4月18日(日曜日)晴れ 桜二分咲き

 前日、4月17日は第3土曜日でMC秋田の会。沖縄へ行っていた大山さんのダイビングフォトを見せてもらいました。とても初めて取った水中写真とは思えません。もとから、写真の心得のある大山さんですが、画面一杯のカンザシゴカイのアップから、ミドリイシの色が分かる写真、シライトイソギンチャクの中のハナビラクマノミ、とても上手です。やはり、Aquaristが撮った写真はAquaristが見たいものを写してくれます。私も、是非ともCカードを取って水中写真を始めねば。

 MC秋田の会ではビールをセーブしていたのに、その後、妻と2時近くまで飲んでしまいました。アルコールに強くない私ですが、18日は幸い二日酔いにならずに済みました。しかし、これからは前の日のアルコールは控えます。

 本日は菅野さんと一緒に限定水域(プール講習)モジュール3からです。教えて下さったのは、保科さん、佐々木勝さんです。菅野さんは体調不良で途中リタイア。昨日のMCではセーブしていたのですが、昨日は他の会合もありダブルだったとのこと、お気の毒です。

 本日は日曜日、プール講習を行けるところまでやってしまおうと老骨にむち打ちました。何とか水中でバランスを取れるようにはなったのですが、油断するとすぐラッコ状態(腹が上になりジタバタ)になってしまいます。本日のモジュール4ではどこにも触ってはいけない、フィンなども使わずに30秒以上水中に停止していなければならないという中性浮力の実習があります。私はフィンなどを使わないとすぐデングリがえってラッコになってしまいます。どうしてインストラクターの方は重い背中を上にしてじっとしていられるのだろう?今回は割り切ってラッコ状態のまま中性浮力に挑みました。
 無重力状態と同じで、重さは感じませんが、質量が無くなったわけではないので慣性は働きます。体が沈んでいきそうになり、あわてて息を吸ってもしばらく体は沈み続けます。沈降が止まると吸いすぎた空気の浮力のために今度は水面近くまでいきなり上昇して、急いで息を吐き出します。急な呼吸が大きい上下動になってしまうのですが、体の慣性が体の比重変化での作用を遅らせるので、なかなか、初心者の私は少量の呼吸でコントロールできないのです。
 まあ、ぎりぎりのところで中性浮力にOKが出ました。しかし、ラッコ状態ではオーバーハングのサンゴしか見れないでなはないか。その上、へたくそな中性浮力ではオーバーハングに「あたまゴチン」です。これは頭もサンゴも痛い。
 中性浮力はプールもそうですが気圧変化の大きい水面近くの方が難しいそうです。徐々に慣れるでしょうが、写真が撮れるような中性浮力が身に付くのはいつでしょうか?

 限定水域モジュール5まで行ったと思ったのですが、最後に長距離スイミングがありました。直径3mのプールなのですが、それをフィンもマスクも使わず25周です。2π×1.5m×25周=「235.5めーとる」ではないですか。3mのプールの内側を泳ぐのですから、もちろん実質はそれより少ないでしょうが、きつい。最初、ラッコ状態御本家の背泳ぎで行こうと思ったのですが、ドライスーツの浮力で脚が水面下に沈まず、ほとんど進みません。そこで手は平泳ぎ、脚は犬かきという最も格好の悪い泳ぎ方で、25周成し遂げました。
 プール講習最後の10分間水面フロートは疲れた体をゆっくり休められました。文字通りのウオーターベッドで、居眠りしそうになりました。これで、プールでの実習は終了、来週天気が良ければいよいよオープンウオーター、海での実習です。

呼吸と体液pH

  本日やった実習で、「ハイパーベンチレーション」(過換気)がありました。pHと二酸化炭素はAquaristもDiverも興味のあるところと思いますので、呼吸生理のさわりのところを述べておきたいと思います。

