中小企業白書を読む(2001年) |
作成日:2000-06-03 最終更新日: |
版形が A5 から A4 に大きくなった、価格が 2381 円(+税)となり、 CD-ROM がもれなくついてくるようになった、総天然色になった、 発行元が大蔵省からぎょうせいという会社に変わった、 白書の表紙の地が白から薄い紫がかった灰色になったため、白書とは呼べなくなった、 こんなことで、今までの白書とはかなり様変わりしている。
私が前にいっていた、CD-ROM をつけるというのは実現した。これから中身がどうか、 良く見てみることにする。
年号標記は前年と同じ、西暦である。 ああ、それから、他の白書があることは全く書いてありませんね。 これもまた、特徴でしょうか。
例によって誤植を挙げます。これだけでした。
ページ | 誤 | 正 | 備考 |
---|---|---|---|
237 | 中小企業事業団に | 中小企業総合事業団に | 左側 |
なお、CD-ROM のデータにおかしい部分がある。 第 211-13 図 中小企業の設備投資額とキャッシュフローの推移のデータが納められてvいる。 これを抜粋してみよう。
金額(単位 十億円) | 12年 1-3月 | 12年 4-6月 | 12年 7-9月 | 12年 10-12月 |
---|---|---|---|---|
設備投資額 | 3,744 | 3,619 | 2,264,664 | 944,500 |
キャッシュフロー | 4,300 | 4,362 | 3,093,393 | 1,290,463 |
7月以降急に乱高下しているのはどうして?
私が買った白書は、155ページから170ページまで、乱丁があった。 印刷がずれていて、しかも袋綴じのままだった。 ペーパーナイフで綴じたところを裂きながら、「うふふ、何かいいことが書いてあるのかな」 と思いつつ中を見てみたが、目の色が変わるような記述は全くなかった。
以下はある掲示板に書いた内容と同じであるが、以前からの主張であるので重複を恐れず載せた。
今まで利用できなかった時系列データが CD-ROM の添付により納められるようになった。 これは喜ばしい。 しかし、問題もある。このデータがエクセルという、ある特定ユーザのソフトを持っていなければ 中身を見ることができない、というこどである。 なるほど、エクセルはほとんどのコンピュータに入っている。しかし、このソフトは有償である。 それを持っていない人にとってはどうすることもできない。 OS が Windows 95 以降であれば、無償のビューアーを入手することもできる。 しかし、Windows 以外の OS に対しては無力である。 エクセル以外の表計算ソフトでも、エクセル形式は読み込めるかもしれない。 しかし、必ずしも読み込めるとは限らない。事実、私の持っている Macintosh OS 8.6 に もれなくついてきた Claris Works では全く読めなかった。
実際に中身を見てみると(一応 Windows 版の Excel 95 は所持している)、 ただの数字の羅列であった。がっかりである。 データが主である情報になぜ特定の形式を強制しなければならないのか。 以前にも私はこのことを問題にしたことがあったけれど、 データを用意する側の無神経さはなかなかなくならないことを改めて感じた。
なお、掲示板で上記の意見を述べたところ、「エクセルフォーマットと同等のデータを csv で一緒につければいい」という提案をいただいた。全く同感である。
今年の白書は、時間軸に対する各種統計を記述したデータが目につく。 それも、1年を一つのデータで代表させるのではなく、 月毎や四半期毎に細かく記述しているデータが多い。 そして、このような細かな記述のあるデータには「季節調整値」あるいは単に「調整値」という 注釈がある。これは、月または四半期による周期的な変動の影響を除去した値、という意味である。
ところが、いくつかの調整値を見ていると、完全に変動の影響を除去した値とは思えないグラフがある。 たとえば、55 ページの第 211-12 図 中小企業の売上高と経常利益の推移(経常利益のグラフ)とか、 56 ページの第 211-13 図 中小企業の設備投資額とキャッシュフローの推移(特にキャッシュフローのグラフ)がそうである。 どちらのグラフも第4四半期(10月〜12月)が他の期に比べて落ち込んでいる。 第1四半期(1月〜3月)は多少上昇し、第2四半期(4月〜6月)では大いに回復するが、 第3四半期(7月〜9月)で下降する、というパターンである。 これは、季節調整が完全には行われていない、ということを表している。 この理由はよくわからない。 調整の方法が「後方3期移動平均による」ものだからではないか、と疑っているが、 移動平均では完全に季節成分を取り除くことは難しいかを説明することが私にはできない。
こんなことをぶつくさある掲示板で言っていたら、 「中小企業庁にいうのが建設的でしょう」という助言をいただいた。 それもそうだと思う反面、わたしはあまり(建設的=真かつ善)という 図式を信じていないので、 そんなことできるか、と思う面もある。 しかし、まあ言うだけ言ってみるのはいいだろう。そう思って、窓口を捜すことにした。
