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森 博 嗣 フ ァ ン 倶 楽 部
ふ ぇ

森博嗣助教授の特別講議
「ミステリィと流体力学」
レポート *ページ1*
 講議キーワード 

Rheology
Reality
ABS
Chaos
Information
Mystery

*INDEX*
Tanahashi(No.00011)「ミステリィと「流体力学」」
SEN(No.00021)
くりはらいくり(No.00066)

Reporter:Tanahashi(No.00011)Title:ミステリィと「流体力学」
 「今日はミステリィと流体力学というタイトルなので流体力学のことを少し話しましょう。」と、最初のOHPを見せられました。
 「弾性はバネ(有微パンで出てきましたね)で、塑性(プラスティックな性質)はスライダー(物体をすべらせてずらすもの)で、粘性(粘り気)はダッシュポット(車のショックアブソーバのようなもの)で表されます。」
 (3つの力学モデルは、物体に力が働いたときの応答をモデル化するときに使われる要素で、力に比例した変形、ある力以上の大きさでの急な変形、力と変形の速度が比例、という3つの変形の性質を表します。物体の変形を扱う学問であるレオロジーは水や空気のような流体の力学的な性質を扱う、狭い意味の流体力学も内部に含んでいるといえるでしょう。流体力学は一般の力学をすべて含んでいるとの言葉もありました。)
 「その性質も時間の尺度を変えれば違って見えます。小学生の時にかわいらしい天使のローソクをもらいました。頭が身体と同じくらいの二頭身の人形ですが、普通の天使にはちゃんと重心のところに羽根が生えているのに、この人形も同じように肩に生えているのでバランスが悪くて、飛んだら前に傾きそうでした。最初ちょっと火をつけたら、頭が溶けてかわいそうなのでその後使わないで置いておきました。何年かしたら俯いていた。その後お辞儀をしていき、最後には顔が下にペッタリとついてしまいました。このように固いものでも時間をかけると流れるものだとわかります。大陸を乗せているマントルは固い岩石ですが、長い時間で見れば対流していて大陸を移動させている。何十年か前にウェゲナーが、大陸移動を主張して当時は認められなかったが、現在は認められています。石の上に十円玉を置いておくと、長い年月には(酸化してなくならないとすると)石の中に沈んでしまうはずなんですね。」
 (大陸移動は知られてきましたが、かえってマントルが火山から出てくる溶岩のような流動性の高いものだと誤解する人が多くなったような気がします。)
 「コンクリートに死体を詰めて海に捨てるという話がよくありますが、(詩私ジャを読まれたらご存じでしょうが)比重からいえば、死体は浮いてしまうのです。また、雨が降るとセメントが固まるのが遅れると思っている人もいるが、セメントは水と反応して固まるので、水の中でも同じように固まるのです。この反応は自然界で何万年もかかって石灰岩ができる過程と同じ現象を2−3日で起こしているのです。」
 「生コン(フレッシュコンクリート)の業界の集まりで講演を頼まれたことがあります。コンクリートとモルタルの違いはわかりますか?コンクリートはセメント、砂、砂利、水を混ぜたもの、モルタルは砂利を抜いたものです。砂や砂利は骨材というものでコストを下げるために混ぜるのですが、そのためにどのような強度を持っているか、どのように壊れるかを知ることが重要になります。それで破壊実験やコンピュータシミュレーションをやります。試料を壊してみるとX型のヒビができて壊れていくことがわかります。砂利に相当する粒子の間のセメントに相当する部分が流動することによって変形していることがわかるのです。これは流体力学的にシミュレートできます。ただし、計算時間がかかるのでコスト的にまだ実際に実験をする必要があるのですね。」
 続いて森先生が開発された「サスペンション要素法」の式が書かれたOHPを示されました。これは粒子を含む粘弾性流体の力学的挙動を解析するための手法で、どのようなシミュレーションができるかという例を、次のOHPで示されました。スランプテスト、Lテストという2種類の条件を与えた図が出ていました。これは枠に入ったコンクリートを急に枠を取ってしまったときに重力によってどのように流れるか、枠の形状を変えたときにどのように流れるかを求めたもののようです。
 後の質疑の時に、「地震に対する応答にも応用できるのか」という質問に対し、「地震の破壊、火砕流など、さまざまな用途に応用できるが、まだこれからだ。実はこの後、これと似た方法をアメリカの研究者が提案しています。私の方法は流体力学から発展したものなのに対して、彼らの方法は粉体力学から導いたものです。結果的に似てくるところがおもしろいですね。」とのお話でした。
 昨年の「ミステリィと力学」は「ミステリィ トリッキー学」の意味も含めたのだそうですが、「ミステリィと流体力学」ということでは、明言されませんでしたが、「常識」からの思いこみには本当のリアリティが無い場合がある、またそれをトリックにできる、ということを示唆されたような気がします。
 ミステリィの創作エピソードもたくさん聞いたのに、スペースが無くなってしまいました。他のみなさんのレポートをご覧ください。
 
