概要
代数的構造、すなわち群や環、体を解説する。
用語
- 自己同型
-
p.086 で初出だが、定義はなされていない。私の理解では、 ある群 G に対して、G から G への写像が同型となるような写像のこと、なのだがどうか。 同型の定義は、p.019 でなされていて、
この2つは(中略)その要素のあいだにある相互関係の型は同じである. つまり,このような場合 `S, S'` は同形であるという
。と記されている。 ここで、`S` は 整数 6 の約数の集合 {1, 2, 3, 6} に対する約数―倍数の関係の構造を、 また `S'` は集合E={1, 2} の部分集合すべてに関する含む―含まれるの関係の構造を指す。
比喩
p.64 で次の比喩が出ている。
- “シャツを着る”
- “上着を着る”
- “オーバーを着る”
そして、“シャツを着て,その後で上着を着る”は `a` の次に `b` を行うことであるが、これを `ab` で表すことにする。 そのあとで `ba` についての説明はこうである。<“上着を着てから,シャツを着る”といういささか奇妙な動作を意味する.> この「いささか」ということばがいい。
私が思い出したのは、逆行列の公式だった。 ` (AB)^(-1) = B^(-1)A^(-1) ` を「パンツをはいてズボンをはく」の逆は、「ズボンをぬいでからパンツをぬぐ」 と教わったのは高校のころだったろうか。
家紋
第3章、第4節でいきなり家紋が出てくる。自己同形の群 C1 の家紋の例のあと、折り返し可能な D1、 180°回転を許す C2 がどんどん提示されて面食らう。ふうむ。
クロネッカー
pp.177-178 で、クロネッカーの有名な言葉が引用されている。
わが愛する神は整数(自然数)を創り給うた.他の数はすべて人間の創ったものだ.
そのあと著者はクロネッカーは(中略)たとえば `pi` のような無理数に市民権を認めなかった。
と論評する。しかし、
クロネッカーは微積分に関する論文も少なからずあること、微積分は実数の連続性を認めない限り意味がないことから、
彼の主張は矛盾しているといえる.
と言い切っている。そして、結びに次のポアンカレの言を引いている。
クロネッカーが偉大な数学者であり得たのは,彼が自分の主張に忠実でなかったからだ.
この揶揄は実におもしろい。
左剰余類と右剰余類
p.072 から引用する。
正3角形をそれ自身の上に重ね合わせる操作の全体は群をつくることを証明せよ.
入れ替えのすべてを列挙して本書にそって名前を付けよう。
`a_1= ((1,2,3),(1,2,3)),a_2= ((1,2,3),(2,3,1)),a_3= ((1,2,3),(3,1,2)),a_4= ((1,2,3),(1,3,2)),a_5= ((1,2,3),(3,2,1)),a_6= ((1,2,3),(2,1,3))`
これはいいだろう。次は p.074 からの引用である。
ここで2つの操作を連結しても正3角形を自分自身の上に重ね合わせることになるから,その結果は以上6個の操作のどれかになる. たとえば `a_2, a_4` を連結すると,
`a_2 circ a_4 = ((1,2,3),(2,3,1)) ((1,2,3),(1,3,2))` (中略) `= ((1,2,3),(3,2,1)) = a_5`
この連結のしかたは、雪田修一:代数学のレッスンでいう、右優先の約束である。
さらに引用を続ける。
`G` のなかで部分群 `g` によって類別したとき,その各々の類を右剰余類と名づける.またかつては `G` における `g` の副群と名づけたこともある.
左右を入れかえて,`gb, gc, cdots` という類をつくっても同様である.`gb, gc, cdots` を左剰余類という.
この定義は、少数派の定義といえる。左剰余類と右剰余類を参照のこと。
さて、本書の例4と例5を見てみよう。この例4で「上の群」と言っているのは、本書 p.072 で言及された正3角形をそれ自身の上に重ね合わせる操作の全体
からなる群である。
例4 上の群において,部分群 `{a_1, a_2, a_3}, {a_1, a_4}` で右剰余類をつくれ。
解 `g = {a_1, a_2, a_3} から,たとえば `{a_4a_1, a_4a_2, a_4a_3}` を作ると表によって,`{a_4, a_5, a_6}` となる.
したがって,
`G = {a_1, a_2, a_3} uu {a_4, a_5, a_6}`
`g = {a_1, a_4}` によって右剰余類を作ると
`a_2g = {a_2a_1, a_2a_4} = {a_2, a_5}`
`a_3g = {a_3a_1, a_3a_4} = {a_3, a_6}`
`G = {a_1, a_4} uu {a_2, a_5} uu {a_3, a_6}`
例5 `G` のなかで,`{a_1, a_4}` の左剰余類をつくれ。
`{a_1, a_4} = g` として
`ga_2 = {a_1a_2, a_4a_2} = {a_2, a_6}`
`ga_3 = {a_1a_3, a_4a_3} = {a_3, a_5}`
`G = {a_1, a_4} uu {a_2, a_6} uu {a_3, a_5}`
これを右剰余類への分割と比べると,明らかに異なっていることがわかる.
索引作成
本書には索引がないため、索引作成のページにならって索引を作ってみた。太字になっている用語のページを拾っている(一部太字の用語でも拾っていないことがある)。
MathJax
数式の表現には MathJax4 を使っている。
代数の本
書誌情報
| 書名 | 代数的構造 |
| 著者 | 遠山 啓 |
| 発行日 | 2013 年 10 月 10 日第4刷 |
| 発行所 | 筑摩書房 |
| 定価 | 1300 円(本体) |
| サイズ | 文庫版 |
| ISBN | 978-4-480-09417-9 |
| その他 | ちくま文庫、越谷市立図書館で借りて読む |
| NDC | 411 |