航宙軍提督ハリントン

紅の勇者オナー・ハリントン(5)

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デイヴィッド・ウェーバー 著/矢口悟 訳
カバーイラスト 渡邊アキラ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011410-2 \700(税別)
ISBN4-15-011411-0 \700(税別)

ルール・マンティコア

 前作ですんでの所で惑星グレイソンに対するヘイヴン人民共和国の侵攻をはねのけることに成功しながらも、自らは最愛の人物を失い、そのときの事件が元でマンティコア軍からも半給休職を言い渡されたオナー。グレイソン防衛に対する功績に対する感謝として、グレイソン初の女性領主として迎えられた彼女だったが、男尊女卑の風潮が根強く残るこの星には彼女を快く受け入れられない一派もあった。一方、度重なる敗戦でもマンティコア打倒をあきらめないヘイヴン側は、これまでになく綿密に寝られた作戦を持って、再びマンティコア打倒のための大作戦を画策しつつあった…

 てな訳で始まるオナー・ハリントンものの第5弾。マンティコアでは軍人として働くこともできなくなったオナーだったが、たびたびのグレイソン防衛の功により、一種の封建領主のような地位を与えられている。前作がマンティコアという世界を、黄金時代の英国をさらにあちこち良い部分を増やすような形で描いて見せていた話だとしたら、今回はその理想的な英国とこれまた理想的な関係を保っている新大陸でのオナーの活躍を描くお話、って感じか。英国とアメリカが仲良くなってるんで、当然ヘイヴンにあたるのは革命フランス、って感じですな。なんたってヘイヴンの最高指導者の名前がロベール・タントン・ピエールなんだもんなぁ。部下にサン・ジュストなんて人もいるし(苦笑)。ヘイヴン自体の描写は、フランスっちゅうよりはむしろソ連っぽいけど。

 今回は軍人としてのオナーの活躍ぶりに加え、封建的な惑星の制度改革に着手しようとしているグレイソンの護国卿クロムウェル…じゃなかったベンジャミンに協力しつつ、自らの封領を発展させていこうとしている、経営者的な才覚も持ち合わせたオナーが描かれてる。戦闘しかできない昔のヒーローと違って、新しい時代のヒーロー(このシリーズはどうも男性キャラがヒロインの役回りを演じるようですな)は、平時でも優れたところを発揮できないといけないわけだね。

 お話はヘイヴン側の反攻作戦を軸に、グレイソンという惑星独特の風土から、女性を一段低く見たがる旧弊な実力者たちの陰謀話が絡んで充分楽しく読んでいける。このシリーズの魅力の、宇宙での艦隊戦の描写も相変わらず冴えてて読んでる分にはまことに楽しい。

 でもなあ、これはこのシリーズ(ていうか『シーフォート』ものとか、最近はやりの新しいタイプのミリタリーSFの多くでもそうなんだけど)読んでてずっと感じるんだけど、このお話から導き出されるものって「(神のご加護の許に)優れた帝王によって統治される帝国こそが最も優れた政治形態なのだ」って思想に見えてしまってそこがちょっとイヤなんだよな。視野が広く、必要以上の欲のない、様々な分野での手腕に優れた指導者が、これまた無私の聖職者のサポートの許に統治する世界、ってのはそりゃ確かに理想的な世界ではあるだろうけど、それって一代ごとに「次はどうなんだろう」っていう不安を導いてくるものであるわけだよな。

 いいもんはとことんいい、悪いやつぁとことん邪悪、でエンタティンメント作品はいいとも思うんだけど、その"いいもん"のスタイルというか構造に、SFならではのアイデアを一発ぶち込んで欲しかったような気がする。そこまで望むのは高望みがすぎるんでしょうかね。

02/09/14

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