『第 0 章「最適化法」と「数理ファイナンスへの確率解析入門」』から引用する。
本書は「経済社会の基盤をになう」のキーワードで「最適化法」と「数理ファイナンスへの確率解析入門」と題する 2 つのテーマから構成されている. キーワードから容易に想像できるように,両テーマは,ともに現代の社会生活に深くかかわりをもつ数学の話である.
本書の「テーマ1 最適化法」は、川崎英文氏による。
第1章の例は今野浩:数理決定法入門を引用している。
[第2章 非線形計画法]では、今野浩・山下浩:非線形計画法、 矢部 博、八巻 直一:非線形計画法、 小島政和/土谷隆/水野眞治/矢部博:内点法などが示されている。
[第 3 章 凸計画法]では、分離定理、ファーカスの定理、双対定理などの基本定理と実用上重要な凸 2 次計画問題の数値解法が紹介されている。 凸計画法と聞くと、いやな思い出がよみがえる。私は大学4年生のとき、大学の寮で暮らすことになった。同じ寮に、隣の学科にいた九州男児がいた。この九州男児と最初に会ったとき 、凸解析というものを研究しているということを聞いた。 私はこの男を寮の洗濯機のところでたびたび見かけた。あるとき、洗濯機のところで見かけたら、男は振り向き「なんでそんなに俺のことをじろじろ見るんだ。お前なんかとはもう口も聞かん」と叫んだ。 私は何のことが分からなかったが、その場を去るしかなかった。凸計画法を聞くとその癇癪男を思い出す。
[第 4 章 線形計画法]では、文献紹介に、小島政和/土谷隆/水野眞治/矢部博:内点法などが挙がっている。
[第 5 章 離散最適化法]では、文献紹介に、茨木俊秀:離散最適化法とアルゴリズムなどが挙がっている。
本書の「テーマ 2 数理ファイナンスへの確率解析入門」は、谷口説男氏による。
[第 1 章 確率論の準備]では、舟木直久:確率論や伊藤雄二:確率論がこの章の「体系的に学ぶために」で紹介されている。
[第 2 章 ブラウン運動とマルチンゲール] では、もう何が書かれているかわからない。$ (\Omega, \mathcal{F}, P) $ が確率空間である という文言を見ただけで怖気づいてしまう。
[第 3 章 確率解析] も、当然わからない。p.105 では、確率解析の出発点となった伊藤清の論文が紹介されている。
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/shijodanwakai/
から、昭和 17 年度→ 11 月 244 号 1077 番 Markoff 過程ヲ定メル微分方程式 の PDF をクリックすればいい。このときの伊藤の所属が内閣統計局というのは知らなかった。
[第 4 章 ブラック-ショールズ・モデル] も、危険証券の定義で躓いた。確率微分方程式がわからないから当然だ。以下、拾い読みの覚書だ。
[4.1 ] p.110 では、次の記述がある。
(前略)上のように指数関数の形をしたマルチンゲールを用いて新しい確率測度とブラウン運動を構成する手法を丸山-ギルサノフの定理と呼んでいる.(後略)
この丸山とは誰か、本書だけではわからなかった。調べると、どうやら丸山儀四郎のことのようである。インターネットで検索する限り、「丸山-ギルサノフの定理」と呼んでいる例は少数ながらある。
[4.2 裁定機会と複製] の項は、わらしべ長者のたとえが出ていておもしろい。以下引用する。
(前略) 数学的には濡れ手に粟ということは次のように定義される.`theta in ` $ \mathcal{P} $`{::}_"SF"` が裁定機会であるとは, `V_0(theta) le 0, V_tau(theta) ge 0 \ "a.s."` かつ `P(V_tau(theta) gt 0) gt 0` が成り立つことをいう.裁定機会の全体を $ \mathcal{P} $`{::}_"ARB"` と表す. 裁定機会が存在すれば,資産をもたない(負債をもっているかもしれない)状態から投資をはじめても利益を上げることが可能となる. 裁定機会の存在する市場では,不公正な取引が行われている可能性がある.(後略)
ここで、`theta` はポートフォリオ、 $ \mathcal{P} $`{::}_"SF"` は、セルフ・ファイナンシングなポートフォリオの全体(p.110)、`V_t(theta)` はポートフォリオ `theta` の時刻 `t` における価値、 `tau` は満期である。
このあと、J 国と G 国の不公正な取引の実例が出てきて私は憤った。 そういえば、森真:なっとくする数理ファイナンスで「無裁定」ということばを見たような気がする。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 最適化法/数理ファイナンスへの確率解析入門 |
著者 | 川崎英文/谷口説男 |
編者 | 若山正人 |
発行日 | 2008 年 6 月 20 日 第1刷 |
発行元 | 講談社 |
定価 | 2400 円(税別) |
サイズ | 21cm ページ |
ISBN | 978-4-06-157801-2 |
その他 | 川口市立図書館にて借りて読む |
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