スラッキーのすすめ2 〜硬くなったアタマをほぐす編〜

 ここでは、わたしがスラッキーによって目を開かれた事々を書いてみます。題して、「スラッキーは、硬くなったアタマをほぐしてくれる」。

 

オープン・チューニング

 スラッキーは、いわゆる変則チューニングを使います。
 わたしはまずこれに抵抗があったのです。ギターは20代の頃から弾いていました。もちろんスタンダード・チューニングです。
 でも、スラッキーは変則チューニング。せっかく覚えた指板もコードも、チューニングを変えれば全く役に立たなくなります。すごくもったいないと思いました。
 最初にギターのチューニングを変えた日のことは、いまでも覚えています。はじめての外国に降り立ったような不安を感じました。弾いてみても、なにしろどこが何の音かわからないのです。簡単なコード、CとかGとかさえ、まともに弾けない。2弦から1弦に弾き移ると、「なんでこんな音がでるんじゃ!」という感じ。すっごいストレスを感じました。
 でも、1曲、2曲と曲をこなして、慣れてしまえばなんてことはないのです。それまでの音楽的知識がムダになるということもありません。スケールやコードの理屈は同じです。
 そうやって、オープン・チューニングに慣れてきた目で、スタンダード・チューニングを見直すといろいろ気がつくことがありました。スタンダード・チューニングは、なぜあんな並びになっているのか。どこが便利なのかを実感するようになったのです。
 レッドワード・カアパナは、スタンダード・チューニングでスラッキーを弾くということをやっています。スタンダード・チューニングの6弦(E)と5弦(A)の開放弦をベースに使って弾くというやり方ですが、スラッキーは変則チューニングという固定観念に対する発想の転換で、これはおもしろい試みだと思います。

 

音楽に必要なチューニングを使う

 ブルースの多くが12小節であるように、ハワイの音楽は8小節+2小節のバンプという形式が多いのです。これはフラの音楽からきた形式のようですが、とにかくこの8小節+2小節がハワイアン・スタンダードと言っていいでしょう。バンプが付いたこの形式をハワイアン・ブルースと呼ぶこともあるようです。
 いわゆるポピュラー・ソングの多くは32小節です。それに比べて、ハワイの曲は(バンプを除けば)基本的に8小節、4分の1の長さです。しかも最後の2小節はたいていⅤ(ドミナント)-Ⅰ(トニック)なので、実質的には6小節覚えればその曲のコード進行がわかったことになるのです。

 

テキトーでいいのだ

 クラシックをやっている人に多いのですが、消音するということにすごくこだわる人たちがいます。ちょっとでも音が濁るのが許せないのでしょう。
 また、ギターという楽器は、押さえている指を離してしまえば、音は消えます。ピアノのペダルみたいな便利な装置は付いていません。ポジションを移動するためには、物理的に手を離さなければなりません。そこで演奏が一瞬切れてしまうことがあります。音が切れないように弾くというのが、一般的にギターの難しいところです。
 でも、スラッキーでは、消音もブツ切れもあまり気にしません。
 特別、消音などしないで、一度出た音は次の音がでるまで鳴っています。大胆に言ってしまえば、それでいいのです。消音を気にするあまり、音楽そのものが大らかさを失うより、多少音が重なってものびのび弾くことがスラッキーでは大切です。
 ブツ切れ対策に関しては、スラッキーではスライドを使います。指を離すから切れるので、押さえたまま動かせば音も動いていき切れません。単に音が切れないだけでなく、スライドを積極的に使っておもしろい効果を出すというのが、スラッキーの醍醐味のひとつでしょう。
 指板やコードも、別にちゃんと覚えなくても、弾けるのです。1弦だけどこがドレミなのか覚えて、コードは3コードさえわかればなんとか弾けます。テキトーでいいのです。

 もっと正確に言えば、テクニックはテキトーでいいと思うのです。それより、音楽の流れや大らかさが大事でしょう。細かいことにはこだわらず、もっと大きなリズム、ゆったりとした流れを意識して弾いていく。スラッキーはそのことを教えてくれます。
 「適当」や「いい加減」ということばは、もともといい状態を表すことばだったはずです。超絶技巧や完璧でなくていい。そういういい意味でのテキトーさがスラッキーには大切なんじゃないかと思っています。

更新情報

2012年5月19日
冊子・広報誌(六弦堂の仕事2)に、今年作ったもの2点を加えました。
2012年5月1日
六弦堂ページをリニューアルしました。
2012年1月4日
プレイ・ザ・スラッキー・ギターに「ビデオ(教則)」を加えました。
2011年12月26日
六弦堂ページをアップロードしました。

 

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