Part3


5月2日 北薬師岳直下 〜 黒部五郎小舎

 妖しい紅い光で夜が明けた。陽光が強くなるにつれて雪面の色が赤紫色から桃色、そして橙色、黄色へと千変万化してゆく。そして陰は蒼く色付き、陰影の補色対比がデリケートでとても美しい。雲の色も幻想的だ。しかし上空を覆ったその雲はやがて太陽を飲み込んで灰色に染まっていった。

 登高を開始して間もなく北薬師岳を越えた。そして薬師岳のピークに立ったときには上空はかなり陰鬱で、悪天の兆しと言われる「風の伯爵夫人」が槍穂高の上空に架かっているのを見た。

 お社のある山頂は寒くてあまり長居をしなかった。薬師岳からの滑降はやや堅雪であった。シュカブラの雪面をバリバリ破りながら滑る。薬師平まで標高を下げるとと雪もゆるんで人心地がついた。気のせいか少し空も明るくなったように思った。

 太郎平から目指す北ノ俣岳の山体は大きい。立山から薬師までの稜線とはひと味違ったなだらかなスカイラインだ。時々ガスが巻く中をシール登高の一歩一歩をつないでいった。

 北ノ俣岳、赤木岳を越えて黒部五郎岳を目指す。ぐんぐん黒部五郎岳が近付く。スキーの素晴らしさを実感するひとときである。天候はかなり回復してきており、自分たちの滑降につれて、山々が姿を変えて行く様を見るのは楽しかった。

 黒部五郎岳山頂から見下ろすカールはすっぱり切れ落ちていて心地が悪かった。やや北東に稜線を辿ったところからカールの滑降を開始するが、雪は完全に腐っており、全くターンが出来ない。斜滑降とキックターンで降りようとするが、いやというほど転倒してしまった。這々の体でたどり着いたカールの底から見上げる黒部五郎岳は岩と雪の要塞のように見えた。

     

 黒部五郎小舎は快適な小屋だった。小さな別のパーティと共に一夜を過ごす。


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