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Reporter:SEN(No.00021)
 まず、残念ながら講演会に参加できなかった皆様、「森博嗣のミステリィ工作室」(メディア・ファクトリー/ハードカバー¥1300)をお読みになることを強くお勧めします。私は講演会後に講読しましたが、当日の先生の講議はどうやらこの本の内容にもそっていた様です。ちゃんと写真も掲載されています。

 これは読者に対して先生が公平(フェア)だという事の、一つの現れかと思われますがいかがでしょうか。

 ここではそれをふまえて、本には書かれていなかったけど講演会では先生がお話になっていた部分に絞って、御報告させていただきます。

 講演会の内容は大雑把に分類すると、前半は森先生の大学でのお仕事、研究の内容についての簡単な説明と解説、中盤に「とっておきのジョーク」のコーナー(?)があって、最後は「犀川・萌絵シリーズ」を中心とした小説家のお仕事や、作品解説。以降は先生への質問コーナーでした。

 第一声は「えー、森です。」だったと記憶していますが、どうでしたでしょう。

 今回の講議での発見事は(私的ですが)

*先生個人に関する事*

 ●先生は小学生の時お友達にプレゼントされたろうそくの天使を、大学生になっても捨てずにちゃんと(?)持っておられた。
 ●いま大学で研究している事は、50年後(だったかな)に実用化されてゆくであろうという類の最先端研究で、地震に関係のある研究である事。
 ●先生は実は花粉症だった。
 ●「大学辞めるのか?」と教授に尋ねられて「教授になったら辞めます」と返答なさった。
 ●「金田一少年の事件簿」よりも「名探偵コナン」の方が好みである(絵も好きだそうです)。
 ●「シャーロック・ホームズ」はお嫌い。(フェアじゃないからでしょうか?)
 ●1人称だけでなく、配偶者の呼び方も「研究者」の時と「小説家」の時で変化する。
  研究者の時だと「女房」、小説家の時は「奥さん」とのこと。
  という事は今後(講演会の時など)いま先生のどの人格が表に出ていのるかを知るには
  これも一つの手がかりになるかもしれません(え?)。
 ●昔は水泳、卓球などのスポーツもやっていた。

*小説に関して*

 ●まず登場人物を一覧に書出し、次に舞台や建物(これは重要だそうです)を決定。後はそこにキャラクタを放り込むというスタイルで書き始める。で、登場人物は出てきた順にスラッシュで(か分かりませんが)消してゆく。で、どうしても出てこないキャラクタは一覧表から消すそうです。
 ●「詩的私的ジャック」の時のメモは先生まだお持ちの様です。(是非とも見たかったです。)
 ●今後一生小説を書き続けるかどうかは、分からないそうです。(それはそうですよね)
 ●最初の4作は予定していた順番が変更になったため、「F」で萌絵がなぜ島にいったのか今一つ疑問が残るところだが、これはだれも気付かなかったようである、とのこと。最初は卒論の為に島に行くという設定だったそうです。
  手持ちの「F」を見る限りでは、その辺もおかしくならないようにちゃんとフォロー済みだと思います。
  ということは、これは先生の読者への「軽い揺さぶり」だったのでしょうか?

*とっておきジョーク*

 ●昨年6月のときは登場した犬種は「テリア」でしたが、今回は他に「コリー」が登場しました。
 ●とっておきジョークは学生の眠気醒ましの為に実践しておられる先生の講議テクニックだそうです。

*意味なしジョーク*

●先生一押しの「意味なしジョーク」を披露していただきましたがそれはこういうものでした。
 「象を冷蔵庫に入れるには3つの方法(手法?手段?)がある。」
 「1.冷蔵庫の扉を開ける 2.象を入れる 3.扉を閉める」
 「ところが今度はキリンを入れようとすると、これが4つになる。」

 「1.扉を開ける 2.象を出す 3.キリンを入れる 4.扉を閉める」

 私はとっさに「1.キリンの大きさに合わせた冷蔵庫を用意する」「2.キリンを冷蔵庫に入るサイズに解体する」「3.ビールをいれる」とかなんかそういう事かと思ったのですが、これが見事にはずれました。これではまだ「意味」があるんですね。

 以上、大体こんなところでしょうか。
 講議の締めの言葉は「どうも すみませんでした」(と記憶しています)。驚きました。
(「金田一少年の事件簿」のことでなのか、他の何かに対してなのかは分かりませんが、理由を探ろうとは思いません。)

