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新潟市|佐藤正社会保険労務士事務所/TEL:025-277-0927

就業規則Q&A

就業規則個人情報保護Q&A


 就業規則就業規則の作成と届出就業規則の実務個人情報保護


 就業規則

 就業規則とは何か

 就業規則の届出義務のある10人以上の労働者の数え方

 常時使用する労働者の定義はあるか

 就業規則の作成と届出

 
就業規則の作成手順

 就業規則には必ず定めなければならない事項がある

 厚生労働省モデル就業規則

 労働者の過半数代表者の選任はどうする

 労基署へ届出しない就業規則は効力がないのか

 就業規則の一括届出制度とは何か

 労働者に周知しない就業規則の効力はどうなる

 就業規則は会社が勝手に変更できるか

 就業規則の作成は社会保険労務士の独占業務

 就業規則の実務

 マイカー通勤規程は必要か

 マイカーの業務使用を認めている場合の使用者責任はどうなる

 従業員が業務用自動車で駐車違反をした場合の反則金は誰が支払うのか

 飲酒運転に関する規定は必要か

 出向社員に対する就業規則の適用はどうなっている

 就業規則・労働契約・労働協約の関係


 個人情報保護

 個人情報保護法の適用対象事業者

 事業者が守るべき個人情報保護法の4つのルール 

 2022年4月から施行される改正個人情報保護法のチェックポイント


 就業規則とは何

 就業規則は、従業員の労働条件や職場規律など職場のルールをを具体的に定めたもので、云わば会社の法律といえます。労働基準法89条では「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、(中略)就業規則を作成し、行政官庁に届出なければならない。(中略)変更した場合においても、同様とする。」として、使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。

 就業規則は、企業においては従業員の労働条件等を統一して処理できることにより職場の秩序が維持でき、生産性の向上が図れると同時に、従業員とのトラブル防止に役立つというメリットがあります。また、従業員にとっても労働条件や職場のルールが定められることにより、安心して働くことができるというメリットがあります。

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 就業規則の届出義務のある10人以上の労働者の数え方

 労働基準法89条は「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、(中略)就業規則を作成し、行政官庁に届出なければならない。」として、使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。

 「常時10人以上」とは、時として10人未満になることがあるが常態として10人以上の労働者を使用する場合をいい、その人員は会社全体でなく事業場単位で判断されます。行政通達では「支店・営業所共それぞれに独立した事業と見られる場合においては作成義務はない。」としてます。
 例えば、A社の本社に8人、B支店に5人、C営業所に3人の従業員がいるケースでは、各々で見れば10人以上の労働者を使用する事業場ではありませんので、B支店・C営業所が独立した事業であれば、本社・B支店・C営業所の何れの事業場も就業規則の作成・届出義務はありません。
 一方で、B支店・C営業所が本社との組織的な関連や事務処理能力などを考え合わせて独立性がないとするならば、会社全体での常用労働者が10人以上となって、就業規則の作成・届出義務が生じることになります。

■ 派遣社員の数え方→ 派遣元で労働者数としてカウントします。

■ 出向社員の数え方
(1) 在籍出向の場合→ 出向元、出向先の両方で労働者数としてカウントします。
(2) 移籍出向の場合→ 移籍先のみで労働者数としてカウントします。

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 常時使用する労働者の定義はあるか

 労働基準法上における常用労働者の定義については、特に通達等にも見当たりません。
 労働法コンメンタールでは、「常時10人以上の労働者を使用するとは、時としては10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を使用しているという意味である。したがって、常時は8人であっても、繁忙期等においてさらに2〜3人雇い入れるという場合は、含まれない。」としています。
 なお、安全衛生法における常用労働者の定義や、パートタイマー等の健康診断については具体的な解釈例記があります。

