マンハッタンを死守せよ

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クライブ・カッスラー 著/中山善之 訳
カバー装画 岡本三紀夫
カバーデザイン 新潮社装幀室
新潮文庫
ISBN4-10-217028-6 \705(税別)
ISBN4-10-217029-4 \667(税別)

ちゃんと探せ、ダーク

 全く新しい推進システムを備えた豪華客船、"エメラルド・ドルフィン"。だがその船が目的地に着くことはなかった。突如船内で発生した火災、ハイテクの限りを尽くしたはずの船内の消火システムはすべて作動せず、猛火はすべての救命ボートも焼き尽くしてしまう。このままでは2000人を超える乗客・乗員に助かる道はないかに思われたそのとき、たまたま近海の調査を実施していたNUMAの調査船が決死の救助作業に駆けつける。彼らの活躍で犠牲者は最小限に抑えられたが、このドラマと同じ時と場所で、もう一つの不可解なドラマもまた発生していたのだった。

 "エメラルド・ドルフィン"の画期的な推進システムの発明者であり、処女航海にも同乗していた科学者、イーガン博士と彼のアタッシェケースを狙う暴漢が、混乱に乗じて彼を襲撃していたのだ。混乱の中、博士は命を落とし、彼のアタッシェケースは娘、ケリーとともに無事救出される。だが、救出されたケリーの元にも襲撃者の影が迫ってきていた…

 "ダーク・ピット"シリーズ最新作。今回は石油メジャーを影から支配する大富豪が、自らの支配力をさらに強めようとする上での暴虐非道な陰謀に、ピットといつもの彼の仲間が敢然と立ち向かうお話。そのお話と同時に、なくなったイーガン博士が娘や親友にも秘密で追っていた歴史上の大発見が絡んできて、みたいな流れ。一時のひどさから立ち直ったこのシリーズ、今回もノリとしてはなかなか快調なんだけど、個人的に読了後の印象は今ひとつ。

 このシリーズが面白いのは、サルベージの専門家のピットが、その自分の仕事中、不可解な、あるいは歴史的には有名でもその実態が明らかになっていないものの調査にあたっている最中に、なぜか別種の事件に巻き込まれ、持ち前の行動力で当座のピンチを脱し(ついでにキレイな女の人と知り合いになり)たと思ったら、なぜかそこから先はピンチの連続。その中でそもそも彼が最初に探していたものの正体であったりありかであったりが徐々に明らかになってきて、ラストはピットたちの大活躍で悪党はぶっ倒され、ピットはまた一つ、歴史のモニュメントを発見する、って所にあると思うんだけど、今回はその宝探しの方の面白さが、お話にうまく絡み合っていないように思う。まず、お話がかなり進んでもピットが、自分が何を探しているのかがわからない、ってことになっちゃってるのが痛いなあ。

 今回のお宝は二つあって、片一方の方はもう、水物SF大好きなあなたや私にとってはもしかしたら神聖な船かも知れないアレだったりして、そこらの興味を冒頭で煽っておきながら、それに対するはったりの裏付けみたいなものが、どうももう一つぴしっと決まってくれない恨みがあるのだね。ついでにカッスラーの登場のタイミングもちょっと早過ぎな様な気がするし(^^;)。

 さらに、冒険小説としてもちょっと、ピットがラストのクライマックスに向けて不屈の闘志でがんばる描写が物足りない感じもする。前作がかなりこのへんがんばってただけに、今回は残念賞かな、って感じですな。

 余談だけどカッスラーのこのシリーズ、「レイズ・ザ・タイタニック」がかなりトホホな映画だったせいで、カッスラー自身がここまでかたくなに映画化に首を縦に振らないでいたらしいんだけど、ここにきてまた映画化の話が持ち上がってるんだとか。最初に予定されてるのは「死のサハラを脱出せよ」らしいけど、さてどうなるんでしょうな。

02/12/06

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