 当日、東京は木枯らしのふく寒い日でしたが、会場を出る人はみな、ほんのり頬が上気していましたね。
 身も心もほかほかしたまま、それぞれ帰路についた事と思います。素敵な特別講議でした。

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Reporter:くりはらいくり(No.00066)
 前日のオフに引き続き、札幌から参加しました。札幌はまだ冬だけど、東京は爛漫の春に違いない! と勝手に思い込んで選んだ服では寒かったです。森先生によると「飛べるんじゃないかってくらい風が強い」日でした。壇上の森先生のご衣装はKHでしたね。とてもお似合いですが、いつかスーツにネクタイのお姿も拝見したいです。

 私は浮かれていたので、詳しい会場の様子はさっぱり覚えておりませんが、つい一番前の席に座ってしまいました。これがコンサートなら、ステージから投げられたギターピックやハーモニカが取れるのでは、と期待できる席であります。しかし残念ながら、物質と認識できるものは何も飛んできませんでした(当たり前)。でもでも、お話を聞けただけで充分なのです。

 今回はOHPを使ってのご講演です。ご研究の発表に使われたのだろうと思われる写真や図、それと数式でいっぱいのOHPを見せて下さったのですが、あれは一体何の式だったのでしょう(…………。)。森先生は「(式を見て)驚かないで下さいよ。脅かすために持ってきただけなんですから」と、よくわからないことをおっしゃっていましたが、数式のOHPは手書きです。綺麗に色がついていて、「愛情のこもったOHP」だそうです。6年くらいまえに書かれた、思いでのある式とのことでした。「式を解く」のではなく、「式を作る」ことがご研究なのですね。そんな研究者としての側面を垣間見られたことは嬉しいです。

 ミステリィのお話で私が気になったのは、「金田一少年の事件簿」を、「金田一君の事件簿」とおっしゃっていたことでしょうか。どうでもいいと言えばどうでもいいのですが、ちょっと間違っています。「金田一君」については、「ポーカーの常套手についての理解が誤っている」「金田一君の性格がちゃらんぽらんである」「過去に恋人が殺されたから、というのは動機として問題がある」等の理由から、「リアリティに欠ける」というご意見のようです。しかし「コナン君」はお好きとのことですので、よろしいと思います(何が?)。「コナン君」は絵もお好きなのだそうです。これは初耳です(にこ)。

 そしてご自身の作品についても、他のことについても、沢山お話して頂きました。
 ミステリィ作家は一番初めの作品が傑作と言われ、それがしゃくに触るので、(「F」を)温存しようと思っていたとか、4番目に執筆された「F」が初めに出版されたことで、「冷密」から仕込んだ「遠大な伏線」が泡のように消えたとか、「数奇模型」が600gくらいあって重いので反省したとか、ご自分は字を見るのが嫌いだとか、本が分厚いと喜ぶ、字の好きな人は日本中に30万人くらいしかいないとか、今日は風と花粉のせいで鼻声だけれど、日頃は5オクターブくらい声が高くて背もすらっと高いとか、あの人は数学者じゃないとか、「黒猫の三角」は久しぶりの傑作だから読んだ方がいいとか、「めぞん一刻」を知らない人がいて話にならないとか、ご自分の小説を読んで泣いたり笑ったりするとか、みんなが「安室ちゃん」と言っているのはガンダムの話をしているのだと思っていたとか、時々「嘘です」「根拠はありません」「言ってみようと思っただけです」などとおっしゃって、果たして、これらが何処まで本当なのかわかりません(たぶん全部本当でしょう)。
 真面目なところでは(今までのが不真面目だったわけではありません)、「これをあそこで言おう」と準備して言われたギャグが面白くないように、「これを使おう」とメモしておいた台詞は小説の中では浮いてしまう。メモを取らなくても本当に面白いことはずっと覚えているし、それは一番相応しい場で出てくるものだから、流れるままに書くようにしている、というお話などは興味深かったです。

 というな感じで(わからんわ!)あっという間の120分でした。とても短かったです。
 そして、いろいろなところで繰り返されていますが、テレビもスポーツもやめて、食事も1日1回という森先生の生活はシンプル。
 「歳をとるほど、ものごとを減らしていかなくてはいけない。減らせば残りのことに集中できる。無駄なものを削っていくことがデザインである」「人生設計(ライフデザイン)という言葉の通り、なるべくシンプルにしていって、一番最後は読書だけするとか、犬だけ撫でているとか、そういう人生を送りたい」という最後のお話がとても印象的でした。

 受付をして下さったり、どりるやびら、栞製作・配付のために頑張って下さった皆様、ありがとうございました。

 そして、素敵な森先生に心からの感謝を。お疲れさまでした。次は6月講演会です!
 
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