pH.KHとカルシウム

 pH、KHとカルシウムはリーフアクアリウムで高めの値を維持したい項目ですが、3者を同時に高くすることは不可能なため、悩むことがあります。ここでは、3者の関係について書いてみたいと思います。

A)質量作用則

 A+B⇔C+Dの反応系があるとき、AまたはBを加えればA+B→C+DとA、Bをへらす方向に反応が進み、逆にC、Dを加えればA+B←C+Dの方向に反応が進み、C、Dを減らそうとします。これが質量作用則です。
 緩衝作用も質量作用則によっておきます。

B)pH

 水素イオン濃度:[H+]はpHで示されます。pH=-log[H+]です。
つねに、log[H+]+log[OH-]=14という関係がありますから、pH8の時、[H+]は10-8mol/l、[OH-]は10-6mol/lで、水酸基イオンは、水素イオンの100倍存在します。
 pH8.6迄上昇してもサンゴには悪影響がありませんが。藻類は二酸化炭素を吸収できなくなり、消滅していきます。

C)KH

 炭酸塩硬度(Carbonate Hardness)KHはアルカリ量、酸中和能を示します。dKHを2.8で割れば、meq/lとなります。
pHとKH、空気中の二酸化炭素には以下の関係があります。
        pH=pK+log[HCO3-]/[H2CO3
          =6.1+log[HCO3-]/αPCO2
          =6.1+log(KH/2.8)/0.0301・PCO2・・・@
ここで、
pK:重炭酸イオンの等電点(H2CO3とHCO3-が等しくなるpH)
α:二酸化炭素分圧から、溶解するmeq/lへの変換係数(0.0301)
PCO2:空気中の二酸化炭素分圧
他のイオンの影響もありますので、これだけで、pHの計算はできませんが、@式から言えることは、pHとKHは空気中の二酸化炭素量に強く影響を受けるということです。換気が悪く、ヒトの呼気中のに酸化炭素で室内の二酸化炭素分圧が高いとpHは高くなりません。

 海水の標準的KHは8dKHです。6dKHまではハードコーラルは影響を受けませんが、やや石灰藻の生育は悪くなります。5dKHになったら補正をしないと急速にpHが低下することがあります。(後で述べますが、水酸化カルシウム添加以外の原因でKHが落ちたとき)


 CO2+H2O⇔H2CO3⇔H++HCO3-⇔2H++CO3--
と二酸化炭素はpHによってその存在形態を変えます。pHが8.5を越えて急に上昇するとと、カルシウム濃度が急激に下がるのは、CO3--が増え、これと沈殿してしまうためです。
     
 この理由により、高pH、高KHと高カルシウム状態はあり得ないのです。
(他の酸が増えたりしたときは、低pH、低KHと低カルシウム状態は起こり得ますが。)

D)カルシウム

 通常の海水には420mg/l含まれています。サンゴや石灰藻の吸収、プロテインスキマーによる回収によって、水槽中のカルシウムは徐々に失われていきます。このため、持続的なカルシウム補給がリーフアクアリウムにおいては必要となります。

1)Kalkwasserによって加える場合
 逆浸透膜などで処理した水1リットルに対して、1.26g以上の水酸化カルシウム:Ca(OH)2を溶かし、その上澄みを点滴投与する方法です。点滴投与する理由は、一気に加えると急激なpH上昇を招き、炭酸カルシウムの沈殿となってしまうためです。
 Kalkwasser投与により、高pHと高カルシウムがもたらされますが、KHはやや低めとなります。これは、カルシウムにより炭酸が少し沈殿してしまうためです。この時に、KH上昇剤を加えると今度はカルシウムの沈殿が増加し、カルシウム濃度を下げてしまいます。KHが6dKHぐらいまでは、KH上昇剤を使わない方が水質の急激な変動をさせずに済みます。なお、高pH、高カルシウムで低KHでは、空気中の二酸化炭素が海水に溶けやすくなりKHの下支えをします。(いわば、ヒトが、二酸化炭素補給装置の役目をします)

2)塩化カルシウムを加える場合
 塩化カルシウム単独で加えた場合、
              CaCl2+2H2O→Ca(OH)2+2HCl
              Ca(OH)2+H+HCO3→CaCO3↓(沈殿)+2H2O  という反応がおきます。
すなわち、塩化カルシウムの単独添加は、KHの低下と、塩酸負荷をもたらします。
 このため、塩化カルシムを加えるときは必ず、重量比、5倍の重炭酸ナトリウム(重曹)を加えます。これで、重炭酸を補給し、ナトリウムで、塩酸を中和するのです。
              NaHCO3+H2O→Na+OH-+H++HCO3-
 結果として、塩化ナトリウム、重曹併用法は塩化ナトリウムの持続的負荷をもたらします。ナトリウムも、塩素も海水中に多く含まれる元素ですので、すぐには水槽生物に影響を与えませんが、徐々に、イオンバランスを崩していきますので、特に換水量の少ない水槽では長期的には勧められないカルシウム補給法です。

3)カルシウムリアクターまたはプレナムから補給する場合。
 二酸化炭素が加えられたり(カルシウムリアクターの場合)、二酸化炭素が発生したりして(プレナム、モナコ式水槽の場合)、局所pHが低下するとそこの炭酸カルシウムはカルシウムイオン:Ca++と、重炭酸イオン:HCO3-となって海水中に溶けだしてきます。
これによって、カルシウムの補充と、KHの上昇(重炭酸イオンの補充)が図られる仕組みです。高カルシウムと高KHが得られますが、ややpHが低い傾向となります。特にプレナムやモナコ式では朝の一番pHが低いときは、pH7.8まで落ちますが、ミドリイシなどのハードコーラルの生育には問題はないようです。

 結論として、
a)低pH、低KHと低カルシウムが存在するときは、他の酸の産生など水槽システムに問題が生じている訳なので、早急な対処が必要です。
b)カルシムを加えてKHを下げ、それを上げようと重曹を加え、こんどはそれでカルシウムが下がり、またカルシウムを加えるということを繰り返すことがあります。炭酸カルシウムの沈殿の山を築くこの「クマさんのイスの脚切り」にはまってしまわないよう、各カルシウムの投与法による水槽特性をわきまえることが必要です。
                                                  
                                                   

                           cf.「pH、KHとカルシウム 補」