祈りの海

表紙

グレッグ・イーガン 著/山岸真 編・訳
カバーイラスト 小阪淳
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011337-8 \840(税別)

 「宇宙消失」で大喜び、「順列都市」で頭かかえた(^^;)イーガンの、日本版オリジナル短編集。訳・編は山岸真さん、解説は山岸さんに加えて瀬名秀明氏という豪華メンバー。これで文句があるかぁ、ってぐらい力の入った短編集。全然文句ありませんッ!(^o^)

 朝起きるたびに同じ町に暮らす、同じ年代の男性の誰かの体に自分の精神が乗り移っていることを発見する男の謎を描く「貸金庫」、脳細胞の劣化をフォローする"宝石"と呼ばれるチップを自らの脳に埋めこみ、ある時点で自分の精神活動の制御を、"宝石"側に受け渡すことが一般化した近未来に生きる一人の若者を主人公にした「ぼくになることを」、人類の起源を求める流れの中、唯一一人の男性の優勢を主張する一派と、同じくただ一人の女性が人類の起源であるとする一派が互いの主張を譲らずに紛糾している時代に、遺伝子工学者としてこの争いに巻き込まれてしまった主人公の物語を描く「ミトコンドリア・イヴ」などなど、その短編群に共通するのは解説でも語られてる通り、"アイデンティティ"をキーワードに、ほどよくミステリの要素も加味された、新しく、しかもオーソドックスなスタイルを持った短編たち。どいつもこいつも魅力的。

 "アイデンティティ"をテーマにする、というとやはりディックの一連の作品が頭に浮かぶ訳ですが、ディックが追いかけたのが「オレってホントにオレなの?」てものだったとすると、イーガンのそれは「オレがオレであるってどういうこと?」ってな感じであるような気がする。この微妙な違いが、作品の質を化なり違ったものにしているように感じられるのがとても興味深い。オーソドックスな(小粒でもぴりりと辛いミステリ仕立てが心地よいです)中にも最新の情報を詰め込んだ作風もとてもいい。

 これまでに50以上の短編を書いて来たイーガンさん、じつはここ(「順列都市」あたり)までは必ずしも長編には慣れていなかったようで、オレが「順列都市」からうけたわけわからなさみたいな物も意外と故なきことでもなかったのではなかったのかもしれないな、などと思ってしまったですよ。一作一作、長編のツボの押さえ方も判ってきているはずの、これから訳出される予定のイーガン作品への期待も、いやましになろうってもんですな(^o^)

00/12/27

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