ハイペリオンの没落

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ダン・シモンズ 著/酒井昭伸 訳
カバーイラスト 生頼範義
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011348-3 \860(税別)
ISBN4-15-011349-1 \900(税別)

 刻一刻、惑星ハイペリオンに接近する"宇宙の蛮族"、アウスターの艦隊を迎え撃つべく、連邦(ヘゲモン)の首都惑星タウ・ケティ・センターを発進するFORCE無敵艦隊。一方そのハイペリオンでは、ようやく"時間の墓標"に到達した巡礼たちが、ついにその秘密に迫ろうとしていた。連邦、アウスター、そしてテクノウェブの三つどもえの権力闘争の果てに何があるのか、ハイペリオンを守る謎の生命体シュライクとは、巡礼たちは時間の墓標で何を見ることになるのか………。

 前作「ハイペリオン」の感想で、これで痛快スペースオペラが加わったら無敵だぜなどと書いたわけですが、はい、お待たせしましたとばかりに繰り広げられるアウスター対連邦の艦隊戦。こいつを背景に、巡礼の一人、ブローンがかつて愛した男、かつての大詩人、キーツの人格を投影された人造人間にして、巡礼たちの行動を夢に見る能力を持った人格、セヴァーンを通して明らかになっていく、巡礼たちと、ハイペリオンにまつわる驚天動地の物語。大森望氏の解説に曰く、

 そのかわりシモンズは、自分が読んできた過去のSF作品を集大成する容れ物としてジョン・キーツの物語詩『ハイペリオン』を選び出し、細心の注意をもって完璧な設計図を描き、それに基づいて天下無敵のSF大伽藍を建築した。

 SFの伝統の上につくられるSFが、優雅なスタイルとひきかえに、専門読者にしか理解できない難解さを抱え込みがちなのと対照的に、シモンズは物語が持つ原初的な力強さを最大限に引き出し、SFジャンルそのものをまるごと再生産する。史上最大最強のジャンルSFリミックス。

 史上最大最強のジャンルSFリミックス。うん、まっことその通りだ。ここにはあっと驚く見たこともない新アイデアもなければ、読み進むに連れて明らかになってくる、論理のアクロバット的な驚きも存在しない。でも一冊(あ、二冊か、いや、『ハイペリオン』もたして都合四冊か)まとめて読んだときに感じられるのは、「こんなの今までなかった」って感覚なんだよな。

 「神」にまつわるお話とか、簡単にうんうんと頷けない部分もあるにはあるけれども、それでもこの、読者を最後まで引っ張っていくパワーはちょっとスゴい。SFを読む楽しみを満喫できる本ですなこれは。

01/3/29

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