フォーレ : 閉ざされた庭

作成日 : 2000-03-13
最終更新日 :

1. 「閉ざされた庭」の位置

私は正直言って、後期歌曲集をそれほど聞き込んではいない。 特に、「閉ざされた庭」(Op. 106) は、 「蜃気楼」と同じ作風と思い込んでいる。 だから、 曲を聞いただけではどちらがどちらに属するかすら怪しいのだ。 そんな中、閉ざされた庭を久しぶりに聞いてみた。どうも私は「閉ざされた」という表題に、 惑わされていたようだった。この先入観を変えるだけで、自分の心を開くことができた。

2.曲の構成

全8曲から成る。一曲当たりの時間が非常に短い。動機は一曲あたり一つである。 第1,3,7曲はアルペジオを基調に、 その他の曲は和音連打を基調に進められていく。 以下、訳は全音のフォーレ歌曲集のものを使う。

第1曲「聴きとどけ」。

伴奏は彼の歌曲「夕暮」 を思い出させる下降アルペジオだが、 もっと軽い。歌が調性の庭を散歩する。

第2曲「あなたがわたしの目をみつめるとき」

詠嘆調の歌に、ピアノの右手の後打が微妙な効果を与えている。

第3曲「春の使者」

La messagèという原題の邦訳としてはこの他、 「使い女」、「先ぶれ」、「先がけ」、「使いの女」、「前ぶれ」 と多彩な訳語があてられている。 この表題は春の訪れを告げる愛の女神の意味である。 第1曲と同じアルペジオだが、上昇音型かつ速いリズムが私をとらえる。

第4曲「わたしは、あなたの心にとどめ置かれるであろう」

こちらは、ピアノ低音部の徹底したアウフタクトにより、 彼の夜想曲第11番を思いこさせる。 しかし、夜想曲と比べて、 低音部の動きが大きいこと、歌の部分があることから、 よりいきいきとした感じがある。ある人がフォーレのピアノ曲を評して 「彼の歌曲から詩をとった残りのようでむなしい」 といったことを思い出した。

第5曲「ニンフの神殿にて」

こちらは、 「消え去らぬ香り」のように、 和音が単純に置かれ、 歌が和音の柱をかいくぐるかのように進む。

第6曲「薄明かりの中で」

沈黙の贈り物」とくらべられる。 最初のリズムが続けられたあとで第2のリズムが登場し、交代する。

第7曲「それは、わたしの大切なもの、女神様、目隠しは」

幅の狭い、アルペジオと呼べないほどの和声の綾の上で、 たんたんと歌が進む。

第8曲「砂の上の墓碑銘」

ホ短調という調と、組曲の中の最後に置かれているという類似性から、 私は前奏曲第9番を連想する。

3. 裏と表

短い曲からなる「閉ざされた庭」は、フォーレの曲づくりの素材がはっきりとしている。 だから、他の曲との関連性と相違点を指摘しやすい。この曲集がフォーレの他の作品に比べて 知られていないのなら、この曲集は裏ドラ満載の山であり、源流といえる。

「聴きとどけ」が「夕暮」と異なるのは、多少速度を落としていること、 そして、そのアルペジオを構成する和声がその度に変わっていることだ。

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MARUYAMA Satosi