まろうどエマノン

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梶尾真治 著
カバー/カラーイラスト 鶴田謙二
カバーデザイン 神崎夢現(海老原秀幸)
徳間デュアル文庫
ISBN4-19-905127-9 \533(税別)

甘く切ない逆タイムスリップ

 アポロ11号が月着陸に成功した日、小学4年生の僕は九州の田舎町にやってきていた。二人暮らしの父が仕事で海外に出かける間、ここに住む曾祖母の元にやっかいになることにしたのだ。夏の暑い日。遠くにテレビの声、潮の香り、バス停、陽炎揺らめく道。そして僕は初めてエマノンと出会った………。

 「エマノン」シリーズ最新作。今回も書き下ろしのノヴェラ。非常に良いあんばいのジュヴナイルになっていてうれしい。夏、少年、秘密、冒険、初恋…、ほれほれ、マストアイテム完全装備ですがな。カジシンさんが"エマノン"をベースに「ジュブナイル」を作るとこうなる、って感じかな。あの映画では夏の冒険を経験したユースケは、その日を境に大人に向けての第一歩を踏み出すわけだけど、こちらの少年は、確かに冒険もし、少し大人になりもするのだけれど、でも現実はそうは甘くない。ほとんどの子供は夏には冒険するものだけど、でも同じようにほとんどの子供にとって、夏の冒険はいつか思い出になってしまうんだ、という寂しさを含んだカジシン版「ジュブナイル」。もちろんそれだけでは終わらせないからカジシンさんは素敵なんだけど。ラストの持って行き方なんかはさすがだ。

 ただその分、"地球が生まれたときからの記憶を持って生きている"エマノンの哀しさとか切なさ、みたいなものは若干薄味になってしまっている。これは前作でも感じたこと。ノヴェラが二編続いたワケなんだけれども、どうも個人的には"エマノン"は短編の方がよりヴィヴィッドな印象が読後に残るような気がする。お話が長くなるとどうしてもエマノン以外の登場人物にも筆を割かなくてはならなくなり、そこに過不足が生じて、一部の登場人物の印象がちょっと薄味になっちゃう、みたいなね。ついでに、どうしてもエマノン自身が狂言回しの役どころに落ち着いちゃうきらいもあるし。

 もう少しエマノンを前に持ってきて欲しかったかな、ってあたりが少し残念かなあ。素敵なジュヴナイルで、こういうお話は基本的に好きなんだけれどもね。

02/11/27

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