(関連Q&A)安全衛生法上の常用労働者の定義とは

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 就業規則の作成手順

 就業規則の作成・変更手順は概ね以下のようになります。

1 就業規則の案文を作る
 就業規則は、会社規模や業種・就業形態、企業理念などで内容は異なりますので、サンプル就業規則などをそのまま自社の就業規則とすることはお勧めできません。サンプル就業規則を土台とするとしても、各条文が自社の実態と合致しているかどうか精査する必要があります。
 また、就業規則の内容も、法改正や社会情勢の変化等で都度見直しが必要であり、一度作ったらそのままもお勧めできません。できれば、各条文が会社の実態と乖離していないかなど精査し作成してくれる、就業規則に精通した社会保険労務士に相談されることをお勧めします。
 なお、就業規則は法令や労働協約に反したものであってはなりません。
●(関係法令)労働基準法92条
 就業規則は、法令又は当該事業場に適用される労働協約に反してはならない。行政官庁は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。

2 労働者代表の意見を聞く
 「意見を聴く」とは諮問するとの意であり、法は同意を得るとか協議をするとかいうことまで要求していません。労働者代表の意見を尊重するとしても、その意見を取り入れるかどうかは会社の判断とされますが、就業規則変更の場合において労働条件低下となる場合は注意が必要です。
●(関係法令)労働基準法90条1項
 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
(参考Q&A)就業規則は会社が勝手に変更できるか

3 就業規則を所轄の労働基準監督署に届ける
 労働者代表の意見書を添付して、就業規則を所轄の労働基準監督署に届けます。なお、意見書には労働者代表の署名または記名押印が必要です。労働者代表から意見書を拒否されたときは、意見を聴いたことを客観的に証明した事情説明書を添付します。
●(関係法令)労働基準法90条2項
 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

4 就業規則を従業員に周知する
 作成した就業規則は、労働者に周知しなければなりません。
●(関係法令)労働基準法106条
 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知しなければならない。
【注】「その他厚生労働省令で定める方法」とは、磁気テープ・磁気ディスク等に記録し、かつ各作業場に労働者がその内容を常時確認できる機器を設置することをいいます。

5 就業規則を活用する
 就業規則を作っても、活用せずに放置しておけば宝の持ち腐れです。管理者に自社の就業規則の内容を理解してもらい部下の労務管理に活用すれば、管理者によってまちまちであった指導方針が統一されると共に、職場規律の向上やモチベーションアップに繋がり、会社の発展に良い方向で影響するようになります。
 例えば、ある事項について管理者により異なる見解を述べたり、従業員に異なる取扱いをしたりすると「なぜ○○さんは良くて私は悪いの?」など従業員の不信感が募り、モチベーション低下に繋がります。このような場合、管理者が就業規則の該当箇所を示して指導すれば労務管理も容易となり、職場規律も公平に保たれます。したがって、ある程度精度の高い就業規則が必要となる所以です。

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 就業規則には必ず定めなければならない事項がある

【解説】下記に転載した労働基準法の条文に沿って解説します。
(1) 絶対的必要記載事項
 労基法89条の1号から3号では、就業規則を作成する際に必ず定めなければならない事項を規定しています。
(2) 相対的必要記載事項
 同3号の2から9号までは、定めをする場合に必ず記載しなければならない事項を規定しています。言い換えれば、定めをしなければ記載しなくともよい事項です。
(3) 当該事業場の労働者のすべてに適用される定め
 同10号に該当する場合は、就業規則の作成および労基署への届出義務があります。法では、すべての労働者に適用させる定めは何かの具体的な明示は見当たりませんが、労働法コンメンタールの以下の文章が参考になります。したがって、以下により、すべての労働者に適用しないのであれば、労基署への届出も必要ありません。
(コンメンタール下p904)
 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めには、現実に当該事業場の労働者のすべてに適用されている事項のほか、一定の範囲の労働者のみに適用される事項ではあるが、労働者のすべてがその適用を受ける可能性があるものも含まれると解すべきであろう。したがって「旅費に関する一般的規定をつくる場合には、労働基準法第89条第10号により就業規則の中に規定しなければならない(S25.1.20基収第3751号、H11.3.31基発第168号)」し、休職に関する事項、財産形成制度等の福利厚生に関する事項等も、労働者のすべてに適用される事項として就業規則のなかに規定されるべきものと解される。

