かりそめエマノン

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梶尾真治 著
イラスト 鶴田謙二
カバーデザイン 神崎夢現(海老原秀幸)
徳間デュアル文庫
ISBN4-19-905079-5 \476(税別)

 孤児院で育った。孤児院にやってきたいきさつや両親のことはほとんどわからない。ただ、赤ん坊のころの記憶の中で、確かに自分は誰かと手をつないでいた。それが誰の手だったのか、本当にそんなことがあったのかさえ、今の彼には定かではない。でも、なにか、自分と引き合うものの存在が、赤い光となって彼の脳裏に点滅している、まるで自分の分身が今どこにいるのかを指し示すかのように。彼の名は拓麻。まだ見ぬ彼の分身こそ………

 梶尾真治氏の"エマノン"、書き下ろし長編。地球に生命が生まれた時から現在に至る、全ての記憶を受け継ぎ生きる少女、エマノン。ただ一人の娘のみに代々受け継がれていく生命の記憶と、それを引き継いで生きる少女たちの系譜の中に突然現われた「兄」の存在が意味するものとは、というあたりが今回のウリってことになるのか。エマノンがあまり前に出てこない分、ちょいとリリカルな切なさの部分に物足りなさを感じてしまうけれども、エマノンという存在の内部的な部分にちょいと切り込んでみせたり、今回の主人公である拓麻の視点を通じて鮮やかに語られる戦後日本の情景のイメージの処理で、相変わらずの語りのうまさを感じさせてくれたりと、たっぷり楽しめる。

 ただ、今回は後半の急展開を良しとできるかで、評価はかなり変わってきそうな気がする。オレはどっちかというと否定派で、この展開はちょっと、と思ってしまう。エマノンの魅力ってのは基本的に、現実から半歩、もしかしたら四分の一歩ぐらいずれたところにいる不思議な存在であるエマノンと、現実世界との間にできた関わりにあると思うのだけれど、その"ずれ"の持ってきかたがちょっと、これでは唐突にすぎないだろうかと思ってしまったんだった。それに続くエンディングがとても美しいものだけに、ちょっと惜しかった気がするなあ。

 そうはいってもやはり安心して読める本であることには変わりないんでして。んむ、ときどきこのシリーズも書いてくださいねカジシンさん。あ、それと親子二代の星雲賞受賞、おめでとうございます。それにしてもクロノス・ジョウンターの娘さんが高機動幻想だったとはなあ(^^;)。

01/10/24

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