Part4


5月3日 黒部五郎小舎 〜 新穂高温泉

 天気のいい朝を迎えた。小屋を出発して間もなく、急な雪壁を登る。出立はそんなに遅くはなかったのだが、早々と上から滑降してくるスキーヤーがあった。そういえばこのあたりは双六小屋をベースとした山スキーのエリアになっているのだろう。逆コースも楽しそうだった。

 高度を上げるほどに雪面は眩しく輝き、空気が乾いていくのを感じる。眼前にせり上がる三俣蓮華の白く気高い山容が美しい。稜線に出るとそこからは安全で快適な雪面を散歩気分でたどるだけだった。シール登高に最適の気持ちの良いプロムナード。

 三俣蓮華岳のあたりは真っ白だ。スキー滑降に最適のスロープが至る所に広がっている。案外低く感じられる山頂でしばしの休憩をとって、南側の、ここよりやや高く見える無名峰との鞍部に向けてつかの間のスキー滑降を楽しみ、そこから登り返す。

 2856mのピークでは多くの登山者が休憩していたが、彼らのアドバイスによって、スキーの機動力を生かすために双六岳のピークは踏まずに、直接双六小屋を目指すことにした。スキーでの長い長いトラバース。高度を下げすぎないように距離を稼いで行く。雪質はザラメで快適だ。秀麗な姿の槍穂高連峰がぐんぐん近付いてくる。シーハイル!

 意気揚々と双六小屋に到着した。だが小屋で一息ついて、天気予報を確認すると、どうやら台風が近付いているらしい。まだゴールデンウィークのまっただ中で、今回の山行はあと2日間の余裕を残しているのだが、このまま槍ヶ岳まで足を延ばすのか、あるいは下山すべきかどうか、我々は決断を迫られていた。ここからなら今日中に新穂高温泉までスキーをフルに生かした快適な下山が出来る。どの程度の嵐になるかわからないが、既に何日もの休暇を取っている以上、台風で山中で閉じこめられるわけにはいかないだろう。それに僕達は若干疲れてもいた。この休暇中に疲れを癒すことも考えなくてはならないのではないか。

 意気地のないことだが、急遽下山することになった。ここから槍穂高へのツアーは今後の楽しみに取っておいてもいいではないか。そういうわけでスキーを履き、僕達は弓折方面の稜線を目指した。双六谷を滑って大ノマ乗越を目指すのが通常のルートだが、なるべく高度を下げずにトラバースして、あまり登り返さないですむようにと考えたのだった。それに弓折岳のピークを踏みたいという思いもあったように思う。稜線に絡みつつ弓折岳まで辿ったが、結構難渋させられた。

 弓折から小池新道に向かって滑降を開始する。雪質は少し重いがザラメの雪で、なんとかターンは出来た。ワサビ平からの登山者がゆっくりと登ってくるのを見下ろしながら、僕達はスキーの有り難さをしみじみ味わいながらどんどん高度を下げる。途中何度か大規模なデブリの上を通過し、この雪の谷のスケールの大きさを感じた。雪は左俣林道出合まで続いていたが、林道に出るとそこはもう春だった。


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