●労働基準法89条(作成及び届出の義務)
 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
1 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
3の2 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
4 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
5 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
6 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
7 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
8 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
9 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
10 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

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 厚生労働省モデル就業規則

■ モデル就業規則

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 労働者の過半数代表者の選任はどうする

 労働基準法90条は「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。」としています。
 なお、労働者の過半数で組織する労働組合がない事業業における労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)とは、以下とされます。労基署の調査でも、過半数代表者の要件や手続の形骸化を指摘されるケースがあり注意が必要です。
 
□ 労働者の過半数代表者の要件
●(参考通達)S23.4.5基発535号
 次のいずれの要件も満たすものであること。
(1) 労働基準法41条2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
(2) 法に基づく労使協定の締結当事者、就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であり、使用者の意向によって選出されたものではないこと。

□ 労働者の過半数代表者の選出手続
●(参考通達)H11.3.31基発169号
(問)則第6条の2に規定する「投票、挙手等」の「等」には、どのような手続が含まれているか。
(答)労働者の話合い、持ち回り決議等労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が該当する。
(参考)厚生労働省のリーフレット「36協定の締結当事者となる過半数代表者の適正な選出を!

■ 違反例(2012.3.21毎日新聞)
 伊勢労働基準監督署は、鳥羽市の旅館の社長(60)、執行役員で業務支配人(53)、総務部長(42)、同社の顧問社会保険労務士(55)の男女4人と法人を労働基準法と労働安全衛生法違反の疑いで、津地検伊勢支部に書類送検した。
 同署によると、昨年6月、就業規則に関する協定を従業員の過半数を代表とする者と結ばなければならないのに、代表でない従業員に押印させた違法な協定届けを作成し、最も長い従業員で昨年8月21日から1ヶ月間で、129時間の残業をさせたなどとしている。4人は容疑を認めているという。昨年12月、同労基署に内部告発があり、捜査していた。
 この旅館は江戸時代の天保年間(1830〜44)の創業の老舗で、現在は10階建ての南館と15階建ての新館を合わせ、伊勢志摩地域では最大級の180室1030人の収容を誇る。従業員は約240人。 

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 労基署へ届出しない就業規則は効力がないのか

 労働基準法89条は「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、(中略)就業規則を作成し、行政官庁に届出なければならない。」としています。行政官庁とは所轄の労働基準監督署をいいます。では、労働基準監督署に届出なかった就業規則は、効力はないのでしょうか。
 判例では「就業規則はこれを作成し、実施している以上行政官庁に届け出なくても、その効力に影響がない。」として、仮に届出を忘れたとしても効力には影響しないとしています。ただし、届出をしないと労働基準法89条違反になります。
 
 なお、常時10人未満の労働者を使用する使用者については、就業規則の作成及び届出を免除するという意味合いですので、作成することは自由ですし、労働基準監督署に届出ることも可能です。

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 就業規則の一括届出制度とは何か

 本社のほかに、支社・支店・営業所などを設けている企業は多いと思われますが、就業規則は本社の所在地を管轄する労働基準監督署へ届出るのは当然のことながら、各事業場(支社・支店・営業所など)の所在地を管轄する労働基準監督署へも各々届出る必要があります。
 ただし、就業規則が本社と支社・支店・営業所などが同じ内容であるときは、本社で一括して届出できるという制度があります。これを就業規則の一括届出制度といいます。