 魚は、正常でもハイパーベンチレーションです。水中の酸素を沢山取り入れるため、鰓呼吸でガス交換を活発にしている結果、体内の二酸化炭素は飛んでしまい易いのです。ガス検知器(センサー)は酸素分圧(PaO)のセンサーしかなく、これで酸素分圧の低下を検出すれば鰓呼吸を激しくします。これは人間にも受け継がれ、頸動脈のところに酸素分圧センサーが付いています。
 ところで、魚が陸上生物になり、肺呼吸を行うときにひとつ問題が生じました。空気中では直接酸素を取り入れるので、ほんの少しの呼吸で酸素は飽和してしてしまうのですが、換気が少ないと、体内に二酸化炭素が貯まってしまうのです。このため、酸素検知だけでやっていると二酸化炭素蓄積のため体液が大きく酸性に傾いてしまうのです。そこで、陸上の肺呼吸生物は二酸化炭素センサーを開発しました。これは脳血液関門というところで血中の二酸化炭素の増大を髄液のpHの変化に増幅させ、脳幹に伝えるのです。いわば、肺呼吸生物は脳に二酸化炭素センサーを持っていて、通常は頸動脈の酸素センサーよりこちらの二酸化炭素センサーの指令で換気量を決めています。

 こういう仕組みのため、水に入る前にハイパーベンチレーションを行うと、一時的に二酸化炭素分圧が下がり、血液pHが上昇します。普通の呼吸から息止めしたときより、この場合、二酸化炭素がより多く貯まらないと脳の二酸化炭素・pHセンサーが働かないため、呼吸したいという欲求が遅く来るのです。
 ハイパーベンチレーションをやりすぎると、非常に二酸化炭素分圧が下がり、頸動脈の酸素センサーが働くまで、呼吸の必要性が感じられなくなります。酸素センサーの信号が来たときには、もう酸素は危険なレベルまで低下しているので、空中だったらよいのですが、水面まで行かなければならない水中では間に合わない事態もあり得ます。
 これのような理由で、スキンダイビング前のハイパーベンチレーションは3,4回までに制限されているのです。

 ここから先は、もう少しだけ専門的になりますので、ご興味のある方だけお読み下さい。

 体内でいろいろな代謝が行われる結果、大量の「酸」が生産されます。最も多いのは二酸化炭素で、1日に15000mEqも生産されます。二酸化炭素は揮発酸と呼び、肺がその排出経路で秒から分の単位で制御されています。重炭酸、リン酸、塩素イオン、その他の酸は不揮発酸と呼び、腎臓が時間、日のタイムスケールでそのコントロールをしています。
 血液・組織液の酸塩基、ガス分圧コントロールは細胞の生命維持に絶対必要ですから、厳密に行われていて、変化が生じればもとに戻そうという働きが出現します。

 正常の血液、組織液ではpHは7.35〜7.45、PaCOは38〜47mmHg、PaOはほぼ100mmHg、HCO-は24〜26mEq/lです。(Paとは動脈血中の気体分圧)

 このうち、酸素は1気圧の空気を吸う限り、いくら正常より換気を増やしても100mmHg以上にはなりません。これは一気圧760mmHgから飽和水蒸気分圧(37℃で44mmHg)をひき、それに酸素比(20.94パーセント)をかけると気道中の酸素分圧約150mmHgとなり、これに静脈から戻ってきたガスが、肺胞内で新しいガスと混合されるため上限が100mmHgになってしまうためです。肺疾患があったり、高齢になるとこの上限が下がってきます。これを上限として、換気が抑制されると酸素分圧は下がっていきます。なお、酸素はあまりpHには影響を持ちません。

