いずもり・よう、長谷川英祐:働かないアリに意義がある |
作成日: 2013-01-14 最終更新日: |
働き者の代名詞である働きアリだが、働いていないアリも多く、なかには一生働かないアリもいる。 そんなアリの社会を4コマ漫画で紹介する。
この書評を書こうとして、働かないアリをエスペラントでどのように言うのか調べてみた。 その途中で、働きアリという単語が laborformiko として登録されていたことに気が付いた。 他には働きバチ laborabelo があっただけで、アリとハチは働き者の象徴のようである。
本の帯には「7割は休んでいて、1割は一生働かない」とある。 では、働いているアリは何割いるのだろうか。 以下、この本では腰の軽い、仕事の虫をA,腰が少し重い、のんびりやをB, いつまでも腰を上げない、秘密兵器をCと分類している。 このA,B,Cを使うとA:B:Cは次のような2種類の解釈が可能である。
この帯だけではなんともわからない。そこで本文を見てみる。 35 ページのコラムから引用する。
アリの巣を丸ごと飼育して観察する、という昔から行われている研究によれば、 驚いたことに、巣の中の 7 割ほどの働きアリがある瞬間「何もしていない」ことが実証されています。 これはアリの種類を問わず同じです。さらには、 一生涯労働とみなせるような行動をしないアリがいることもわかってきました。
これから読み取れることは、アリ全体のうちの7割がある一瞬を切り取ったときに休んでいる、 ということである。このある瞬間、というのが曲者だ。ある瞬間とは一度だけだろうか。 そんなことはない。何度もその瞬間はあるだろう。さて、どんな瞬間でも7割が休んでいる、 と仮定すると、2.の解釈はとれない。なぜなら、Bもすべての瞬間に休んでいないといけないから BとCを区別する意味がないからだ。したがって、1. の解釈をとることになる。 このとき、2割のAは生涯稼働率が100%、7 割のBは生涯稼働率が 100% 未満、0 % 超(0% 含まず)、 1割の C は稼働率が 0 %となる。
この本では、漫画にもコラムにもこのような説明はない。きっと、 長谷川さんの原作にはこういう理屈っぽい記述があるのかもしれない。
なお、数学的には、Bのアリの稼働率がどのように分布していれば、7割が休んでいることになるかどうか、 計算してみるのも面白い。
p.68 のコラムの結びで、働く者だけを取り出してもやはり一部は働かなくなる、
という現象は一般的には「 2 : 8 の法則」とか「パレートの法則」と呼ばれています。
とある。しかし、パレートの法則は Wikipedia によれば
経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという説
であり、数値として 2 : 8 が出てきているわけではないので、<パレートの法則=2:8 の法則>ではない。
また、社会を働く者だけを取り出してもやはり一部が働くなくなる、ということは、
パレートの法則として考えるべきか、疑問である。
中身について考えてみたが、絵は楽しい。Cは必ず「ヘッドフォンをつけている」アリとして描かれている。 また、老年アリは頭の特徴で描かれている。 マンガのいずもり・よう氏の名前を見て、数学教育の何森仁氏を思いだした。 縁戚なのだろうか。
書 名 | 働かないアリに意義がある |
漫 画 | いずもり・よう |
原 作 | 長谷川 英祐 |
発行日 | 2012 年 8 月 24 日 |
発売元 | メディアファクトリー |
定 価 | 880円(本体) |
サイズ | A5版 |
ISBN | 978-4-8401-4692-0 |
その他 | 知人から借りて読む |
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