□ 就業規則の一括届出方法
 本社の所在地を管轄する労働基準監督署に以下を提出します。
(1) 就業規則(変更)届
 本社および各事業場を管轄する労働基準監督署宛の各々の届書(各正本および副本)を届出ます。
(2) 就業規則正副2通
 就業規則の一括届は、本社の所在地を管轄する労働基準監督署が便宜上受理し、各労働基準監督署へ送付するということですので、労働基準監督署の数×正副2通が必要です。(例えば、本社の所在地を管轄する労働基準監督署のほかに各事業場の所在地を管轄する労働基準監督署が2署ある場合は、正副2通×3が必要となります。)
(3) 意見書の正本
 意見書は、本社および各事業場(支社・支店・営業所など)ごとに作成する必要があります。本社および各事業所ごとに作成した意見書の正本(および事業場控えのコピー)を添付します。
 ただし、各事業場の過半数が単一組織の労働組合に加入している場合であって、各事業場の過半数労働組合の意見が同一である場合は、労働組合本部の意見書(記名押印のある正本)に「全事業場の過半数労働組合とも同意見である」旨記載し、当該労働組合本部の意見書を添付する方法も可能です。
(4) 届出事業場一覧表
 一覧表の欄外に「本社の就業規則と同一内容である」または「変更前の就業規則の内容は本社の就業規則と同一内容である」と記載します。(1)と同様に、本社の事業場を管轄する労働基準監督署に1通(および事業場控えのコピー)と、他の労働基準監督署の数分のコピーを添付します。なお、様式例は以下の厚労省のサイト(4ページ)を参考にしてください。

(詳細)厚労省のサイト

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 労働者に周知しない就業規則の効力はどうなる

 労働基準法106条1項では、就業規則を「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知しなければならない。」としています。
 また、労働契約法7条では「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」としています。したがって、就業規則に記載してある労働条件等を有効とするためには、まず周知していることが前提であるといえます。
【注】ここでいう就業規則とは、賃金規程や退職金規程などの社内規程や、就業規則の委任を受けて定められた内規、労働基準法等で規定している労使協定なども含むとされます。

●(関係法令)労働基準法施行規則52条の2
 法第106条第1項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
(1) 常時作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
(2) 書面を労働者に交付すること
(3) 磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること 

【解説】上記のように、就業規則を個々の労働者に交付することまでを義務としていません。したがって、就業規則を各事業場に備え付けておく、或いはパソコンなどで常時確認できる状態としておけば周知したこととされます。

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 就業規則は会社が勝手に変更できる

 就業規則の作成・変更の際は、過半数労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴く必要があります。
 所轄の労働基準監督署には、就業規則作成(変更)届に労働者代表の意見書を添付して提出しますが、労働者代表から意見書の提出を拒否されたときは、意見を聴いたことを客観的に証明した事情説明書を添付すれば受理するとしています。ただし、労働契約法においては、労働条件の低下を伴う就業規則の変更は不利益変更とされていますので注意が必要です。
● 労働契約法9条
 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
● 労働契約法10条
 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他就業規則の変更に係る事情に照らし合理的なものであるときには、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めところによるものとする。

【解説】労働契約法10条の「合理的なものであるとき」の判断材料としては、秋北バス事件(最判 S43.12.25)の判断が参考になります。
(1) 労働条件を低下させないことによる経営上のデメリットはどうか
(2) 同業他社に比べ自社の水準はどうか
(3) 代替措置が講じられており、労働者の被る不利益は小さいか
(4) 従業員の大半はやむを得ないと思っているか
等を総合判断することとされ、個々の労働者の同意までは必要としないまでも、引き下げる必要性を十分に説明・協議し、少なくとも労働組合や従業員代表の理解は得る必要がある、としています。

 なお、最近の注目にすべき判例では、退職金減額に伴う就業規則の不利益変更に対して労働者が同意をしていた場合に、労働者は当該就業規則に拘束されるかが争われた「山梨県民信用組合事件(最判 H28.2.19)」があります。
 本判決は、労働者が就業規則の不利益変更に同意している場合は、労働者は当該合意によって就業規則の変更に拘束されるという「合意基準説」を採った点で注目されています。ただし、同意を得る前段として、労働者への情報提供や説明が充分になされていないとして、原審に差し戻された点も重要です。
 就業規則の不利益変更に際して労働者から同意を得る際には、労働者への情報提供と説明を充分に行うというプロセスを踏むという点がポイントになると思われます。 

