フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番イ長調 Op.13

作成日 : 1999-02-04
最終更新日 :

1. ヴァイオリンソナタ第1番

フォーレの室内楽で最も親しまれているのは、ヴァイオリンソナタ第1番イ長調 Op.13 である。 私はヴァイオリンソナタ第2番に入れ込んでしまったために、 フォーレの最も有名なこの曲を四重奏曲以上におろそかにしてしまっていた。 罪滅ぼしにこのページを書いている。

わたしは正直いってヴァイオリンソナタは第2番のほうが好きである。 しかし、第2番ばかり聞いていると疲れることがある。そういうときには、 第1番を聞く。ほっとするのだ。

第1楽章(イ長調)の出だしはすごく甘く、みずみずしい。 誰もが好きになってしまう魅力にあふれている。 このピアノによる出だしは、大きく移動するアルペジオの上に旋律がのる形で表現されている。 実はこのような形をとっている室内楽はこの楽章のみである。 ヴァイオリンの旋律は素直であり、伸びやかだ。 フォーレの音楽の特徴である独特な転調も、作品の後期に見られるわかりにくい転調ではなく、 楽しみを第一とする、穏やかで気持ちいい転調である。

リズムの点では、4拍目から(ピアノ伴奏の)音を出す、いわゆる弱起を用いている。 メロディーがよどみなく進んでいる理由の一つではないだろうか。 ただし、弱起の拍を不完全小節にはしていない。きちんと「ため」を作ることと、 という作曲者の意思が感じられる。

註:弱起と不完全小節の関係で興味深い例は、 彼の夜想曲第6番にも見られる。 夜想曲第6番は、 このソナタとは逆に、弱起に聞こえないような、 息の長い単純なリズムの旋律線を用いているにもかかわらず、不完全小節を持っている。 この意味を明らかにするには、弱輩者の私には荷が重すぎる。

第2楽章はニ短調の緩徐楽章である。

後期の室内楽での緩徐楽章とくらべて深みには欠ける。 しかし、旋律はなめらかで、自然な呼吸が心地よい。へ長調への転調で得られる解放感が、 何ともいえず楽しい。

第3楽章スケルツォのリズムはおもしろい。2/8 拍子という珍しい拍子である。

3小節がひとかたまりが基調だが、ときどき2小節+3小節や、2小節+4小節の組み合わせが入る。 アルコ(弓)とピチカートを組み合わせた軽やかで小粋な楽章は、 才気溢れる、という表現がぴったりくる。 ヴァイオリニストには機敏さが求められる。 中間部では短調になり、軽やかさとは対照的なレガートで隣接音進行のメロディーを奏でる。 短調ではあるが、物悲しさや重さとは無縁である。

第4楽章フィナーレのなごやかな雰囲気は第1楽章の高揚をうまくひきとっている。

主題は後に組曲ドリーの第3曲「ドリーの庭」でも使われた、 付点リズムに特徴のある旋律である。 もちろんこの楽章自身も盛り上がっていき、最後に堂々と終わる。全くよくできたソナタである。

2. 実演を聞いた上での極私的感想

知り合いの方に誘われたコンサートで、この曲の実演を聞いた。 感想を一言でいえば「ヴァイオリンはわからないが、ピアノは技術的に難しい」 ということである。 最初のピアノからして鳴り方ががりごりしており、わたしの思っているこの曲のイメージとは遠かった。 また、第3楽章も細かな動きについていけなかったようだった。 伴奏ピアニストのみなさん、心してください。

3. CD など

この曲を録音した演奏者は、おそらく30人を超えるだろう。 私が持っているのはそのうちの 10人と少しである。

ギル・シャハム(Vn), 江口 玲(p)

最近出たこのCDを最近はよく聴いている。 ヴァイオリンの腕は巧みである。くずし方は少し嫌らしいが、それほど嫌みには感じない (単に私がくずしに関して許容度が増しつつあるからかもしれない)。 昔聴いていたのはグリュミオーやレイモン・ガロア=モンブランのCDである。これらもよい。 ヴァイオリンソナタ2番ほど悪い演奏に当たらないのは、 曲自体の持つ魅力が大きい上に引き出し易いからだろう (2004-01-15)。

この CD には他に三重奏曲などが収められている。

バール・セノフスキー(Vn)、ヴァンデン・エインデン(p)

二人の演奏は時代が古く、特に第1楽章の冒頭では音程が揺れがちである。 しかし、全体に休符の入れ方の巧みさや、ルバートのしなの作り方はうまい。 第3楽章の快速性も注目したい。 (2006-07-14)

クリスチャン・フェラス(Vn)、ピエール・バルビゼ(Pf)

鳴り方はいかにも昔風の演奏だが、当初の思い込みよりはすっきり聞こえる。 1960年録音という、よき時代の雰囲気が一番よく出ている演奏で、一聴をお勧めする。 私が気に入っているのは、冒頭のピアノの序奏が終わる直前、 嬰ハ短調のアルペジオが下降してドミナントを決める場面のリズムで、 ここがテンポ通り決まっているのはあまたの演奏の中で私が聴く限りがこれだけである。 バルビゼのピアノがしっかりしている、ということだ。 (2013-01-15)

そのほか持っている CD は次の通りである。ほとんどがヴァイオリンソナタ第2番とのカップリングである。

イザベル・ファウストの演奏は世評が高い。 そのほか、私が持っていないヴァイオリンソナタ第1番の演奏は下記がある。

ほとんど関係ないこと

http://kinoshita-piano.net/content2.html というページを見ていたら、 このページの「レッスン教材」の右側にある譜面が、 このソナタの第2楽章と第3楽章のヴァイオリン譜面であることに気づいた。 ピアノ教室のページになぜヴァイオリン譜があるのか、ということを詮索しないほうがいいだろう。 (2020-07-07)

譜例にもちいたシステム

譜例は abcjs を用いている。

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MARUYAMA Satosi