ピーター・ヘイニング 編/野村芳夫 訳
装画 安田尚樹
デザイン 坂田政則
文春文庫
ISBN4-16-752767-7 \733(税別)
犬猫小説アンソロジーにハッカー小説アンソロジーがあるんだから、クルマ小説アンソロジーがあってもよかべえ、てな意識が働いたのかどうかはよく知りませんが、"クルマ"をテーマに、ミステリ、ホラー、SF畑の一流作家による作品19本を詰め込んだ短編集。とりあえず量的には問題なしだが、肝心の質の方はどないなものか。さっそく読んでみました。
編者のヘイニングさんと言う方、ご自身も作家なんですがその傍らで40年近いキャリアを持ったベテラン・アンソロジストなんだそうですな。アンソロジーはお手の物って感じで、まずは充分な読み応え。なにせここに登場する作家の名前を見ただけで、その豪華さ、ある程度の読み応えは保証されたようなもんではありましょうか。この手のアンソロジーには常連のスティーヴン・キングを筆頭に、SF界からマシスン、ゼラズニィ、エリスン、フィニィ、バラード、さらには久々のイアン・ワトスン。短編の名手ロアルド・ダール、英国の重鎮、ジェフリー・アーチャーとまあ豪華絢爛。とりわけ特撮映画ファンにとっては、スピルバーグの出世作、「激突」の原作、マシスンの「決闘」、イブ・メルキオーによる映画「デス・レース2000年」の原作となかなかにお買い得。予想以上に楽しめましたですよ。
そうはいってもこのアンソロジー、収録されている作品の多くのトーンが、クルマがもたらすものが必ずしも明るいものではない、という方向にシフトしているのがちょっと淋しいかな。極めて人間の身近にあり、その生活の様相を大きく変えた存在にもかかわらず、時としてたやすく人の命を奪ってしまうこともできる、というアンビヴァレントな存在であるクルマってものに、親しめるがゆえに恐ろしい、って感覚がはたらくのかもしれないっすね。
そんな中、いつも通りの(^^;)ハートウォーミングな時間SFを読ませてくれる、ジャック・フィニィの「二度目のチャンス」がもう最高。できればこういうトーンの作品が、もう少し収録されているとうれしかったのだけれど。便利であるが故に空恐ろしい"クルマ"って存在を、その危険性も踏まえたうえで、ただひたすら愛するようなお話も読みたかったな。
01/1/18