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 就業規則の作成は社会保険労務士の独占業務

 労働基準法により、常時10人以上の労働者を使用する使用者については就業規則の作成とその届出を義務付けられていますが、社会保険労務士法2条1号および1号の2により、就業規則の作成および提出代行は社会保険労務士の業務とされ、この業務を行政書士など社会保険労務士でない者が他人の求めに応じ報酬を得て業として行うと、社会保険労務士法27条違反で刑事罰の対象とされます。
 また、就業規則の届出義務のない常時10人未満の労働者を使用する使用者からの依頼に基づく就業規則作成についても同様に、社会保険労務士の独占業務とされます。これについても、社会保険労務士でない者が他人の求めに応じ報酬を得て業として行うと、社会保険労務士法27条違反となるとの行政見解が示されています。(平成23年12月23日、基監発1221第1号)

 一方、社会保険労務士法27条但し書きで「他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合はこの限りでない。」としており、同法施行令2条で、政令で定める業務を公認会計士および税理士の業務としています。
 当該規定により、公認会計士および税理士が就業規則の作成および申請代行をできるか否かは疑義のあったところでしたが、全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会が2002年4月に交わした確認書により、「社会保険労務士法第2条第1項第1号の2の業務(提出代行)及び同項第1号の3の業務(事務代理)は、付随業務ではないこと。」とされましたので、税理士は業として、労働社会保険や就業規則などの提出代行および事務代理はできないとされています。

■ 社会保険労務士法27条抜粋
 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号に掲げる事務を業として行ってはならない。

■ 社会保険労務士法2条1号および1号の2抜粋
 社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする。
1 別表第1に掲げる労働及び社会保険に関する法令に基づいて申請書等を作成すること
1の2 申請書等について、その提出に関する手続を代わってすること
【注】上記1の別表第1に、労働基準法が含まれています。

■ 労働基準法89条抜粋
 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

■ 社会保険労務士法32条の2抜粋
 次の各号にいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
6 第27条の規定に違反した者

■ 税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書 
 全国社会保険労務士会連合会及び日本税理士会連合会は、社会保険労務士法第27条但し書及び同法施行令第2条第2号に基づく付随業務の範囲に関する協議において、下記のとおり意見の一致をみたのでここに確認する。
1 税理士又は税理士法人が社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を行うことができるのは、税理士法第2条第1項に規定する業務に付随して行う場合であること。
2(1) 上記1にいう税理士又は税理士法人が付随業務として行うことができる社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務は、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものであること。
 (2) 社会保険労務士法第2条第1項第1号の2の業務(提出代行)及び同項第1号の3の業務(事務代理)は、付随業務ではないこと。
3 付随業務に関して疑義が生じた場合は、その都度、全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会との間で協議の上、解決を図ることとする。なお、年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反する。

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 マイカー通勤規程は必要か

 マイカーの利用を通勤のみに限定するなら問題はないと思われますが、マイカーを業務上に使用することを禁止することは重要です。会社が業務上の使用を認め、従業員が業務中に交通事故を起こした場合、会社も当該交通事故に関する使用者責任を問われるのが一般的です。
 また、やむを得ずマイカーの業務使用を必要とするような場合においては、少なくてもマイカー業務使用規程等の専用規程の整備は必須と思われます。

□ マイカー通勤を認める際のポイント
(1) 会社は従業員に対する安全配慮義務がありますから、会社がマイカー通勤を認める場合は少なくても許可制にすべきです。
(2) 許可する際には、運転免許証の確認に留まらず自動車任意保険の加入確認は必要です。任意保険は「主にレジャー使用」「主に通勤使用」「主に業務使用」など、使用目的に応じ保険料を安くしているケースも見受けられますが、レジャー使用の場合は保険金が支払われないこともあります。したがって、通勤使用以上であることをも確認する必要があります。
(3) 自動車任意保険の更新は1年ごとであることから、許可申請も少なくても1年ごとに行った方がよいでしょう。
(4) 従業員が許可申請を行わない場合や任意保険に加入しない場合などは、会社の駐車場を利用させない、通勤手当を支給しないなどをマイカー通勤規程などに規定しておけば万全です。

