孤立突破

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クリス・ライアン 著/伏見威蕃 訳
カバー ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-040995-1 \900(税別)

 「偽装殲滅」に続く、クリス・ライアンのジョーディ・シャープものの第4弾。今回はちょっと毛色が変わってて、ミッションを終えて帰還したシャープが、その体験を息子に語るような構成になっている(構成としてそうなっているだけで、実際に息子に対する語り、という形でストーリィが進むわけではないのだけれど)。ライアンはこのお話で、いったんシャープが主人公のシリーズは打ち止めとする構想らしく、そのため、こういうちょっと変わった構成を取ったのだろう。読み終えると分かるけど、こういう構成にしたことでこのお話、かなりいい余韻を持たせて読了できる。なかなかニクいな、もとSASの勇士(^o^)。さて今回のお話は………。

 部族間の内戦状態にあるアフリカの小国、カマンガ。ジョーディたち10人のSAS隊員たちは、カマンガ政府の要請を受け、政府軍の精鋭となるべく発足した部隊、アルファ・コマンドウの訓練のためこの国にあった。数週間の訓練の結果、まだまだ不満は多いがそれなりに使えるコマンドウ部隊ができあがろうとしていた矢先、小さなミスにより現地の少年を部隊のトラックが撥ねてしまうという事故が発生する。手の施しようがないと思われた少年を看取った部族の呪医は、ジョーディーたちに即刻この国を去らなければ、10人の白人が死ぬ、と予言する。薄ら寒いものを感じつつ、ただの迷信と相手にしなかったジョーディたちだが、やがてアルファ・コマンドウが実戦に参加することになったとき、予言もまた現実のものになろうとしていたのだった………。

 「襲撃待機」以来このシリーズは、常に漢字四文字のタイトルが付けられているんだけど、原題は"TENTH MAN DOWN"。いつものハードなSAS隊員たちの戦いっぷりに加えて今回は、未だに(ヨーロッパ人から見た)蛮習と呪術の支配する、暗黒大陸アフリカのオカルティックな色合いも強く出ていて、ちょっと異色の作品になっている。

 呪術が本当に効力のあるものなのか、って部分はさておいても、冒険小説っていうのはしばしば、ジンクスみたいなものに振り回される登場人物たちを描くことでヒロイックな魅力とか悲劇性が強調されることはあるわけで、こういう持って行き方もありだろうな。100%成功しているとは思えない(一部のキャラクタの動機付けとかに、ちょっと不満があるんだな)けど、単に自身のSASでの様々な体験を元に小説を組み立てていたライアンが、さらに小説家として、印象的な設定でプロットに一本芯を通すことができるようになった、って点で一歩前進したと言えるだろう(ちょっと偉そうだなオレ)。

 あまり詳しくは語れないけど、この「10人の白人が死ぬ」、という予言の存在と、その冒険の一部始終が、これまでなかなか心を通わせることができないでいた(この辺は前のシリーズ読んでください)息子に対して語られる、って構造になっているせいで本作のラスト、なかなかどうしてちょっとじーんと来るものになっているですよ。かなりお薦めできるっす。

01/11/25

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