦に匹敵する攻撃力を備えた恐るべき罠。ちょっとニュアンスは違うけど銀河パトロール隊のブリタニア号みたいなもんか。こういうのは自分の想像力でいくらでも魅力的な兵器をひねり出せるSFならでは。

 でも今回、それ以外のストーリーの展開はもう(シリーズ4作目5作目がちょっと趣を変えてきたのに対して)、完全にフォレスターやケントの描く19世紀の海洋冒険小説のまんま。そっちを好きな人だったら、お話のだいたいの展開は完全に予測可能。あまりにフォーマットに忠実で笑ってしまうくらい。「シーフォート」が割と独自の展開を見せるのに対して、こっちは完璧にホーンブロワーやボライソーを宇宙でやろう、ってところに力を注いでいる感じで、まあそういうのも嫌いじゃない。

 今回はマンティコアと敵対する、フランス革命当時の恐怖政治とスターリン独裁当時の恐怖政治を兼ね備えた"民共"ことヘイヴン人民共和国のなかにもちゃんとした軍人たちがいる(前にもいたけどね)、ってあたりでちょいと新機軸をもってきてくれたり、ハリントンの仇敵たちがまたなにやら悪さをたくらんだり、みたいな薬味もあったり、(これは海洋モノではおきまりの)新米水兵の成長ストーリーが挟まったりとなかなかサービス満点。前述の通り基本は帆船を宇宙船に置き換えた海洋冒険小説なので、そちらが好きな人にはなかなか楽しめるんじゃないかな。SFとしてどうよ、というのは別にして。

03/07/25

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