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 マイカーの業務使用を認めている場合の使用者責任はどうなる

 社員がマイカーを業務として使用中に交通事故を起こし人身事故や物損事故を起こした場合、一般に当該社員のみならず使用者である会社も損害賠償責任を負うとされます。
 仮に、会社がマイカー通勤は認めるがマイカーの業務使用は禁止するとすれば、社員の通勤途中の交通事故に関しては会社は損害賠償責任を負いません。これが、会社がマイカーの業務使用を認めている、或いは業務使用を黙認しているようなケースでは、使用者責任に基づく損害賠償責任を負う可能性は高いと思われます。

□ ポイント
 前段のケースでは、少なくても就業規則等にマイカーの業務使用は禁止するとの一文を入れておき、できればマイカー通勤管理規程等を作成しておけば万全です(前項参照)。やむを得ず、マーカーを業務に使用させる場合は、マイカー業務使用規程等を作成し、責任の所在を明確にしたうえで業務上の車両として管理を行うことが必須となります。

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 従業員が業務用自動車で駐車違反をした場合の反則金は誰が支払うのか

 従業員が会社所有の業務用自動車等で違法駐車をした場合、駐車違反をした本人が反則金を支払うことになりますが、当該従業員が反則金を納付しないと企業が公安委員会から反則金納付命令を受けます。対策として、車両管理規程等に以下の規定例を追記することをお勧めします。

■ 規定例
第○条 駐車が必要な場合は、必ず正規の駐車場を利用し、違法駐車をしてはならない。
2 業務上、駐車場の利用が必要な場合は、事前に、やむをえない場合は事後に車両管理者に届出ることにより、駐車料金を請求することができる。
3 交通違反による罰金(反則金)は原則として全額本人負担とする。駐車違反による反則金を本人が支払わず、会社が公安委員会から違反金納付命令を受け、会社がこの違反金を納付した場合には、本人は会社に対し、違反金相当額を支払わなくてはならない。

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 飲酒運転に関する規定は必要か

 2004年の福岡飲酒事故による飲酒運転に対する世論の高まりを受け、特に行政機関においては飲酒運転に対する厳格化の方向に舵を切りましたが、最近の判例をみると、飲酒運転に対する処分の妥当性について厳しすぎるという判示も目立つようになっています。
 とは言うものの、特に指定管理者等(注)は行政の飲酒運転に対する取組みに足並みを揃えておく必要があります。また、一般の企業(特に交通運輸業に携わる企業等)においても飲酒運転に対する取り組みを放置しておくことはリスクとなります。
【注】行政組織のスリム化傾向に伴い、従来は行政が直営で行っていた事業を指定管理者等により民間へ委託するケースが増えています。

■ 規定例
 懲戒規定等に以下の条文等を追記します。指定管理者等であればこの程度の記載は必要と思われます。その他の企業は、必要に応じ処分内容等の変更も可能です。

第○条 次の行為を行った者は、懲戒解雇とする。但し、情状(「行為の動機・態様及び結果、故意又は過失の程度、当該従業員の職務、他の従業員及び会社に与える影響、過去の非違行為の有無、日頃の勤務態度及び事件後の対応等」をいう。以下同条において同じ。)により、諭旨退職又は減給若しくは出勤停止とすることがある。
(1) 酒酔い運転又は酒気帯び運転で人を死亡させ、又は傷害を負わせた者
(2) 酒酔い運転又は酒気帯び運転をし、物の損壊に係る交通事故を起こした者
(3) 改悛の意思なく酒酔い運転又は酒気帯び運転を繰り返した者
2 次の行為を行った者は、情状により、減給又は出勤停止とする。
(1) 酒酔い運転又は酒気帯び運転をし、検挙された者
(2) 酒酔い運転又は酒気帯び運転と知りながら同乗した者、又は酒酔い運転又は酒気帯び運転になることを知りながら飲酒を勧めた者

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 出向社員に対する就業規則の適用はどうなる

 出向社員であっても、業務上の指示・命令は出向先で受けることになりますから、原則として出向先の就業規則が適用されます。ただし、異動や退職・解雇など身分上の事項に関しては出向元の就業規則が適用されます。

