山﨑 圭次郎:基礎代数

作成日 : 2013-03-05
最終更新日:

概要

代数学は、アルゴリズムの考えと、数式の集合や変換という算法構造の意識から生まれた。 これらの考えや意識を「古典代数学」と呼ぶなら、現代は算法自体を主題とし、 かつ抽象化する「抽象代数学」の時代である。本書ではこれらを解説する。

感想

割り切ると割り切れる

p.13 で次の記述がある。

定理 1.1 (除法定理) 整数 `a != 0` と任意の整数 `b` に対し、

` b = qa + r, 0 le r lt abs(a) `

となる 整数 `q, r`が存在する。とくに、 `r = 0` となるのは、`b` が `a` の倍数のときであり、 このことを、「`a` は `b` を割り切る」とか「`b` は `a` で割り切れる」といい、記号 `a | b` で表す。

私の思い込みに過ぎないのだが、数学用語では、「割り切れる」のほうが「割り切る」より圧倒的に高い。 だから、「`a` は `b` を割り切る」という能動態の文章を使えるようにしたい。

そして、遠山啓の「初等整数論」では、`a | b` の代わりに `a ) b` という記法を使っていた。 そうすると困ることがある。すなわち「割り切らない」、「割り切れない」場合、 `a | b` であればこれを否定するための専用記号 `a ∤ b` (実体参照では∤) がフォントにあるが、 `a ) b` を 「`a` は `b` を割り切る」の意味で使った場合、これを否定するための記号がない。

イデアルに泣く

大学に理科系で入ると、1年生(1回生)ではたいてい解析学と代数学の授業がある (当時、代数学は幾何学という名前で開講されていた)。 その代数学では主に線形代数を行うことになっているはずなのだが、 担当の助教授はどうやら代数構造の権威らしく、一年の前半を群や環、体やイデアルに費やした。 このイデアルという概念がどうしてもわからなかった。 Wikipedia を見てみると、数学者のクンマーが理想数として描いていた姿がわかるようで、 少しはわかったような気がするのだが、やはりわからない。 その後、高木貞治の 「初等整数論講義」 を古書店で買ってきてイデヤルの項を見たのだが、やはりわからない。

最近数学に興味を持ち出して WEB をいろいろ見ていたところ 飯高茂が虚数単位 `i` をイデアルとして認識すべきではないか、ということを述べていたのに出会った。 イデアルは大事なのだろうか。この本を手掛かりに調べたい。

イデアルの定義

p.151 から書かれている。p.152 の記述を見てみよう

環 `R` の左 `R` 加群としての部分加群を `R` の左イデアル、 右 `R` 加群としての部分加群を `R` の右イデアルという. 左イデアルかつ右イデアルであるものを単に `R` のイデアルまたは両側イデアルという。

ああ、もうわからない。環はいいとして、部分加群とは何だろう。左 `R` 加群とは? そこで p.146 に戻る。

さて,単位的乗法半群 `R` の加法群 `M` への左作用が与えられたとする.すなわち, `a, b in R, x, y in M `として,次が成り立つとする。

`1 * x = x, (ab) * x = a * (b * x)`

また,`a in R` が定める `M` の変換 ` a_M ( x |-> ax )` が自己準同型,すなわち

`a * (x + y) = a * x + a * y`

が成り立つとする.そのとき,`M` を `R` 上の左加群あるいは左 `R` 加群という。

こんどは単位的乗法半群がわからない。今度は 97 ページまでさかのぼる。

2 項算法をもつ集合 `(S, mu)` が結合法則を満たすとき,これを半群という. 半群 `(S, mu)` に単位法則を満たす 0 項算法を `e` を追加した `(S, mu, e)` を単位的半群あるいはモノイドという.

ここはなんとかわかった。しかし、その先はつらい。

http://www.m-ac.jp/me/subjects/algebra/ring/index_j.phtml を参考にして、「環」を「整数全体 `ZZ`」と、「イデアル」を「整数 `n` の倍数全体」ととらえなおしてみよう。 そうすれば、整数 `n` の倍数全体は `ZZ` のイデアルの条件を満たす。

ではなぜイデアルという構造を持ち出したのか。 これは「最大公約数」なる概念を通常の整数の構造だけでなく、他のにも持ち込みたかったからだ、 ということをどこかで聞いた。

あとがき

あとがきで、著者は「整式の改まった定義などは必要ないと感じる人もあろうが, 計算機のような想像力のない相手に処理させることを想定すると,結構複雑な概念である.」 と述べている。これには笑った。

演習問題

章末には演習問題があるが、解答はない。仕方がないので1つは問題を解く。

第1章 数

1.3 次の各組の整数の最大公約数を求めよ.
(i) 16061, 16063 (ii) 36863, 156811 (iii) 2717, 3553, 4199

最大公約数とユークリッドの互除法で作ったプログラムが使える。 (i) は 1, (ii) は 191, (iii) はまず 2717 と 3553 の最小公倍数を求める。これは 209 だ。 そして 209 と 4199 の最小公倍数を求めると 19 となり、これが 3 数の最小公倍数である。

1.4 `823x+1` が `821` の倍数となるような最小の正整数 `x` を求めよ.

これは、`823x+1 = 0 quad (mod 821)` を求める問題である。よくわからないが、なんとかしてみよう。
`823 x + 1 = 0 quad (mod 821)`
`823 x = 820 quad (mod 821)`
`2x = 820 quad (mod 821)`
`x = 410`

案ずるより生むがやすし、か。

1.14 絶対値 1 の複素数 `alpha, beta` に対し,`abs(alpha + beta) = abs(1 + bar alpha beta)` を示せ.

既視感があるが、よくわからない。私は複素数が苦手だ。だが、やってみる。こういう問題は、 成分表示すると面倒になるので、複素共役を使うのがいいようだ。それには、絶対値の2乗を作ればいい。 `alpha` と `beta` はともに絶対値 1 だから、 `abs(alpha)^2 = alpha bar alpha = abs(beta)^2 = beta bar beta = 1` を使えばいい。両辺は正なのd、両辺を2乗して値が等しいことを示せばよい。
左辺の2乗を計算する:

`abs(alpha + beta) ^2`
`= (alpha + beta)bar ((alpha + beta))`
`= (alpha + beta) (bar alpha + bar beta)`
`= alpha bar alpha + alpha bar beta + bar alpha beta + beta bar beta`
`= 2 + alpha bar beta + bar alpha beta`

右辺の2乗を計算する:

`abs(1 + bar alpha beta) ^2`
`= (1 + bar alpha beta)bar ((1 + bar alpha beta))`
`= (1 + bar alpha beta) (1 + alpha bar beta)`
`= 1 + alpha bar beta + bar alpha beta + bar alpha beta alpha bar beta`
`= 2 + alpha bar beta + bar alpha beta`

よって両辺が等しいので、`abs(alpha + beta) = abs(1 + bar alpha beta)` が成り立つ。(証明終)

数式の記述

数式はMathJax を用いている。

書誌情報

書名基礎代数
著者山﨑 圭次郎
発行日 年 月 日
発行元岩波書店
定価
サイズ
ISBN4-00-010520-5
NDC
備考岩波講座 応用数学 基礎7

まりんきょ学問所数学の部屋数学の本 > 基礎代数


MARUYAMA Satosi