フォーレ:蜃気楼 Op.113

作成日:2000-03-13
最終更新日:

1. 蜃気楼の位置

「蜃気楼」(Op. 113)は4曲からなる連作歌曲集である。 「幻影」、「まぼろしの影」などとも訳される。 さて、この「蜃気楼」は4曲しかない。「閉ざされた庭」が 8 曲からなることと比べると、1曲の持つ意味が重い。 彼の持つ技法を組み合わせてフォーレがさらに深い世界を作ろうとしているのがわかる。

詩は、ド=ブリモン男爵夫人の詩集「蜃気楼(Mirages)」から取られている。

2. 各曲の解説

第1曲「水の上の白鳥」は、彼得意のフレーズで始まる。

よく彼の初期歌曲の傑作の曲名「リディア」をとって 「リディアのテーマ」と呼ばれる。このテーマは優しい歌での「白い月影」他にも使われている。 他の作曲家の例でいえば、少し似ているのがグレゴリオ聖歌であり、 この聖歌を引用したデュリュフレの「レクイエム」の「入祭唱」である。 もっといえば、チャルメラの夜鳴きそばのテーマとも似ているが、さすがにそこまでいう人はいない。 歌は、伴奏の上をなぞるにすぎない。伴奏を水にみたてれば歌はまさに白鳥であり、 白鳥は水の高い低いに従って上下する。この水は後に 16 分音符という細かな波になる。 しかし、歌は相変わらず波の包絡線と同一の節を奏でる。伴奏が8分音符にもどり、 相変わらず歌はピアノに寄り添うだけである。

第2曲の「水に映るかげ」も、歌と伴奏が同一の節を奏でることには変わりはない。 ただし、詩はより細かくなっていく。また、伴奏は4拍子から3拍子になったり、 伴奏に3連符が挿入されたりする。この3連符は、伴奏のない歌だけの朗唱のあとに挿入されるため、 その神秘性が一層際立つ。また、3連符に始まる伴奏が、2連符に戻り一時的に集結するときには、 ピアノの伴奏譜には和音から休符へのスラーが書き込まれている。 これはドビュッシーにはごく当たり前に見られる書法だが、フォーレには極めて珍しい。

第3曲「夜の庭園」は、ちょうど1オクターブに収まる声を支える伴奏が渋い。 フォーレのどれかの曲と似ているが、どう似ているかわからない。

興味深いのが第4曲の「踊り子」。符点音符が執拗に続く。途中アルペジオによって取って代わるが、 また符点が割り込む。アルペジオはじきに消え、符点音符が支配して、最後まで続く。不思議な音楽だ。

まりんきょ学問所フォーレの部屋 > 蜃気楼


MARUYAMA Satosi