エンディミオンの覚醒

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ダン・シモンズ 著/酒井昭伸 訳
カバーイラスト 生頼範義
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011423-4 \1000(税別)
ISBN4-15-011424-2 \1000(税別)

選べ、もう一度

 幾多の冒険の末、かつての地球、オールドアースにたどり着いたエンディミオン、アイネイアー、そしてA・ベティック。つかの間平和なときが続いているかに見えたそのころ、人類社会を統治するカトリック勢力、パクスの中枢ではいくつかの動きが起こりつつあった。人類の仇敵たるアウスターたちへの新しい殲滅作戦、パクス勢力にとって否定すべき相手である超AI文明、"テクノコア"の暗躍、そして一度はアイネイアーの捕獲に失敗したパクスのアンドロイドたちもまた、再びその行動を起こそうとしていたのだ。そしてオールドアースでも、アイネイアーとエンディミオンはそれぞれ別の、新たな冒険へと歩みを進めるときが近づいてきていた………。

 巻を追うごとに分厚くなる"ハイペリオン"シリーズ、堂々の完結編。"ジャンルSFリミックス"の温故知新的快感にしびれた「ハイペリオン」、その魅力を推し進めつつ、さらにスペースオペラの絢爛、キーツ・サイブリッドに代表されるシモンズ史観みたいなものまで打ち出してきた「ハイペリオンの没落」、うってかわって"運命の少女"、アイネイアーを軸に据えたワンダーに満ちた異世界冒険譚を繰り広げる「エンディミオン」と来て今回は、なんと言ったらいいのかな、前三作で繰り返し語られてきたSFとしてのワンダーの再発見と、「神」とはなんなのか、それは信じるに足るものなのか、って辺りをこれでもかと掘り下げ、語りまくった大作という感じ。ものすごい読み応え。ついでに言うならこいつは、SF小説史上最高の悲劇といえる作品なのかも知れない。

 次々と繰り出されるSF的イメージの巨大さ、美しさには呆れるばかり。「ハイペリオン」に登場した"聖樹船"もたいがいだが、宇宙空間に木を張り巡らせて巨大なバイオスフィアを作る、なんてののスケールはもう圧倒的。ここらあたりの、シモンズのイメージの埋蔵量には感心するしかない。が、しかし。

 これだけの圧倒的なボリュームを費やして、やはり語られるテーマは「神」と「愛」なのですか。つーかキリスト教が「愛の宗教」であるというなら、この目もくらむほどのスケールを持ったSFが語りたい物事の根本にあるのは、神への、神を仲立ちとしたあらゆる他者への「愛」であると、そこに落ち着いてしまうわけですか。これだけのスケールの作品でも、それでも既存の「神」を粉砕するのではなく、神という存在はやはりあるのだ、たぶん、という結論に落ち着いてしまいますか、ううむ。

 そんなに神様って良いものなのかなあ。神様にすがらなくても穏やかに生きていける世界の方が、よほど良い世界なんじゃないかと思ってしまうのだけれどなあ。子供の頃から「神様が見ているよ」とたたき込まれて生きてきた国の人の限界なんだろうかなあ。すばらしく面白い小説なのに今一歩、もう一歩先に踏み込んで欲しいと思ったです。既成の概念をぶっ壊してこそSFじゃんよ。なんで肝心なところで神だの愛だのに解決を任せるのよって感じ。ええ、「宇宙戦艦ヤマト」で古代君がいきなり「われわれに必要なことは戦うことじゃない、愛し合うことだった」などとぬかした瞬間に感じた、「違うだろうがよそれはー」に近いものを、この大作読んでても感じてしまったのですわ。

 まあそれを差し引いても読み応えありまくりの一作ではあるのだけれどね。

 それはともかく生頼画伯、この下巻のカバーイラストは非常にマズいです、これ、ネタバレです。私、このイラスト見て本書のラストの予想がついてしまったですよ。

02/12/05

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