第六大陸 1

b030723.png/5.1Kb

小川一水 著
カバーイラスト 幸村誠
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030727-X \680(税別)

ハードSFガテン系

 砂漠、極地、ヒマラヤの高地、そして今、水深2000メートルの海底に一大建造物を築き上げることに成功した気鋭のゼネコン、御鳥羽総建。その中にあって、ひとたび大プロジェクトが立ち上がるやその中心となり、部署を超越して活動する機動建設部の若手、青峰は今、完成した深海の多目的海底都市、"ドラゴンパレス"に向かう潜行艇の中にいた。その行程の中で彼は、ちょっとしたアクシデントをきっかけに育ちは申し分なさそうだがどこか風変わりな少女とその祖父らしい人物に出会うことになる。そしてその出会いが、青峰と御鳥羽総建にとって超弩級の一大プロジェクトの最初の一歩になったことを、このときの彼はまだ気づいていなかった。そのプロジェクトとは、民間企業による、キャパシティ50人の月面基地建設。工期は10年、予算は1500億。果たしてそんな途方もないプロジェクトが民間の力だけで実現可能なのか。不思議な少女、妙、そして彼女を中心に集結した日本の技術屋たちの戦いが今、始まる。

 とりあえず一言、言わせていただきますよ。うぉもしれぇぇぇっ!

 ヘタレ文系な私にとって、ハードSFってのはしばしばものすごく高いハードルになってしまうことがあって、「もしかしたらこれ、読む人が読んだら死ぬほど面白いんだろうなあ」と思いつつ、やっぱり乗り切れずに読了してしまう本が結構ある分野なわけで、この分野で、この頭の悪い読者を大喜びさせるには、「ハードSFのお約束をきっちり守った上で」、「そのお約束が何を意味しているかが分からなくても面白い」構造になってないといかんわけですよ。ハードSFとして出来が悪いのは、これは何となく良くわかる。だけどハードSFの必要条件を満たしていても読んでるこっちになかなかそのおもしろさが伝わらない事って結構あるわけで、それはつまり「これくらいわかるよな?」でお話が進む場合、といえる。

 頭のいい人ならそこにたとえようもないおもしろさを見いだせるのかも知れないけれど、私の頭ではついて行けないことがあまりにも多くて、ハードSFを読む時には私個人は別のところにおもしろさを見いだそうとしているわけなんだが、それはどこかというと"積み重ねのプロセス"。いきなりの大ネタは理解不能だが、それを分かる範囲まで分割し、そのセグメントを矢継ぎ早に積み重ねていくことで、おもしろさを常に感じつつ、読了時には(私のようなものでも)「ハードSFを読んだ」と思わせてくれる、そういうSFが私にとっての良いハードSFなわけで、それ故私にとって至高のハードSFとは、今もなお「星を継ぐもの」なのです。何となく判っていただけるでしょうか? わかってくださいませ。

 で、この作品。そこらのさじ加減がすばらしく私好みなんだなあ。月にちゃんとした建造物は建てられるのか? 建てるためには何が必要なんだ? それはどうやって解決する? 解決のための問題はどこにある? それは解決できるのか? そこら辺が、こっちにわかる部分まで下りてきて分かりやすく(そしてもちろん、お話として面白く)説明をしてくれている。ここらがうれしい。その上でお話的なヒキもしっかり用意してくれている。すてきだ、ほれぼれする。はやく続きが読みたい。熱烈に。

 つかね、私、この本の口絵、(『プラネテス』の)幸村誠さんが描く、月面を飛び跳ねる宇宙服姿の12歳の少女のイメージにハァハァしてしまった時点で負け決定って感じなんですが、こんな私はダメ人間ですか、聞くまでもないですね。

03/07/23

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)