「襲撃待機」

表紙

クリス・ライアン 著/伏見威蕃 訳
カバー ハヤカワ・デザイン
ハヤカワNV文庫
ISBN4-15-040935-8 \800(税別)

 どういうわけだか最近やけに「リモート・コントロール」とその著者、アンディ・マクナブの話をしているような気がするんですけれど、今回ご紹介のこの本も、不思議なことに(そうでもないのか)やはりアンディ・マクナブつながりだったりします。マクナブはもともと英国の特殊部隊、SASの隊員で、その後作家に転身したわけですが、本書の著者、クリス・ライアンもまた元SAS隊員。しかもなんと湾岸戦争のとき、他でもないアンディ・マクナブが指揮する部隊の隊員だったんだそうで。作家の訓練もしてたのかこの部隊は(^^;)

 マクナブの部隊は湾岸戦争のとき、偵察作戦中にイラク軍に包囲され、捕虜になってしまったのだそうですが、このときその部隊の中から脱出に成功し、単身砂漠を横断して見方の許への脱出行に成功した、というまるで映画のヒーローみたいな冒険をやってのけたのが、このクリス・ライアンさんなんだそうです。うーむすごい。少し高い位置から部隊を掌握していたマクナブと、その部隊のなかで、己一人で大冒険をやりとげたライアンの、微妙なポジションの違いみたいなものが出てきているようにみえるのが興味深いところ。マクナブの筆はより客観的で、ライアンのそれはより主観的、って感じかな。クールとホット、みたいな違いがあるかもしれない。

 湾岸戦争で敵の捕虜となり、恐怖の体験を経て帰国したSAS軍曹、ジョーディ。その記憶は母国に帰還した後も彼の心を苛みつづけ、最愛の妻と子供からも距離をおき、酒に耽溺しがちな日々を彼に強いていた。なんとかそんな状況を打開すべく、妻子をいったんベルファストの実家に帰し、自らは厳しいトレーニングを再開し、ようやく悪夢を遠ざけることに成功したかにみえたその時、新たな悪夢がジョーディーを襲う。ベルファストの妻がIRAの自爆テロによって無残な最期を遂げたのだ。

 おりよく北アイルランドに派遣されるスペシャルチームの一員に抜擢されたジョーディーは、積極的に任務をこなしつつ、心の奥底では妻を殺した自爆テロを指揮した人物への復讐に昏い炎を燃やしていたのだった………。

 やっぱりアメリカ的なお話とイギリス的なお話ってのは違うものだなあという気持ちを新たにしました。ハイテクを積極的に使い、大組織の一糸乱れぬ行動で圧倒的な力を集中して事を解決するのがアメリカ的冒険小説、組織はあるけれどもそれにべったり頼ることをせず、最後は自分の考え、自分の体でことを解決するのが英国的冒険小説、といえるかな。クランシーとヒギンズの違い、と言えばなんとなくイメージできるでしょうか。クランシーの作品ですら、世界最強と折り紙をつけられる英国SASで厳しい訓練を積んでいながら、ごく個人的な復讐心を押さえられない、という主人公、ジョーディというヒーロー像がなかなかいいです。

 その一人称の語り口、お話のワキの固め方に少々甘いものを感じたりもするのですが、上官の命令一下、何の疑問も持たずに殺戮マシーンと化す男たちの世界をさんざん見せられると、こういう、自分の体を最大の武器にして戦う男たちの物語を読むってのは、なかなかいいものであると感じられます。続編へのヒキもあって、楽しめる一冊ではありました。早く続きが読みたいですね。

00/1/28

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)