極私的関数解析:ヘルダーの不等式

作成日:2014-01-23
最終更新日:

ヘルダーの不等式

ヘルダーの不等式 (Hölder's inequality) とは次の不等式のことである。

`1/p + 1/q = 1, 1 < p < +oo , 1 < q < +oo, sum_(n=1)^oo abs(a_n)^p < oo, sum_(n=1)^oo abs(b_n)^q < oo` とするとき、次の不等式が成り立つ。
`sum_(n=1)^oo abs(a_n b_n) ≤ (sum_(n=1)^oo abs(a_n)^p)^(1//p) * (sum_(n=1)^oo abs(b_n)^q)^(1//q)`

名前は、ドイツの数学者 Otto Ludwig Hölder (1859-1937) にちなむ。ヘルダーの発見は 1889 年であり、その前年に別の数学者が発見している。 両者の発見は独立である。

証明

`alpha = (sum_(n=1)^oo abs(a_n)^p)^(1//p) , beta = (sum_(n=1)^oo abs(b_n)^q)^(1//q)` とおく。 `alpha = 0` のときは、すべての `n` にたいして `a_n = 0` であるから、 与えられた不等式の左辺と右辺はともに 0 となるので成り立っている。`beta = 0` のときも同様。 したがって、`alpha > 0` かつ `beta > 0` としてよい。

`tilde a_n = a_n / alpha, tilde b_n = b_n /beta ` とおく。すると、
`sum_(n=1)^oo abs(tilde a_n)^p = 1, sum_(n=1)^oo abs(tilde b_n)^q = 1` --- (*)
となる。一方、ヤングの不等式から、各 `n` に対して次が成り立つ。
`abs(tilde a_n tilde b_n) le abs(tilde a_n)^p / p + abs(tilde b_n)^q / q`
この式をすべての `n` について辺々加えると次の不等式が得られる。
`sum_(n=1)^oo abs(tilde a_n tilde b_n) le sum_(n=1)^oo abs(tilde a_n)^p / p + sum_(n=1)^oo abs(tilde b_n)^q / q`

右辺を計算しよう。(*) から、右辺は `1 // p + 1 // q` となるが、条件からこれは 1 に等しい。すなわち、
`sum_(n=1)^oo abs(tilde a_n tilde b_n) le 1`
である。この不等式に `alpha beta` を乗じると、証明すべき式が得られる。

他の不等式との関係

コーシー=シュワルツの不等式との関係

ヘルダーの不等式で、`p = q = 1/2` とおくと、コーシー=シュワルツの不等式が得られる。すなわち、
`sum_(n=1)^oo abs(a_n b_n) ≤ sqrt(sum_(n=1)^oo a_n^2) * sqrt(sum_(n=1)^oo b_n^2)`
である。

コーシー=シュワルツの不等式の2次元版は、`a, b, x, y in RR` として
`ax + by le sqrt(a^2 + b^2) sqrt(x^2 + y^2)`
の形が知られている。これは、ベクトル`(a, b)` と ベクトル `(x, y)` の長さと角度、内積との間に成り立つ式
`ax + by = (a, b) * (x, y) le sqrt(a^2 + b^2) sqrt(x^2 + y^2) cos theta`
である。ここで、`theta` はベクトル`(a, b)` とベクトル`(x, y)` の間のなす角度である。 等号成立は、`cos theta` が 1 のとき、つなわち、`(a, b)` と `(x,y)` が向きも込めて一次従属であるときだ。 左辺を `abs(ax + by)` とすれば等号成立は向きにかかわらず一次従属であるときと言い直せる。

ミンコフスキーの不等式との関係

ヘルダーの不等式を利用して、ミンコフスキーの不等式が導かれる。

実例

ゼータ関数

`zeta(2) = sum_(n=1)^oo 1 / n^2 = pi^2 / 6` という関係式は広く知られている。このことから、ヘルダーの不等式で `p = q = 2, a_n = b_n = 1/n ` とおくと、 左辺 = `pi^2/6` 、右辺 = `sqrt(pi^2/6) * sqrt(pi^2/6) = pi^2 / 6` となり、不等号の等号が成り立つ。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

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MARUYAMA Satosi