吉牛ネタ(その5)


またまた俺の大好きな吉野家の話である。
最近では、牛鮭定食とかけんちん定食などというメニューが増えたが、俺としてはあんまり感心出来ない。って言うか、俺は牛皿じゃなくて牛丼が食いたいのだ。定食系は牛皿と白いご飯という形でしか出て来ないのでそれが不満なのだ。あったかいご飯にほどよくしみ込んだタレの味がたまらないのである。牛肉とご飯を一緒に口の中にほおばったあの食感が何とも言えない絶妙な味わいを描き出すのである。
牛肉とご飯を別々に食べるのは俺的には駄目なのである。

ところで吉野家の「吉」という字は厳密には、下の横棒の方が長いのである。つまり「土」という字に「口」と書くのが正しいのである。俺のパソコンの文字フォントではどういう訳だか知らないが、上の横棒が長い「士」と書く方の「吉」の字しか表示出来ないので残念でならないのだが、皆さんの環境ではどうだろうか?
俺の友人で複数の「吉田」さんがいるのだが、下が長い「土」と、上が長い「士」と両方のバージョンがあるという話を聞いた事がある。まぁ戸籍の登録上の話であって現実にはどちらでもいい様な感じらしいのだが。
俺のパソコンがなっていないのか、OSの設計者が手を抜いたのか、それともコンピュータで扱う漢字の規格を制定した組織が悪いのか?納得いかないぞ。
いかん、今回は吉牛の話だった。


だいぶ前の話になるのだが、その時も俺は一人で美味しく牛丼を頂いていた。
店長らしき人と学生風のアルバイトとの二人の会話が聞こえて来た。聞くともなしに聞いているとその会話の内容はちょっと困ったという感じのこんなものだった。

店長:「・・・今あるおしんこの枚数をちょっと数えてみてよ。」
アルバイト:「え・・、あ、はい。・・・・1、2、3・・4・・・。全部で○枚ですね。」
店長:「・・・あー、そうか。・・やっぱり困ったなぁ。」

どうやらおしんこの数が足りないらしかった。残されているおしんこの正確な数は忘れてしまったが、かなり少ないようだった。その発注と納期の仕組みまでは俺は知る由もないが、常にカウンターの小窓の中に仕込まれているというイメージの強い、おしんことサラダはその時は品薄の雰囲気だった。
あと何時間かの時間をこの少ない数のおしんこで店の営業を続けなくてはならないという状況。
俺も小売業という仕事柄、この時の店長の心境をかなり容易に想像する事が出来た。売り上げを伸ばせなくなるという販売のチャンスロスを嘆いているのではなく、その商品を希望して来店されるお客様に対して迷惑を掛けてしまうかもしれないという、お客様に対しての申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだろう。・・・と俺は勝手に想像した。
いや、まだ完全に欠品してしまったわけではないのだから、次におしんこが納品されるまでにその商品を希望するお客さんが現れなければいいのだ。日頃はどんな金額の小さいものでも、一品でも多く販売することに全力を注いで仕事に挑んでいるはずなのに、こういった状況に陥った時には、「売れないで欲しい」というまったく逆の心理が働いてしまうという・・・恐ろしい話である。
って言うか、その店長に直接インタビューした訳じゃなし、俺の立場だったらこんなんだろうな、という俺の勝手な想像なんだけど。

俺も実はおしんこを取ろうかどうかとっても迷っていたんだけど、そんな話を聞かされてしまった後ではなんだか取りにくくなってしまって、おしんこの数を減らさないでいてあげる事に協力することにしたのだ。まぁ、その店長には俺の気持ちなんて伝わってないはずだけど。

その後、店長に指示されてアルバイトが貴重なおしんこを移動させていた。カウンターの位置によって売れ行きが違うのだろうか。何の為に場所を変えるのかちょっと不思議だったので、牛丼を食いながら俺はその光景を目線で追っていた。

ガシャッ!

陶製の器に入れられたおしんこは床に落ちると、ちょっと嫌な音を立てた。
まったく関係ないはずの俺にまで、そのピリピリした緊張感が漂う雰囲気は嫌なものだった。
その失敗を冒したアルバイトがどんな風に激しく責められるのだろうかと、半分興味本位で様子をうかがっていた俺を出迎えたのは、意外なほどに優しい店長の落ち着いた暖かみのある声だった。
店長:「怪我すると危ないから気をつけて片づけなさい。」
アルバイト:(声にならないくらい小さな声で) 「・・・・・すみません。」

アルバイトが床におしんこを落とした直後に、一瞬引きつったような店長の表情が見えたので、てっきり俺は激しい罵声が飛び交うものかと身構えていたのだ。それが失敗を責めることなく、逆に気づかう言葉が、しかも落ち着いた口調で発せられたのにはかなり意外だった。
その店長の本心はそりゃかなり腹立たしいものだったと思うが、そういう教育の仕方もありなんだな、って俺はちょっとした社会勉強をした気になったよ。やらかしてしまったアルバイトにしてみれば、馬声を浴びせかけられるよりもひょっとしたらつらい対応に感じられたのかもしれないけどね。

2000.1.20.

【過去の吉牛ネタ】

吉牛ネタ(その4)
吉牛ネタ(その3)
吉牛ネタ(その2)
吉牛ネタ(その1)




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