「宇宙消失」

表紙

 グレッグ・イーガン 著/山岸真 訳
 カバーイラスト&デザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ.
 創元SF文庫
 ISBN4-488-71101-4 \700(税別)

 いつ放射性元素の崩壊が起きて毒ガスが充満するかわからない状態の箱の中に一匹の猫がいる。箱をあけたときに猫が生きているか死んでいるかは純粋に確率の問題でどちらかはわからない。観測者が箱の蓋を開けるまで、箱の中にいる猫は生きているかもしれないし、死んでしまっているかもしれない。この時点で箱の中の猫は二つの可能性を同時に合わせ持った状態になっている。だが、観測者が蓋を開けたときに見る猫は、生きているか、死んでいるかのどちらか一方でしかない。それでは猫が持っていた二つの可能性が一つに収斂するのはいったいいつなのか。猫を入れたときか、放射性元素が崩壊したとき(あるいはしないとき)か、観測者が蓋を開けたときか………てのが有名な"シュレディンガーの猫"。量子力学を語るときにちょくちょく引き合いに出される命題でありますが、この量子力学の考え方をバックボーンに、ギブソンばりのサイバー・ハードボイルド。しかもワイドスクリーン・バロックばりのしかけまでぶち込んだ強力ハードSF。圧倒的に面白い!

 わたしゃ基本的に文系の人で、波動関数がどーしたこーしたとか量子力学があーだこーだという話は全くわかりません。でもそんなのわかんなくても大丈夫。良質のハードSFってのは、理系の人間じゃなくてもそのふろしきの大きさに搦め取られる快感ちうのがある、とかねがねワタシは信じてるんですが、そんなワタシの信念が間違ってなかったと久々に思わせてもらいました。ホーガンの初期の作品を読むようなわくわく感があります。

 お話はこんな感じ。

 ある日夜空から星が消えた。理由も原因も解らぬまま、太陽系全体が"バブル"と呼ばれる謎の皮膜ですっぽりと被われてしまったのだ。当初はパニックに陥った人類だったが、星が見えないだけどそれ以外、生活に何の影響もないことが解ってくるにつれて、人間の生活はまた平常なものに戻っていく。そんな時代のオーストラリア。元警官の私立探偵、ニックの下に匿名の依頼が舞い込んだ。先天的な脳損傷をもった女性患者が、高度なセキュリティで護られた精神病院から忽然と姿を消したというのだ。その患者、ローラの捜索を開始するニック。だがやがて彼の前にはさらに巨大な謎が立ちふさがって………

 いきなりの"星が見えない"って設定の謎、ちょうどエフィンジャーの"ブーダィーン"シリーズを髣髴とさせるサイバー探偵、しかもこれもどこかエフィンジャー作品に共通するイメージのある(あちらは"モディ"でしたか)、"モッド"と呼ばれるナノマシンによる人間の機能を強化するシステム、あちこちに値段つきで(^^;)紹介されるガジェットの数々、小さなモノから大きなモノまで、ってなんかディーゼルみたいですが(笑)、念入りに仕組まれたSF的アイデアと、豪快なSF的ヘリクツのアクロバット。これこれ、これですよSFってのはぁ!ってうれしくなっちゃう一冊。絶対損しませんって、これは読むべし!(^o^)

99/9/8

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