偽装殲滅

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クリス・ライアン 著/伏見威蕃 訳
Cover photo ©K.IWASAKA/amana images
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-040980-3 \820(税別)

 英国が誇る世界最強の特殊部隊、SASの今回の作戦の舞台はロシア。ロシアンマフィアに牛耳られるロシアで、その壊滅を狙うロシア特殊部隊、"タイガー・フォース"にSASの持つ技術のすべてをたたき込むことが彼らの任務。だが、出発直前になって、ジョーディたちにはもう一つの任務が与えられる。それは………。

「襲撃待機」「弾道衝撃」に続く、ジョーディ・シャープものの第三弾。冷戦時代であればおそらく最大の敵であっただろうソビエト・ロシア。ソビエトの崩壊とともに、闇社会を牛耳るマフィアたちの暗躍によってすさんでいくロシアの社会を、かつてはその国を倒すために厳しい訓練を積んでいた兵士たちが救う手助けをすることになるってあたりは歴史の皮肉って感じか。前作から引き続き登場するチームのメンバー、アメリカの友人たちも健在。実際にSASの優秀な隊員であった著者、クリス・ライアンの筆は、とりわけその実際的な作戦の手順の描写の緻密で相変わらずの冴えを見せる。しかも敵は社会の鼻つまみ者ってわけで、まずはロシアの悪党どもを、鍛え抜かれた正義の味方がたたきのめすのを楽しむ本。その部分においては充分に楽しめるし、かつての冷戦構造は完全に無くなったのか、というあたりに絡めた伏線もまあいい。

 でも気になるところもやっぱりあって、一つはシリーズものとしてのヒキの後始末。シリーズの前作を読んだ方ならご存じの通り、ジョーディはたびたび、自分が愛した相手を敵対する勢力によって殺されたり、心の傷を負わされたりして、そのたびに自分も傷つく訳なんだけれども、その傷とジョーディがどう向き合うのか、どう折り合いをつけるのかが、ちと書き込み不足のような気がする。前作でもしばしば気になってはいたんだけど、今回もそこらが手薄かなあ、と思ってしまう。まあ戦闘中に恋人のことばっかり考えてるようなヤツは、あっという間に死んじゃうんだろうけどねえ(^^;)。あと、伏線の効きがイマイチな感じなのも減点かな。

 トム・クランシーばりに、ハイテク技術ばりばりのスタンドオフ攻撃で悪党をやっつけちゃうようなお話に比べれば、遙かに人間臭いところがあって、そこは好きなんだけど、なんていうかこう、人の息づかいみたいなものが今ひとつ伝わってこない恨みはやっぱりあると思う。やっぱり極限まで鍛えられた兵士っちうのは、それ自身が優れたハイテクマシンになっちまうのかも知れないねえ。

01/5/13

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