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 就業規則・労働契約・労働協約の関係

 就業規則、労働契約、労働協約の関係は、効力の強い順に次のようになります。
 労働協約>就業規則>労働契約

● 参考条文
(1) 労働基準法92条「就業規則は、法令又は当該事業場に適用される労働協約に反してはならない。」
(2) 労働契約法12条「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」

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 個人情報保護法の適用対象事業者

 2017年5月29日以前は、取り扱っている個人情報の数が5,000人分以下の事業者が個人情報保護法の対象外となっていましたが、2017年5月30日以降は、個人情報を扱うすべての事業者が法の対象となり、営利・非営利の区別なく、自治会・町内会、PTA、マンション管理組合、同窓会、サークル、NPO法人などの団体も個人情報保護法の対象となっています。

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 事業者が守るべき個人情報保護法の4つのルール

 個人情報保護委員会では、中小企業向けに、事業者が守るべき4つのルールを「シンプルレッスン」として公開しています。具体的には以下の4つですが、詳細は「はじめての個人情報保護法 〜シンプルレッスン〜(2022年2月発行)」をご参照ください。

1 取得・利用
 利用目的を特定して、その範囲内で利用する。
 利用目的は、あらかじめ公表しておくか、個人情報を取得する際に速やかに本人に通知又は公表する。
2 保管・管理
 漏えい等が生じないよう、安全に管理する。
 従業者・委託先にも安全管理を徹底する(持ち運ぶ場合も要注意)。
3 第三者提供
 第三者に提供する場合は、あらかじめ本人から同意を得る。
 第三者に提供した場合・第三者から提供を受けた場合は、一定事項を記録する。
4 開示請求等への対応
 本人から開示等の請求があった場合はこれに対応する。
 苦情等に適切・迅速に対応する。

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 2022年4月から施行される改正個人情報保護法のチェックポイント

2022年4月から施行される改正個人情報保護法について、国・独立行政法人等や地方公共団体に関するものを除き、民間事業者に適用される重点ポイントを、個人情報保護委員会によるチェックポイントに基づき、「民間事業者向け個人情報保護法ハンドブック」と照らし合せてみました。
(参考)民間事業者向け個人情報保護法ハンドブック

● 6か月以内に消去するデータについて、開示請求の対象となります。また、個人データを提供・受領した際の記録も開示請求の対象となります。開示方法については、本人が指示できるようになります。このほか、本人による保有個人データの利用停止・消去等の個人の請求権が拡充されました。
(詳細)ハンドブックp5〜p7&p17〜p19参照

● 違法な行為を営むことが疑われる事業者に、違法又は不当な行為を助長するおそれが想定されるにもかかわらず、個人情報を提供すること等、不適正な方法により個人情報を利用することが禁じられることが明確化されます。
(詳細)ハンドブックp8参照

● どのような安全管理措置が講じられているかについて、本人が把握できるようにする観点から、原則として、安全管理のために講じた措置の公表等が義務化されます。 外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で、安全管理措置を講じる必要があります。
(詳細)ハンドブックp9〜p11を参照

● 個人の権利利益を害するおそれが大きい、漏えい等の事態が発生した場合等に、個人情報保護委員会への報告及び本人への通知が義務化されます。
(詳細)ハンドブックp12を参照 

● 個人関連情報の第三者提供の制限等として、提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データとなることが想定される情報の第三者提供について、本人同意が得られていること等の確認が義務付けられます。個人関連情報には、端末識別子を通じて収集されたサイト閲覧履歴や、商品購買履歴、位置情報等が該当します(なお、これらの例でも、個人情報に該当する(特定の個人を識別できる)ものは、個人関連情報にはあたりません。)。
(詳細)ハンドブックp13〜p14参照

● 外国にある第三者への個人データの提供時に、提供先の第三者における個人情報の取扱いに関する本人への情報提供の充実等が求められます。
(詳細)ハンドブックp15参照