ヤングの不等式 (Young's inequality) とは次の不等式のことである。
`a ge 0, b ge 0 , 1/p + 1/q = 1, 1 lt p lt +oo , 1 lt q lt +oo ` とするとき、次の不等式が成り立つ。
等号は `a^p = b^q` のとき、かつそのときのみ成り立つ。
名前は、イギリスの数学者 William Henry Young (1863-1942) にちなむ。 二階導関数の対称性を表すヤングの定理でもその名を残している。
なお、正確には上記の不等式は、積に関するヤングの不等式と呼ぶのがよい。畳み込みに関するヤングの不等式と区別するためである。
以下の証明では、`ab > 0` を仮定する。なぜなら、`ab = 0` であれば `a` または `b` の少なくとも一方が 0 であるが、 このとき不等式の左辺は 0 であり、右辺は `1/p a^p` または `1/q b^q` となり、これらは正または 0 であるから不等号がなりたつからである。
`b = a^(p//q)x` として変数 `x` を導入する。すると、与えられた不等式は次の式と同値である。
`x ≤ 1/p + 1/q x^q`
右辺と左辺の差を `f(x)` とおく。すなわち、
`f(x) = 1/p + 1/q x^q - x`
である。`f(x)` を微分して増減を調べると、`f(x)` は `x=1`で最小値0をとることがわかる。よって不等式が証明できた。
等号成立は `x = 1` となるとき、ゆえに、`a^p = b^q` が成立するときであり、そのときに限る。
上のグラフは `(1/p, 1/q)` を変化させたものである、赤、橙、緑、青の順に、それぞれ `(1/3, 2/3), (1/2, 1/2), (2/3, 1/3), (3/4, 1/4)` である。
`p` と `q` に関する条件から、`t = 1/p` とおくと、`1 - t = 1/q` となる(`t > 0`) 。さて、対数関数は上に凸な関数であるから、下記が成り立つ。
`log (ta^p + (1-t)b^q) > t log(a^p) + (1-t)log(b^q) = log(a) + log(b) = log(ab)`
上の不等式の指数をとっても不等式の関係は保存される。ゆえに証明された。等号が成立するのは、`a^p = b^q` のときであり、かつそのときに限る。
上の図は、`u = a^p, v = b^q` とした置き換えのもとで、 対数関数 `log x` のグラフと、対数関数上の線分 `(u, log u)`, `(v, log v)` を表示したものである。
`x gt 0, y gt 0 ` とし、 `y = x^(p-1) hArr x = y^(q-1)` に注意して、この曲線を `C` とおく。
このとき、`C` と `x` 軸と `x = a` によって囲まれる図形の面積を `A` とし
`C` と `y` 軸と `y = b` によって囲まれる図形の面積を `B` とする。
このとき、グラフからそれぞれの面積を比較することによって次の不等式がなりたつことがわかる。
下記図形で、黄色が A 、桃色が B を表している。長方形 ab は青枠である。 青枠からはみ出た桃色部分が、不等式の不等号部分である。
一方、曲線の積分から次の等式がなりたつ。
`A = int_0^a x^(p-1) dx = a^p / p, quad B = int_0^b y^(q-1) dy = b^q / q`
これらを (3.1) に代入して次の式を得る。これは証明すべき式である。
`a^p / p + b^q / q ge ab`
積に関するヤングの不等式は次のように一般化できる。
`f(x)` は区間 `[0, c]` で連続かつ単調増加関数で `f(0) = 0` とする。また `g(x)` を `f(x)` の逆関数とする。 `a in [0, c], b in [0, f(c)]` とするとき、次の不等式が成り立つ。
ヤングの不等式の一般化に対して、逆が成り立つ。これは、
大関清太「不等式」で知った。
証明は Takahashi Tatsuo による。下記参照。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tmj1911/36/0/36_0_99/_article/-char/ja
ヘルダーの不等式は、このヤングの不等式を経由して証明されることが多い。
このページの数式は MathJax で記述している。
このページのグラフは SVGGraph で記述している。
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