最後の人質

表紙

ジョン・J・ナンス 著/飯島宏 訳
カバー装画 岡本三紀夫
新潮文庫
ISBN4-10-204714-X \629(税別)
ISBN4-10-204715-8 \629(税別)

 「着陸拒否」「メデューサの嵐」と、良質の航空サスペンスを読ませてくれるJ・J・ナンスの新作。今回はハイジャッカーとそれを追うFBIの心理専門家の女性捜査官、キャットの息詰まる心理面の攻防を縦糸に、不可解な要求を突きつける謎のハイジャッカーと彼の真の目的にまつわる謎を横糸に、ミステリーの要素を隠し味に効かせてまずは満足。この人のお話は毎回読ませてくれます。

 お話はこうだ。130人の乗員・乗客を乗せて飛び立ったエアブリッジ90便のボーイング737。だか、離陸直後のトラブルで地方空港に降り立ったエアブリッジ90は、副操縦士と、乗客のうちパイロット経験のある者が不可解な理由で機外におろされた直後、突如再離陸してしまう。彼らが機外に下りると同時に何者かが機内に入り込んだのか?コクピットのドアは堅く閉ざされ、その内部で何がおこっているのかは皆目判らない。やがてついに乗務員としてはただ一人コクピットに残っている機長の口から、エアブリッジ90がハイジャックされたことが伝えられる。だが、その要求は、かつて一度は逮捕されながら証拠不十分で釈放された連続幼女虐待犯の逮捕と追起訴という、およそ普通のハイジャッカーの要求からは想像もつかないものだった。たまたま空港に居合わせた大富豪のビジネスジェットを借りてエアブリッジ90便を追跡するキャットは、機長を通じて語られる犯人の要求を聞くうち、一つの結論にたどりついた。それは………

 なんて書き方するとカンのいい人はある程度予想がついちゃうかなあ(^^;)。ディーヴァーの「静寂の叫び」なんかもそうだったんですが、犯人vs捜査官の、心理面での丁々発止ってのは、ハデな見せ場がないにも関らず、その緊張感はなみなみならぬものがあって僕は大好きなんですが、本作にもそういうサスペンスフルな部分がたっぷりあって読み応えがありますね。この手のお話にありがちなパターンとはいえ、優秀ながら上役の無理解と保身に振り回され、しばしば望みもしない窮地に立たされてしまう、追う側の主人公と、追う側を凌ぐ知力と行動力を備えながら、追われる側ゆえの心理的ストレスにさらされていくハイジャッカーの心の揺れが細やかに描き出されて迫真の緊張感。やがて明らかになるんですが、ハイジャッカーにはそれ以前にもすでに大きなストレスをかかえる理由があって、この先どうなってしまうのか、てなハラハラ感、この手のストーリーではお約束(^^;)の追う側と追われる側の心の通じ合いみたいな物まで過不足なく描かれてて実に楽しく読ませていただきました。

 アッと驚く、とまでは行かないまでも充分読む側を驚かせてくれるドンデン返し、ラストの爽やかな読後感、いや、これはいいです。オススメ。原題通りの邦題、「最後の人質」って言葉もなかなか、意味深ですゾ(^o^)。

00/9/5

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