 それに対して、二酸化炭素は換気の影響をを強く受けます。過換気になると大気の二酸化炭素は0.03パーセントしかないので、すぐPaCOは下がりその結果、血液はアルカリに傾きます(呼吸性アルカローシス)。過換気が強く起き、血液がpH7.6までなると、カルシウムイオンが低下します(水槽と同じですね cf pH,KHとカルシウム及びpH、KHとカルシウム補)。
 この低カルシウムイオンのために、筋肉と神経に異常が出て、手が良く動かず、口がしびれ、吐き気が出ることもあります。また、血管、特に脳内の血管が収縮するため蒼白な顔面と、意識の低下が起こります。しびれと呼吸筋が動きにくいため、酸素不足になったような気がして、ますます呼吸を激しくしようとし、悪循環に陥ります。これが、パニックになった時に起こりやすい過換気症候群です。
 「過換気症候群になったときは、ゆっくり呼吸するように勧める」と書いてある本もありますが、窒息の恐怖に陥った人にこれを言ってもコントロール出来はしないので、自分のはいた息を再吸入させます。昔は紙袋があったので、それを用いましたが、現在紙袋は手元にないことが多いので、1リットルほどのビニール袋に息を吐き出させ、その3分の2くらいを再吸入させます。これで、放出しすぎた二酸化炭素を取り戻すのです。袋呼吸をさせると5分もしないうちに嘘のようにしびれ、呼吸困難感は消失します。

 息止めをしたり、急性の呼吸不全になると、二酸化炭素が急に増え、血液が酸性に傾きます(呼吸性アシドーシス)。これは強く呼吸中枢を刺激するので、急いで換気するように体に働きかけ、呼吸を再開するか、人工換気で呼吸状態が改善するまで、苦しさが続きます。
 一方、慢性呼吸不全の人などは、常に二酸化炭素が体内に貯まった状態にあります。これでは体液pHが酸性になってしまいますが、慢性呼吸不全はゆっくり来るので、腎臓が尿に酸を沢山捨て、pHを戻しています。また、長い間の二酸化炭素高値のため、脳内の二酸化炭素センサーは働かなくなっていますので急性呼吸不全のような苦しさはなく、体動時の息切れのみがあります。重い慢性呼吸不全の人がダイビングを始めようとすることはないと思いますが、タバコなどで軽度の慢性呼吸不全があるかもしれない人は呼吸、循環器の専門医にダイビングを始める前にチェックしてもらう必要があります。

 なお、タバコは慢性呼吸障害のうち、肺気腫の原因になります。これがあると、排気がうまく出来ないので、特に高圧から圧力が下がってくる時に(海面に向かって上昇するときに)命にかかわるアクシデントが起きる可能性があります。
 また、ブラと呼ばれる肺の閉鎖腔がある人は、やはり、圧減少の際にそれが膨らんで周囲の正常の肺組織を圧迫し、死に至る呼吸不全を起こす危険があります。
 肺は予備能が大きいため、タバコを吸っていても、今は自覚症状がないかも知れませんが、肺は再生能はないため、症状が出たらもう後戻りは出来ません。
 禁煙はAquariumを水タバコにしないためにも(酸性のタバコの煙はアルカリのMarineAquariumに非常に良く溶けます)、安全なダイビングのためにも必要です。

 二酸化炭素以外の酸、重炭酸、リン酸、塩素イオン、などの不揮発酸の話を最後に付け加えておきます。不揮発酸が失われて血液がアルカリになる(代謝性アルカローシス)はあまり起こりませんが、長時間頻回の嘔吐、胃液吸引などで胃から塩酸が多量に失われると起こります。
 
 不揮発酸が排泄できなくなり血液が酸性に傾く状態(代謝性アシドーシス)は腎不全で起きます。腎は窒素を尿素として排泄したり、二酸化炭素以外の全ての酸と塩、水分を調節している器官です。腎がその働きを失うと、肺が過換気になって二酸化炭素をたくさんだし、pHを戻そうとしますが、腎不全では肺水腫も起こしていることが多いので、透析が必要になります。
 硝酸塩がたまってpHが常に酸性に傾き、水換えでそれを戻している従来システムの水槽は、いわば腎不全水槽です。従来濾過から窒素処理が水槽内で自然に出来るBerlinSystemなどのNaturalSystemへの移行は、透析を離脱でき健康を取り戻した人にたとえられるでしょう。

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