ところが、中小企業庁のページには電子メールによる意見を受け付ける窓口がない。 「リンクしたら知らせてね」というメールアドレスはあるが、これは意見を受け付けるところでは なさそうだ。全くどうなっているのだ。
仕方がないので、中小企業白書についてきたハガキに文句を書くことにした。 なんといってもこちらはただである。 以下は抜粋である。下線部が私が選んだり書いたりした個所である。
2.白書の評価について伺います
気になって季節調整ができる Web サイトがないかどうか捜してみた。 統計数理研究所の 佐藤整尚氏のページに Web Decomp というページがある。このページはすぐれものである。
このページで何を調べたかというと、中小企業白書のデータにある、 後方3期移動平均では季節調整が不十分ではないか、というものである。 不十分だと言うことを示すためには、このデータに対して季節調整をしたモデルと しないモデルを比べてみて、季節調整をしたモデルがよりもっともらしい、ということがいえればよい。 指標には AIC を用いる。この Web Decomp では、モデルの係数を求める過程で、AIC も算出できる。
実際のデータには、中小企業白書55 ページの第 211-12 図 中小企業の売上高を使った。
実際に使うにはどうすればよいかというと、まず時系列データをテキストで用意する。 カットアンドペーストができるようにしておくとよい。 このWebDecomp のトップページにいくと、左下に「Netscape 3.0 以降か IE 4.0 以降お使いの方」 というボタンがあるので、これをクリックする。 するとウィンドウが3つ一度に出る。一つは画像を出すためのもので、特になにもしない。 残り2つのうち、大きいものはデータを入力する。バッファにコピーしておいたデータを テキストエリアに出せばよい。残りの画面がコントロール窓である。今回決め打ちなのは、 次の項目である。
項目 | 値 |
---|---|
季節周期 | 四半期 |
対数変換 | あり |
曜日効果 | なし |
欠損値・異常値 | なし |
なお、開始年: 開始月(四半期): は入れなくともよい。
一方、変化させるのは、トレンド次数とAR次数であるが、 最初は季節周期を「なし」としたものと「四半期ごと」としたものとで 比べてみよう。なお、これらはすべてAR次数は0としている
季節調整 | トレンド | AIC |
---|---|---|
なし | 1 | 248.120390367406 |
あり | 1 | 251.725120110125 |
なし | 2 | 223.478286999844 |
あり | 2 | 208.057408316429 |
これらからわかるように季節調整あり、トレンド2としたときのAICが最も小さい。 したがって、季節調整をするモデルがよりあてはまりがいいことがわかる (つまり、元の3期後方平均をとっただけでは、季節性が完全に除去できてはいない、ということ)。
次に、季節調整あり、トレンド2を固定して、AR 次数をきめることにした。
AR次数 | AIC |
---|---|
0 | 208.057408316429 |
1 | 214.067772947869 |
2 | 202.026256725538 |
3 | 201.754556458872 |
4 | 205.749660069625 |
この場合は、AR 次数が3の場合尤も AIC が低いので、このモデルが最適となる。AR 次数のほうは、 短期的な変動を表していて、長期的な傾向はトレンドとして示される。 図をかかげられないのは残念だが、ぜひとも自分で動かしてみてほしい。
ある方のWeb ページで、「平成 13 年度において講じようとする中小企業施策」の中に 「中小企業金融対策の推進」がない、理由を知っている方は教えて、と書かれていた。 私は理由を知っているわけではないが、考えてみた。
表面的にはこんなことだろう。まず、平成13年3月末で中小企業金融安定化特別保証制度の期限が 切れる。だから金融対策で書くことが減る。そして、無担保保険限度額の引き上げは、平成 12 年度の 話、セイフティネット保証制度の範囲の拡大は、経営安定対策の範疇で述べるので重複記述は不要、 その他の金融関係は、「金融・税制措置」で述べられるので、不要。 だから、改めて中小企業金融対策を設ける理由が見当たらない。
もう少し考えてみると、こうなる。政府は、中小企業基本法を改正した目的は、 中小企業を一律に支援するのではなく、やる気のあるところを応援するところにあったのだろう。 だから、金融とひとくくりにできる形で中小企業にお金を貸したり補助したりはできなくなった。 そのかわり、独自の工夫がそれぞれの分野でできるだろう、曰く経営革新、曰く新分野進出、 曰く技術開発、などなど。そのような工夫をする者を優先してお金をまわすのだ、と。
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