泌尿器科医・木村明の日記


棒屋に都合のよい統計学の解釈


3月26日の論文を受け、日本泌尿器科学会は4月9日にPSA検診に関するERSPCとPLCO研究の評価と日本泌尿器科学会の見解を発表しています。

「PSAを用いた前立腺がんスクリーニングが、国民にとってさらに有益なものとなるためには」

「生検が必要な症例をさらに絞り込むための補助診断法の確立」や

「がんが発見された症例での過剰治療のデメリットを減らすためのPSA監視待機療法の標準化と普及」などが必要と述べています。

PSAが4を越えてもすぐに生検しない前立腺の体積から計算した確率を示して患者さんに選択してもらう、

というのは私が1998年ごろからやっていることです。


PSA監視待機療法というのは生検で癌が見つかっても、

PSAがそれほど高くなくて、PSA densityが低くて(前立腺体積が大きい割りにPSAが相対的に低い)、癌の体積は小さくて、悪性度(グリーソンスコア)が低い場合は、

何も治療しないで、PSAが上昇しないか、だけを見ていく治療法です。

過剰治療のデメリットを減らすために期待されている治療法です。

何もしないのが治療と言えるのか、患者さんに不安を与えるので、

無治療経過観察という呼び方から、アクティブ・サーベイランスと呼び方が変わりつつあります。

医者「今日は先週の生検の結果をご説明します。いい話と悪い話があります。どちらを先に聞きたいですか」

患者「悪いほうを先に聞かせてください」

医者「では、まずあなたは前立腺癌でした。でもすぐには治療しなくてよい癌です。3ヵ月後にPSAを測りにだけ来ていただければ結構です」

20~30本、体積が大きい場合はもっと取る方法で、治療しなくよい症例を見つけるより、

6箇所生検を行い、治療が必要な癌だけを見つける、というほうが患者さんにはよいのではないだろうか、と言うのが私の感想です。

「治療が必要かどうかはともかく、癌にかかっているかどうか知りたい」、という方もいるでしょうから、これは患者さんひとりひとりの価値判断に委ねるしかありませんが。

すみません。結局、統計を棒屋が失業しないために使ってしまいました。
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