演奏のヒント

 

 スラッキーを始めた当初、わたしがひっかかったのは、自分の演奏がハワイ風に聞こえないということです。一応レコードと同じような音を出しているはずなのに、「あの感じ」がない。
 ここでは、スラッキーを弾いていて、ここがポイントではないかと思うことをメモしていきます。わたしにとって、スラッキーを弾くときのコツと言えるでしょう。これらのほとんどは、わたしの先生である山内雄喜さんが言ったなにげないひと言を集めたものです。聞いたそのときは特になにも思わなかったのに、あとから、「あー、そうか、あれはこのことを言っていたんだ」と気づくことがしばしばでした。

 

スラッキーは、なるべくコードを変えないで、いろいろ音を出すのがいい

 わたしにとってスラッキーの弾き方をひと言で言えばこれです。
 スラッキーは、2コードか3コードのものを弾くのに適した弾き方で、そのなかで何をやるか、どうやるかが魅力です。2コードなら主調のドレミファソラシドを弾いていれば、たいていなんとかなります。これがいいんです。
 もちろん、どんなチューニングでも出そうとすればいろんなコードを出せますし、実際、代理コードやテンション・コードなどを使ったスラッキーの編曲も出てきています。でも、そういう方向はスラッキーにとって幸福な未来はないとわたしは思うのです。
 複雑なことをしたいなら、スタンダード・チューニングでクラシック・ギターのテクニックを使って弾いた方がずっといいでしょう。それにコードを細分化していけば、アドリブするにもジャズで使うようないろんな知識が必要になってきます。そんなことを知らないでもできる。そこがスラッキーの魅力じゃないでしょうか。

 

スラッキーはサイミンみたいなもの

 バックヤード・ミュージックということばがあるそうです。直訳すれば、「裏庭の音楽」。仕事を終えて、夕食前にちょっと誰かの家の庭に集まって一緒に弾こうよ、そういう風な音楽。スラッキーもそういう風に楽しまれ、伝えられてきた音楽でしょう。
 山内さんは、「スラッキーはサイミンみたいなもの」と言っていました。サイミンはハワイ式ラーメンみたいな食べ物です。それも、日本によくある「こだわりのラーメン」や「行列のできる店のラーメン」ではなく、どこにでもあるラーメン。いつでも手軽に楽しめて、ちょっとおいしい、そういうものがスラッキー、ということだと思います。演奏会でカミシモ着て弾く音楽じゃない。そんな気持ちでやってます。

 

単音で弾かない方がスラッキーっぽい

 スラッキーの特徴のひとつは、1弦と3弦、あるいは1弦と2弦(または2弦と3弦)などを組み合わせて、5度や3度の和音を多用してメロディーを弾いていくことです。多くのスラッキー・ギタリストがアレンジをする場合、あるいはアドリブで弾いていく場合も、この和音を元に展開していくことが多いようです。
 これもまた程度問題ですが、メロディーやアドリブのフレーズを単音でずーっと弾くと、スラッキーっぽく聞こえません。適度にこの和音を混ぜていくとスラッキーの色彩が出てくるように感じます。

 

オルタネート・ベースは、2拍・4拍を強く弾く

 オルタネート・ベースとは、たとえばGチューニングの場合、4/4拍子でGのコードなら、5弦と4弦を交互にズン(5弦)タン(4弦)、ズン(5弦)タン(4弦)と弾くやり方です。
 スラッキーの曲では、このタン(4弦)の部分を強く弾きます。そういうリズムのとり方ということですから、もちろんコードが変わっても同じです。レッドワード・カアパナの演奏などを聞くと、感じがよくわかると思います。
 私見では、ここはスラッキー演奏の最重要ポイントと言っていいように思えます。これができればスラッキー度はぐんと上がります。何でもないことのようですが、ちゃんとできるとリズムにメリハリがでます。ただ、親指を気にすると、他の指が動かなくなってしまうし、メロディーに集中すると、ついこのリズムを忘れてしまいます。カラダに覚え込ませるくらい弾きこまないと、なかなか身につきません。

 

音を省いて弾く

 スラッキーのギタリストの多くがツー・フィンガーで弾いています。スラッキーの場合、こうした弾き方が、音楽の中味や性格を作っていったという面もあると思います。右手を親指から薬指まで使って弾くと、(特に、アルペジオ主体の曲など)まるでクラシック・ギターみたいになってしまいます。そう弾きたければ、それでもいいのですが、なんとなくスラッキーっぽくない。音楽において、この「〜っぽい」っていう部分に大事なものが含まれていると、わたしは信じているのです。
 ツーフィンガーで弾かないと、スラッキーはダメかと思った時期もありましたが、考えてみればケオラとかはスリーフィンガーで弾いてます。(でも、彼は結構クラシック的ではあるけど)。
 ケオラの弾き方を見ていくと、近年、とくに音数が減ってきていることに気づきます。音と音の間を、音で埋めない。音と音の間を大きくとる。そんな意識があるように感じます。
 スラッキーでは、弾きすぎないことが大事ではないでしょうか。弾きすぎるより、スカスカの方がいい。音を足すのではなく、むしろ音を省いて弾いてみると、スラッキーっぽくなるような気がします。

 

アドリブは、伴奏することから

 レッドワードみたいにアドリブしてみたいと思っても、どうしたらいいんだろう。アドリブなんてすごく難しそう思えます。フレーズをたくさん覚えて、それを他の曲にあてはめて・・・といった正統派の練習方法もありますが、これだとかなりの努力が必要です。
 山内(雄喜)さんは、曲のメロディーを頭のなかで歌いながら、その伴奏するようにギターを弾くといいと言います。
 これはなかなかいいやり方だと思います。フレーズを覚えるやり方だと、途中でフレーズを忘れれば音楽が止まってしまいます。でも、この方法でしたら、とりあえず止まることはありません。音楽は音の流れですから、いくらカッコイイフレーズを弾いても、ブツブツ切れては仕方ありません。伴奏から始めるやり方は、最初は本格的なフレーズでなくても、音楽の流れのなかからフレーズを作っていく自然な方法じゃないでしょうか。

 

スライドを効果的に使う

 スライドは、グリッサンドやポルタメントとも言われますが、左手の指で弦を押さえたまま、滑るように動かして音を出す方法です。スチール・ギターはスライド・バーでこれを多用するのが特徴ですが、スラッキーでもこの奏法を使うと、フレーズにやわらかい感じを与えることができます。
 ギターという楽器は、押さえている指を離せば音が切れて、音楽の流れを中断させてしまいます。これをどうするかがギター奏法の難しいところです。スライドはそういう意味でも音の途切れをふせいでくれます。
 ただし、この技法はあくまで調味料といったもので、あまり使いすぎると嫌味になってしまいます。どこでどう使うかが弾いてるひとのセンスとなるのでしょう。

 

更新情報

2012年5月19日
冊子・広報誌(六弦堂の仕事2)に、今年作ったもの2点を加えました。
2012年5月1日
六弦堂ページをリニューアルしました。
2012年1月4日
プレイ・ザ・スラッキー・ギターに「ビデオ(教則)」を加えました。
2011年12月26日
六弦堂ページをアップロードしました。

 

Slack-key Guitar