魔弾

表紙

スティーヴン・ハンター 著/玉木亨 訳
カバー装画 岡本三紀夫
新潮文庫
ISBN4-10-228607-1 \857(税別)

 1945年、敗色濃厚なドイツ国内の強制収容所に集められたユダヤ人の一団があった。彼らは他の捕虜たちのような過酷な強制労働に駆り立てられるでもなく、かといってただちにガス室送りになるようなこともなく、不思議なほどに恵まれた待遇の下で日々を送っていた。一方、その同じ収容所内部では、親衛隊の精鋭部隊の警護の下、一団の技術者たちが不可思議な研究に没頭している様子。やがてここに、ドイツきっての名狙撃手といわれるレップ中佐が到着したことから、事態は急速に動きはじめる。レップを中心とした一団の狙いとはなにか、その企ての一端を掴んだ連合国側の動きは?

 「極大射程」のスティーブン・ハンターのこれがデビュー作なんだそうです。その後の彼の小説の特徴ともいえる、"狙撃"って部分対する微細にわたるこだわりはデビュー作から顕著。ここに戦争アクション、ユダヤ人にまつわる人種の問題などなど、実に盛りだくさんの内容。まことにこの、満を持してデビューに挑戦した、って感じのする作品。それゆえ消化不良な部分も多いのだけれど、確かにデビュー作でこれだけ書ける人だったら、後にベストセラーを量産するのもわかるよなあ、って感じで。

 ハンターの作品を読むのは、「極大射程」と本書だけなんで、僕の見方は正確でないかもしれないですが、「極大射程」は小説の組み立て方に優れ、「魔弾」は作家の意気込みにおいて優れた作品であるなあと感じました。意気込みが強すぎて、空回りしたり、うまくフロシキがたためてない所も散見されるんですが、「極大射程」で感じた、"面白いんだけど素直に面白がれない"って部分はなく、オレ的にはむしろこの、いろいろ欠点のあるデビュー作の方が好きだな。「極大射程」で感じた、おろそかにされている部分を、ハンターは決して知らん顔しているワケじゃあないって事が判ってちょっとこの人に対する評価を改めなきゃいかんかも、ってな気分。ボブ・スワガーのシリーズも、あといくつか読んでみた方が良いかもしれんね。

 本書はSOIL師匠から譲っていただきました。さんくす。

01/1/20

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