午後の行商人

表紙

船戸与一 著
カバーデザイン 多田和博(フィールドワーク)
カバーフォト ©PPS通信社
講談社文庫
ISBN4-06-273009-X \876(税別)

 中南米経済を研究したい。そう言い残してメキシコに留学したぼく、香月哲夫。だが本当はそれほどに向学心に燃えての留学と言う訳でもなく、むしろ適当な理由をつけてのモラトリアムでしかないものだった。そんな気持ちで向かった異国の地で、勉学に没頭できるはずもなく、日本の暮らしから逃げていったその先で、また新たな逃げ場所を求めてさまよい歩く日々が続く。そんなある日、ふらりと立ち寄ったとある街で強盗に襲われ、持ち金と父の形見のロレックスの腕時計を奪われ、路上にのされたところから、彼の人生は大きく変わっていく。路上に倒れた彼を助け起こした人物、それはタランチュラと名乗る謎めいた老人だった………

 船戸与一文庫版の最新刊。ええい、「直木賞受賞」ばっかり騒ぎたてんじゃねえ。そんな賞とる前からフナドの本は面白いんでいっ。評価すんのが遅すぎるんだよ。でもまあ日本じゃ冒険小説って格下扱いだからなあ。こういう賞で冒険小説がさらに元気よくなってくれたら、それはそれでうれしいことっす。どうもここまで、冒険小説寄りの作品でも、直木賞作品ってどうも小粒な感じがしてたんで、骨太な船戸作品が評価されたのはめでたいですね(^o^)。

 本書の舞台はメキシコ。主人公は所在ない日本人と謎めいた故物商の老人。その背後にある民族解放組織、"サパティスタ"とそれを圧殺しようとする政府側の陰謀………。このへんの背景については、船戸さん自身によるルポルタージュ、「国家と犯罪」にも詳しいので興味があれば読んでいただくとして、いや、久々に船戸作品らしい船戸作品を読んだ気分。シチュエーションがあの大傑作、「山猫の夏」に通じるものがあるように感じられるせいもあってそう思ったのかもしれないけれど、あちらが徹頭徹尾リアルな雰囲気を醸していたのに比べ、こちらはどこかに幻想的なイメージをたたえた作品になっていて、またちょっと違った魅力があります。

 基本は復讐譚なんですけれど、そこに今の日本の、それなりに閉塞されてはいるけれども基本的に甘やかされ放題の日本人って状況に対する痛烈な批判もあって、あいかわらず船戸さんはキビシイ(^^;)。残暑のなか、汗かいて読むべし。やっぱフナドはいいぞ(^o^)。

00/9/20

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